「BURN THE WITCH」久保帯人(原作者)×川野達朗(監督)対談|久保帯人の“王道“を征く新作を気鋭の監督はどうアニメ化したのか?約1万4000字の大ボリュームで語り合う

メイシーはヤベー奴

──逆に監督が原作を読んで、「ここを映像化するのが楽しみだな」と思ったのはどの部分でしょう。

メイシーの独白シーンより。アニメオリジナルで、ライブの舞台裏での演出が付け加えられている。

川野 自分がコンテを担当したところだけで言ってしまうと、タワークレーンの上でメイシーが独白するシーンですね。原作ではけっこうちっちゃいコマでトントントンとテンポよく描かれていたんですが、僕はライブの舞台裏のトイレっていうロケーションを入れたりしたんです。

久保 ああ、確かに入っていましたね。

川野 原作で大ゴマになっているシーンはそれを元にきれいに作るという感じなんですが、小さなコマで解釈の余地があるところは凝っていて。メイシーの独白シーンも割れた鏡に写っている顔をずらすなど、妙にこだわりました。

久保 確かにあのシーンはマンガで表現するのも難しかったんです。基本的にメイシーってヤベー奴で、「背が高くて、メイク映えして、ダンスも上手いってだけでこんなことさせられて……」みたいな悩みって、そういうのに憧れてる人からしたらただの自慢話なんですよね。読者からしたらぜんぜん共感できない話なんですけど、なんとか共感してもらわないといけない。マンガのほうでコマを大きくしてシーンを強調しちゃうと、「こんなことで悩んでてなんなの」みたいな感じになっちゃうんじゃないかと思って、コマの小ささでメイシーの心細さを表したんです。だからここのアニメのオリジナル演出は面白かったです。

川野 なるほど、コマが小さいのにはそういうロジックがあったんですね。

「BURN THE WITCH」場面カット

久保 その後に大きなシーンがくるので、その溜めみたいな意味合いも含まれていましたね。

川野 実は僕も一貫してメイシーはヤバい奴っていう解釈だったんです。これは完全に自己解釈ですけど、エリーとの回想も嘘というか彼女が都合よく捉えてしまっているだけなんじゃないかと思っているんですよね。すごくうれしそうに笑っているカットとかもあったじゃないですか。あれもエリーがメイシーに寄り添っているのはたまたまだし、足の上に顔を乗せているのもただ暖かいから来ているだけなんじゃないかって。そういうたまたまが積み重なっているだけなんだけど、メイシーが勘違いして依存していったんじゃないかって思っていたんです。だからメイシーが手を差し伸べたときにエリーが逃げているシーンがあったりするんですけど、あれは実は懐いていないっていう表現のつもりだったんですね。そういう自己解釈を入れたりしていました。

主題歌はニニーが歌っているように聞こえてほしい

──「BURN THE WITCH」のBlu-rayが12月24日に発売されますが、コレクターズエディションと特装限定版にはNiLさんが歌う主題歌「Blowing」などを収録したサントラも付属しますね。主題歌の選定にも久保先生が深く携わっていると伺っているのですが。

「BURN THE WITCH」場面カット

久保 深いというほどの話ではないんですけど、曲とボーカルの方の候補を出していただいて、その中でどれがいいかを決めたっていう形です。これに関しても基本的には監督や音響監督が推していたものと一致していたので、すんなり決まりましたね。

川野 アーティストに関しては、僕から「ニニーが歌っているように聞こえてほしい」とオーダーしていて。最終的にできあがったものも田野さんの声にちょっと似ていますよね。

久保 実は僕も「田野さんが歌えるなら田野さんでもいいんじゃない?」という話をしていたんです。最近になって田野さんも歌えるってことをようやく知ったんですけど(笑)。

川野 田野さんにも「ニニーに聞こえたらいいなって思ってボーカルを選んだんです」って言ったらすごく喜んでいました。

──NiLさんは「『BURN THE WITCH』の世界観をサウンドから具現化するために結成された音楽ユニット」とのことですが、情報が出ていない分、謎が深まっているというのもありますよね。もう1点お伺いしたいことがあって、Blu-rayの冊子に掲載された監督へのインタビューで「劇中のステンドグラスに伏線がある」とおっしゃっていたじゃないですか。聞いてしまうのは野暮かもしれないんですが、あれってどういうものなんでしょう。

ステンドグラスには童話「シンデレラ」を彷彿とさせるイラストがデザインされている。

川野 大した伏線ではなくて、劇中にシンデレラというドラゴンが出てくるからステンドグラスにシンデレラが描かれているということです(笑)。原作を知っている人にとってはそのままの意味というか。

──ああ、やっぱりそういうことなんですね。

久保 ただ、あのステンドグラスって今年の3月に公開されたティザー動画にも映っているんです。3月ってまだ原作も発表前で、シンデレラというドラゴンが出るというのは一般の方は知らない時期だったので、その時点では本当の意味で伏線だったとも言えるかもしれません。

「Coming Soon…」じゃないかもだけど……

──では最後に「BURN THE WITCH」のBlu-ray発売、そして制作が決定している原作のSeason2に向けて、おふたりからファンの方々にメッセージをお願いします。

川野 じゃあ僕はBlu-rayに関して。もう配信や劇場で観られた方も多いかもしれないですけど、まさに今話に出たような特典もいろいろと付いていますし、そういうのも含めて「BURN THE WITCH」を楽しんでいただければ。ぜひ買ってください!

「BURN THE WITCH」Blu-rayコレクターズエディションに付属する、久保帯人描き下ろしイラストを使用したボックスのジャケット。

久保 「BURN THE WITCH」って原稿自体は2019年の後半、暮れくらいにはできあがっていたんですけど、その時点ではカラー部分は描いていなくて。カラーの仕事をやろうって頃に新型コロナウイルスが流行して、アシスタントも呼べない状況になっちゃったんです。そのときに致し方なくデジタルを始めて、途中までアナログで描いたものにデジタルで色を足したりしたのが連載版のカラーで、初めてフルデジタルで描いたのがこのBlu-rayのボックス用ジャケットだったり特典のイラストカードだったりするんです。だから当時は「これはちゃんと描けてるのか?」と思いながらやっていて、すごく不安でした(笑)。

──これまでは全部アナログだったんですか?

久保 すべてアナログですね。デジタルをやることはないだろうと思っていたんですが、実際にやってみると知らないことばっかりだから楽しいんですよね。そういう楽しみと不安の間で描いたデジタルのイラストをぜひ見てください。あとはSeason2は……担当から「Season1の最終話が載るジャンプの予告部分に、どうしてもちょっとだけSeason2のネームを載せたいんです」と言われて、「じゃあちょっとだけ描くよ」って5、6ページくらいネームを描いたんですよ。そうしたら勝手に「Coming Soon…」って書かれて(笑)。

担当編集 一応校了の前には先生にお見せして(笑)。

「BURN THE WITCH」場面カット

久保 見たけどさ(笑)。「『Soon』じゃないんだわ!」って思いながら。

川野 僕もあれを見て、「先生やる気あるな」と思っていました。

久保 Twitterとかでも「きっともう描き始めているんだ!」っていう雰囲気になっていて。「『Soon』って描くからじゃん!」って思ったんですけど。だから「Soon」ではないかもしれないんですが、気長に待っていただければうれしいです(笑)。