A.B.C-Z「F.O.R-変わりゆく時代の中で、輝く君と踊りたい。」インタビュー|戸塚祥太が語る新作とアイドル論

A.B.C-Zの約4年ぶりのオリジナルアルバム「F.O.R-変わりゆく時代の中で、輝く君と踊りたい。」が8月21日にリリースされた。

昨年末に4人体制での再スタートを切り、6月には新体制初作品となるシングル「君じゃなきゃだめなんだ」をリリースしたA.B.C-Z。アルバムにはこのシングルの流れを汲んだ、A.B.C-Zらしい王道のサウンドアレンジを施した楽曲が多数収録され、初回限定盤Bには各メンバーの個性があふれたソロ曲4曲も収められている。

音楽ナタリーではこのアルバムのリリースにあたり、メンバーの戸塚祥太にインタビュー。アルバム収録曲やソロ曲、さらに戸塚が日々考えているという「アイドルとは何か」という命題についてなど、さまざまな切り口からじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 真貝聡撮影 / 梁瀬玉実

1年間ずっと堪能できるアルバム

──新体制になり約半年が経ちましたが、ここまでを振り返ってどのように感じていますか?

それぞれが自然体で過ごせていますね。新体制だからと言って無理に変化をつけようとするのではなく、ナチュラルに変わっていけていると思います。

──最年少の橋本良亮さんは「4人体制になってから、自分の意見をどんどん言うようにした」といろんなインタビューでおっしゃっていますね(参照:A.B.C-Z「君じゃなきゃだめなんだ」インタビュー|4人体制初シングルに込めた、最年少センター橋本良亮の信念)。

そうですね。僕は、橋本くんが自分の考えを話してくれたりしてモチベーションを上げていく姿を見るのが好きなんです。それに、意見を出し合うという意味では橋本くんに限らず、各々が自分の考えを伝えてくれていて。その中で改めて、A.B.C-Zは事務所の先輩方から脈々と受け継がれているものを大事にしてるグループだなと感じています。五関(晃一)くんが言っていたんですよね。「俺たちはいわゆる“王道”じゃないといけない」って。具体的に言うと、デビュー前から歌ってきた「Vanilla」みたいな曲をやりたいと話していました。

──そうして新体制として歩み始めたA.B.C-Zが、4年ぶりとなるオリジナルアルバムをリリースしました。これがまた、とんでもなく濃度の高い1枚ですね。

これはすごいですよ、本当に。正直言ってこのアルバムは1年間ずっと堪能できる。それぐらい濃度が高いですね。

──「F.O.R-変わりゆく時代の中で、輝く君と踊りたい。」というインパクトの強いタイトルには、どんな意味があるのでしょう?

4人組の“フォー”でもありますし、“For me”なのか“For you”なのかはわからないですけど、「ファンの方のために」や「求められているところに」「自分たちが行きたいところに」など、いろんな読み解き方ができるタイトルですよね。あと、文法は違うかもしれないですけど「Future on ride=とにかく未来に乗れ」みたいなメッセージもこのアルバム名から感じました。

「F.O.R-変わりゆく時代の中で、輝く君と踊りたい。」初回限定盤Aジャケット

「F.O.R-変わりゆく時代の中で、輝く君と踊りたい。」初回限定盤Aジャケット

──アルバムの方向性について、皆さんで話し合われたことはありますか?

「こういうコンセプトでいこう」というのは、僕たちの中では明確に決めていなくて。「この曲がいい」「あ、この曲もやりたいね」と候補曲の中からみんなで選んでいきました。それぞれ雰囲気の異なる楽曲ですけど、アレンジでアルバムの統一感を出してもらいまして。むちゃくちゃおしゃれでカッコいい曲も、A.B.C-Zっぽい絶妙なバランスにしていただいたので、アレンジャーさんに感謝ですね。

自分たちのやるべきことは、こういうことなのかな

──リード曲でありアルバムのオープニングを飾る「Jigsaw」から最高でした。

おお! 最高でしたか。

──A-haの「Take On Me」のような1980年代っぽいシンセサウンドやディスコっぽい雰囲気など、懐かしさを感じるアレンジが皆さんの歌声にハマっていました。

うんうん、まさに「Take On Me」っぽさは僕もめちゃめちゃ感じました。シンセの音もそうですし、個人的にもこのビートやリズムが大好きで。ちょっと曇った感じのドラムの音も好きだし、歌っていて気持ちがすごくアガりますね。キラキラしつつも、時代性を感じさせるのがいいんですよ! この曲はダンスビデオもあるので、そちらも楽しんでほしいです。

──撮影は終わっているんですか?(※取材は8月上旬に実施)

