「漣蒼士に処女を捧ぐ~さあ、じっくり愛でましょうか」は内気な処女のOLと、彼女が旅先で出会った謎のヤクザが織りなすティーンズラブ。コミックシーモアで先行配信されており、単行本は2巻まで発売中だ。また“僧侶枠”の愛称で親しまれるAnimeFestaの新作としてアニメ化され、4月より放送されることも決定している。
本作がアニメ化で注目が集まっている今、コミックナタリーでは作者の村上晶にインタビューを実施。ヤクザものというジャンルへの挑戦、キャラクターに込めたフェチズム、ティーンズラブを描くうえでの面白さについてなどじっくり話を聞いた。
取材・文 / 三木美波
“カタギ”の意味すらわからない私がヤクザを描くという挑戦
──「漣蒼士に処女を捧ぐ」のTVアニメ化、おめでとうございます!
ありがとうございます! 応援してくださっている読者さんに楽しんでいただけたらうれしいです!
──“凄艶”という言葉がピッタリのヤクザ・蒼士と、自分に自信のないOL・凪沙の物語はどのようなきっかけで生まれたのですか?
編集さんから「ヤクザものを描きませんか」とご依頼いただきまして。私は基本的に、お仕事のマンガに関しては出版社の要望を優先しています。というのは、私は読者さんが本当に大好きで、読者さんが求めるものを描きたい。そして出版社が求めるものが読者さんが求めるものだと思っていて。「漣蒼士」に関しては私のきらびやかな画面の作り方とか、ドラマチックな演出がヤクザの物語に合うというお話を編集さんからいただいて、「じゃあ描いてみよう」と。
──編集からの要望を形にされたんですね。
はい。ただ、やっぱり私の好きなものを織り込んだほうが面白くなると思うので、担当編集さんとお互いすり合わせをしながらマンガを作り上げています。例えば私はオラオラ系よりは、スマートでカッコいいキャラクターのほうが好みでして。
──だから蒼士が敬語を使う紳士的なヤクザに。
アウトローな職業と敬語のギャップがいいかな、と。凪沙がいないところではオラついていたり、態度も違ったりすると思うんですが、凪沙や読者さんの前では紳士でいるところが蒼士の魅力だと思ってます。
──ヤクザにはお詳しいんですか?
それが全然……! 1巻のあとがきにも書きましたが、「ヤクザを描きませんか?」と言われて最初は「無理です」と即答したくらい(笑)。
──「私にとってかなり挑戦的な作品」とも書かれていましたね。
ヤクザを描くことは本当に「挑戦」の一言に尽きます。ほぼ無知な状態だったので、いろいろ見て勉強するところから始めました。物語で描かれるヤクザってファンタジーだと思っているのですが、それでもやっぱり挑戦という気持ちです。「カタギ」って言葉一つとってもわからなくて。
──確かによく聞く言葉ですしなんとなく意味もわかりますが、改めて問われると……辞書を引いたところ、漢字だと「堅気(かたぎ)」でした。「やくざなどと違って、遊興・投機などをしたりしないで、地道な職業についていること」(※新明解国語辞典より引用)。
最初は本当にそのラインからわからなかったんですが、普通のOLである凪沙もきっとこういう感覚だろうという気持ちで描いてます。
凪沙は髪に感情を乗せ、蒼士は手で色気を醸す
──「漣蒼士に処女を捧ぐ」を読んでいると、凪沙や蒼士から村上さんのフェチズムを感じます。
あはは(笑)。凪沙は私が好きな女性像を詰め込んだんです。ウブで、前向きで、元気で健気。ビジュアル面でも好みが反映されていて、ちょっとむっちりとした感じの、触ったら柔らかそうな肉感の女の子にしました。
──凪沙の耳にかかる髪の質感とかもすごく柔らかそうで。
わ、うれしい! 髪はすごく大事に描いてるんです。髪の流れや動きは表情の一部だと思ってるので、そこでも凪沙の感情を表現したくて。髪をパッと揺らすことで驚きを表現したり、ベッドに押し倒されたときに流れる髪でより色っぽい雰囲気にしたり。
──村上さんの描くキャラクターは、モノクロでもきらびやかで色が付いているように見える気がします。
「色が見える」って読者さんからも言われたことがあります。私としてはモノクロ原稿で色を見せるように描いている自覚はないんですが、そう言われるとうれしいですね。
──色付いて見えるのと通底してるのかもしれませんが、アイシャドウや口紅などのメイクをしているような、華やかな感じもあって。
もともとメイクが大好きで、「恋とセックスはタッチアップの後で 心も体も快くしてあげる」(以下、「恋タチ」)というメイクやコスメをテーマにした作品も描いてるんです。潜在的にお化粧が大好きな気持ちが伝わっているのかもしれないですね。そういえば単行本3巻の表紙で凪沙がネイルアートをしているんですが、めちゃくちゃ描き込んでます。拡大しても何も見えないんですけど、もう自己満で(笑)。
──神は細部に宿ると言いますからね。蒼士はどんなことを意識しながら描いているんですか?
めちゃくちゃ色気を重視しています。常にそういうことを匂わせるくらいの感覚で描いていて。いろいろありますが、特に手の仕草ですね。
──蒼士の手の甲に血管が浮いている描写や筋張っているところ、色っぽいなと思って読んでました。
私も「エッチだ!」と思いながら描いてます(笑)。手をなるべく画面に入れようと担当さんとも話し合ってて。私自身が手フェチというのもありますが、色気のある表情や仕草を描くシーンでは、自分でもエッチだと感じる描写を心がけてるんです。そう描いたほうが読者さんに伝わると思うので。
──前髪を下ろしたときや、ちょっとした目線もセクシーですよね。
あ、読者さんからも前髪を下ろしている蒼士が人気です! それに私はメンズメイクも好きなので、蒼士の目もそこを少し意識しています。そういった描写も色気につながってるかもしれないです。
──基本はスーツですが、たまに着る和服も印象的です。
女性キャラクターの洋服や髪型が変化する作品って多いんですが、男性キャラクターは少ないなと思ってまして。私がファッション大好きというのもあるんですが、男性だって髪型や洋服でいろいろ変化を見せたらそれがギャップや魅力につながって、ヒロインにも読者さんにも新しい一面を見せていける。なるべく飽きさせないよう、新しい魅力が伝わるよう工夫しています。
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読者さんへの愛は蒼士くらいにドチャクソ重い