コミックナタリー PowerPush - 「映画ドラえもん」35周年

とよ田みのる&石黒正数が語る「私とドラえもん」

石黒正数インタビュー

僕のマンガは藤子・F・不二雄が父で、大友克洋が母

──まず石黒先生と「ドラえもん」の出会いからお聞きしたいのですが。

僕の場合、「ドラえもん」や藤子作品が好きというか、もちろん好きなんですけど、生まれたてのひよこが初めて見たマンガが藤子・F・不二雄だった、という刷り込みみたいな感じで出会ったんですよ。初めてマンガ本を買ってもらう機会に「ドラえもん」を選んで。本の形をしててコマ割りのある分厚い単行本、あれとの初めての出会いが藤子・F・不二雄でしたね。僕のマンガは藤子・F・不二雄がお父さんで、大友克洋がお母さんなんです。それくらい根っこのところで影響を受けてる。子は親を選べないし、基本的に親が好きで当たり前なので、藤子・F・不二雄が好きだし影響を受けている、って感じなんですよ。

──世代的に、選択肢として完全に用意されたものであった。

石黒正数

ええ。あと親が買ってくれやすかったというのもありますしね。……先ほど藤子・F・不二雄を父と例えましたが、実は1回、中学生の頃に反抗期が来るんです。

──ええ。

僕が小学生の頃ってジャンプ全盛期だったんですよ。「ドラゴンボール」「シティハンター」「北斗の拳」などなど。そっちには目もくれず、藤子・F・不二雄ばっかり読んでたんですよ。僕の性格もあると思うんですけど、一度ハマったら気が済むまで掘り下げるタイプなもので。それで完全に藤子・F・不二雄を掘り尽くしたなっていう頃に中学生になって、反抗期が来るんですよ。マンガとしては真逆の大友克洋にハマって。「藤子・F・不二雄のマンガなんて子供向けじゃん」みたいな、反抗的な態度を取ってました。

──時代的にはジャンプがすごくデカかったと思うんですけど、そこを飛び越えての大友克洋。

そうなんです。中学生までは藤子・F・不二雄、中学生から大学生までは大友克洋。で、大人になってまた藤子・F・不二雄に戻ってきましたね。

知らんうちにSFの文法を叩きこまれていた

──藤子作品にはSFとしての面白味があると思うんですが、子供の頃に見ていた感覚と、いま冷静に振り返ってみた感覚は違いますか。

子供の頃は完全に“ドラえもん劇”として読んでました。ただ「面白くてためになる」じゃないですけど、知らんうちにSFの文法を完全に叩きこまれていたことに後々気付くんですよ。

──後にSFを読んだときに「なるほど」と。

「ドラえもん」1巻 ©藤子プロ・小学館

ええ。「ドラえもん」ってギャグマンガでもありますけど、SFショートショートなんですよね。よく「ドラえもん」の設定を現実に持ってくる人がいるじゃないですか。のび太が甘ったれだから、ドラえもんがすぐ手助けするから成長しないとか。でもあれはショートショートをやる舞台装置でしかないんです。そこにそんな理屈を持ち出してくる人は、ショートショートを読む態勢ができていない。悪い意味で、マンガと現実の区別がついていないんですよ。

──なるほど。装置としての配役、設定みたいなものがあって、それがハマっているからこそ、そのパターンでいくつもの作品が生み出されてきた。ひみつ道具を出すロボットがいて、弱者がいて、暴力的なものがいて、お金持ちがいて、ヒロインがいる。

そうそう。だからのび太は普通以下じゃないとダメなんです。力もない、お金もない、モテない、勉強できない、家に帰ればこき使われるっていう、あらゆる面において劣等感のあるキャラクターでなければいけない。だからこそのけ者にされ、どうにもできず「ドラえもん!」って泣いて帰るところに逆転の兆しがあって、マイナスの人物が大きな能力を得て、調子に乗った挙句にSF的なしっぺ返しを食らうっていうスタイルなんですね。

マンガ然としたものを描く誇り

──石黒先生はFライフ(小学館)で「エスパー魔美」のトリビュートマンガを描かれてましたけど、「ドラえもん」設定で何か考えたことはありますか?

石黒がトリビュートマンガを寄せたFライフ3号。

「ドラえもん」設定はないですねー。自分の中の「ドラえもん」のハードルが高すぎて、おいそれと道具を考えられないんですよ。小学生の頃に「笑ゥせぇるすまん」のオリジナルマンガは描いたことありましたけど。

──「ドラえもん」って設定がはっきりしてるだけに、トリビュートとしてはやりやすいのかと思いましたが、ハードルが高いんですね。ちなみに石黒先生が「ドラえもん」から一番影響を受けている部分ってなんですか?

テンポとか、セリフ回しとか、ありとあらゆるところで影響を受けてますね。最近、再度気付いたことがあるんですけど、マンガの歴史って、トキワ荘時代のマンガから、いったん劇画を経てるんですよ。マンガの反抗期が、僕は劇画だと思ってるんですけど(笑)。劇画が流行ったときに捨ててしまった表現が結構あって。例えば怒った感情を表す血管マークだったり、シュッて湯気が出たり、あとはたんこぶとか。劇画でたんこぶって、あり得ないじゃないですか(笑)。

──ええ。

ああいうものを僕がマンガに使うのは、たぶんF先生の影響だと思います。マンガ然としたものを描く誇り、というか。映画みたいなマンガを選んだ人もいるし、絵本のようなマンガ、アニメのようなマンガを選ぶ人もいますが、僕はマンガっぽいマンガを選んだ。マンガというジャンルで、マンガっぽいもので勝負するのは、結構勇気がいるんですよ。ただ藤子・F・不二雄はまさにそこで勝負していた人なので、僕もできるならそうしたいなと思ってます。

──それと同じものをなんとなく、石黒先生が影響を受けているという小原愼司先生にも感じます。

僕は小原さんの影響をめちゃくちゃ受けましたけど、小原さんは元々藤子・F・不二雄の影響を受けているし、僕も藤子・F・不二雄の影響を受けているし、要するに親が一緒なんだと思います。

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とよ田みのるインタビュー
石黒正数インタビュー
「映画ドラえもん」全35作品を一挙配信
映画ドラえもん×ビデオパス 「映画ドラえもん」全35作品を「ビデオパス」で独占配信中!
「映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」2015年3月7日(土)全国ロードショー
「映画ドラえもん のび太の宇宙英雄記(スペースヒーローズ)」

ある日、テレビのヒーローに憧れたのび太は、みんなでヒーロー映画を作ろうと言い出す。ドラえもんは、ひみつ道具〈バーガー監督〉を出して、のび太たちが「銀河防衛隊」というヒーローになって宇宙の平和を守るという映画を撮影し始めた。ところがその時、地球に不時着していたポックル星人のアロンに、本物のヒーローと間違われて一緒に宇宙へ行くことになってしまう……。ポックル星は一見楽しそうな星に見えたが、実は宇宙海賊のある恐ろしい計画が進行していた。このままではポックル星が滅んでしまう。ドラえもんたち「銀河防衛隊」は、本物のヒーローになって、ポックル星を救うことができるのか!?

石黒正数(イシグロマサカズ)
石黒正数

1977年福井県生まれ。2000年、アフタヌーン秋の四季大賞にて「ヒーロー」が四季賞を受賞し、同作がアフタヌーンシーズン増刊(講談社)に掲載されデビュー。何気ない日常の風景からドラマを紡ぐ、ストーリーテリングの手腕で好評を得ている。代表作に「それでも町は廻っている」「木曜日のフルット」「ネムルバカ」「外天楼」など。