はい。いい意味でシュールな感じです。スペイシーな世界観の中で4人がユニゾンで踊り続けるんですけど、振りは同じでも1回目と2回目で左右が違っているとか、随所に仕掛けがあるんです。観ていて癖になる動きがいっぱい詰め込まれていますし、1曲目からめちゃくちゃ中毒性がありますね。

──もう1つのリード曲「君の隣で目覚めたい」は、勢いのあるギターリフと力強くも艶っぽいボーカルのコントラストが印象的でした。

初めてデモを聴いたときから「すごくカッコいい! この曲は橋本くんが歌ったら絶対にカッコいいだろうな」と思いましたね。あと、デモの時点では歌詞がついていなかったんですよ。レコーディングが始まる直前に歌詞を渡されて。先行シングル「君じゃなきゃだめなんだ」からの「君の隣で目覚めたい」という、“君シリーズ”が奇跡的に生まれた。歌詞が乗る前は、別の曲をリード曲にする話が出ていたんですけど、土壇場で「君の隣で目覚めたい」になりましたね。

──曲調や歌詞についてはどんな印象を持たれましたか?

ストリングスのパートがすごく好きで。あまりにきれいだから、思わず意識がそっちに向いちゃって歌や踊りを忘れそうになります。「きれいな音だなあ……あ、踊らなきゃ!」って(笑)。ライブ本番でもそうなる可能性があるぐらい、聴き入っちゃいます。あと、ラストのサビで演奏の勢いが増していくのもいいんですよね。

──先ほど挙げられた「君じゃなきゃだめなんだ」は、新体制になって初めてのシングルであり、シングル曲としては初めてセンターのいないフォーメーションに挑んだ新しいA.B.C-Zを提示している楽曲です。その一方で「先輩から受け継がれたものを大事にしてる」とおっしゃったように、曲調はこれまで皆さんがバックを務めてきた先輩グループの雰囲気をまとっていて。

うんうん、そうですね。僕の中では“ハイブリッド歌謡曲”みたいな位置付けなんです。僕らの先輩方が歌ってきた普遍的なメロディやムードを踏襲しながら、現代の雰囲気も感じられる絶妙なトラックにしていただきました。なんか「自分たちのやるべきことは、こういうことなのかな」と思いましたね。MVも、昔の歌番組の世界観を表現しているんですよ。

──アイドルのメタを多分に含んでいますよね。

ああいった歌番組って、僕らの先輩たちから始まった文化でもあるし、言うなればテレビの文化でもある。そこも大事に表現しましたね。

古きよきアイドル像を体現することが正解

──ここ数年はK-POPを軸にしたアーティストが増えていて、アイドルではなく“ダンス&ボーカルグループ”を名乗る人たちも多くなりました。そんな中、A.B.C-Zは4人がジュニア時代から影響を受けてきた“日本のアイドル”という文化を引き受けているグループだと思うんです。

いよいよその段階に入ってきたのかもしれないですね。あんまりいないんじゃないですかね、今こういうスタイルでここまで振り切ってるグループって。

──「君じゃなきゃだめなんだ」のリリース時には「100%アイドル」と銘打ってプロモーションをされていましたね。

してましたね。「アイドルとは何か?」という命題については、このキャッチフレーズをいただく前から、ずっと考えています。でもいまだにわからなくて。僕は12歳ぐらいから今の事務所で活動していて「自分にとってアイドルとはなんなんだろう?」って、何千回も何万回も考え続けているけど、いまだにわからない。ただ、年々アイドルの形が変わってきている状況は確かにあって。例えば、今は自分たちでプロデュースしたり曲を作ったりしているんですけど、ひと昔前のアイドルはいただいたものに120%で応えるのが本懐だったと思うんです。

──自己表現よりも、求められているものをどう昇華するのかが大事だった。

そうです。僕はそのあり方も美しいなと思うし、そこを面白おかしく味わってほしいです。僕自身は「100%アイドル」と銘打っていることに、ずっと自問自答しながらやり続けている。でも、「君じゃなきゃだめなんだ」は楽曲もMVも、まさに古きよきアイドル像を体現していますから。きっとこれも正解のはずだと思っています。

戸塚祥太

戸塚祥太

──結成16周年を迎える皆さんが、改めて“アイドル”を掲げていることにグッとくるんですよね。

そう感じてもらえたらうれしいですね。僕の父はタイル職人で、1つのことをずっと続けている人なんです。そこに憧れがあるんです。でも、自分たちの場合は音楽をやらせてもらって、アルバムを出して、コンサートもやって。さらにその次は舞台やドラマで芝居をして、そのあとはまた音楽のことをやらせてもらったり、テレビのバラエティ番組に出させてもらったり……「1つのことを突き詰める」とは逆のことをやっている気がしていたんですね。でも、全部を120%でこなせていたら、それは1つのことをやっているのに近いというか。1つひとつのアプローチやガワの部分は違うかもしれないけど、全力投球の仕方さえ変わっていなければ、もはや職人と言っていいんじゃないか、と今は思えるようになってきましたね。

──どのタイミングでそう思ったんですか?

年齢で言うと20代後半かな? デビューして「役者になりたいな」とか「シンガーになりたい」「ダンサーになりたい」と思い続けていたけど、「結局何にもなれないな」とずっと考えていて。まあ、そんなの自分で決める必要はないですしね。見てくれた方が決めてくれればいいので、自分で制限とか枠を設けずにやっていくほうが楽しいかなと思ったんです。あ、今「F.O.R」の意味がもう1つ思い浮かびました! 「Free or rule」。このどちらかなら、僕はフリーのほうを取りますわ。ルールを外して生きていきます。

「Jigsaw」と「君の隣で目覚めたい」の二面性

──アルバムの話に戻すと、今回の作品は全曲がシングル級の楽曲ですよね。

うん、本当にそう思います。

──その中で「Jigsaw」と「君の隣で目覚めたい」をリード曲にされたのは、どういう意図があったのでしょう?

全13曲の中でも、特にフックの強い2曲ということですね。自分たちのA面としては「君じゃなきゃだめなんだ」で掲げた路線で戦ったほうが、リスナーの方とより強い信頼関係を築けると思っていて。そういう意味で「君の隣で目覚めたい」は、今作のリード曲として間違いない。そんな中で「『Jigsaw』みたいなシュールな世界もできますよ」「どっちの味もあります」ってことですね。「100%アイドル」とは言いつつ、この4人って意外とシュールなんですよ。特に五関くんはシュールの権化ですから。

──A.B.C-ZのYouTubeチャンネルで公開されているショート動画でも、五関さんはその権化っぷりを炸裂されていますね。

ハハハ、何をやっても面白いですから。ゆるっとサラッとしていて、あの抜け感はすごいです。話がズレちゃったけど、このアルバムは本当に全曲がシングル級ですよ。それこそカート・コバーンがNirvanaの2ndアルバム「Nevermind」を作ったときに、「失敗した」と思ったらしいんです。「このアルバムに入ってる曲は全部シングルで出せたレベルだから、このアルバム1枚にまとめないで小出しにすれば、もっといっぱいアルバムを作れたのに」みたいなことを言っていましたけど、それとまったく同じ気持ちですね(笑)。

──ちなみに、収録曲の中で戸塚さんが特に好きな曲は?

「Red Bee」ですね。デモを聴かせてもらったときから、とんでもなくおしゃれでカッコいい曲だなと思いました。最初は超現代的なサウンドだなと思ったんです。King Gnuが歌っているイメージが湧いたんですけど、最終的にはアレンジのおかげもあって「しっかりとA.B.C-Zの色になっているぞ」とびっくりしましたね。すごくカッコいいけど、そこに若干の温かみとか懐かしさもある。僕は「幽☆遊☆白書」のアニメが大好きで、馬渡松子さんが歌うオープニングテーマの「微笑みの爆弾」を聴くとすごくアガるんですよ。それと近い気持ちのアガり方をさせてくれるのが「Red Bee」ですね。ちなみに、どの曲がお好きでした?

「F.O.R-変わりゆく時代の中で、輝く君と踊りたい。」通常盤ジャケット

「F.O.R-変わりゆく時代の中で、輝く君と踊りたい。」通常盤ジャケット

──僕は「怪奇な美少女」が大好きでした。

めちゃめちゃいいですよね! 本当にカッコいいなと僕も思ってるんです。いっそのことAIで“怪奇な美少女”のキャラクターを作ってほしいですもん。

──アニメ作品に仕立ててもハマりそうですね。

そうそう! フィギュアも欲しいし、それぐらい「怪奇な美少女」にはずっと心を打たれていました。曲名を見た瞬間は「なんだこれは!」と驚いて。おふざけソングというか、ちょっとネタ寄りな、インパクト重視の曲なのかな?と思っていたんですけど、実際は落ちメロとかめっちゃカッコよくて。すっごくいい曲ですよ。

──歌詞カードに載っていない、最初のタイトルコールからカッコいいですもんね。

あそこもいいですよね。ライブ中にファンの人が曲に合わせて「スリラー」っぽい振りをしていても面白いなって。そういう画も浮かぶくらい、僕たちも聴いている方もハッスルできる曲ですね。

2024年8月30日更新