劇場OVA「あさがおと加瀬さん。」が、6月9日より期間限定で劇場公開される。原作は高嶋ひろみが「ピュア百合アンソロジー ひらり、」にて発表し、現在はウィングス（いずれも新書館）で連載している女子高生2人の青春劇「加瀬さん。」シリーズ。2017年5月には佐藤卓哉が監督を務める本作のアニメーションクリップがYouTubeにて公開され、この反響を受け同じメインスタッフによる劇場OVA制作が実現した。

コミックナタリーでは劇場OVAの公開と、原作の最新巻「さくらと加瀬さん。」の発売に合わせ特集を展開。OVAで山田結衣役を務める高橋未奈美と加瀬友香役の佐倉綾音、そして本作でも描かれる“女性から女性への恋心”に理解があるという最上もがの座談会をセッティングし、できあがったばかりの本編を視聴してもらった。本編の感想や原作への印象、また3人が考える女性同士の恋愛ならではの魅力とは？ 最後にはフォトギャラリーも用意したので、併せて楽しんでほしい。

なお劇場OVAのストーリー本編に関する内容も含まれているので、鑑賞前にネタバレを見たくない方はご注意を。

取材・文 / 増田桃子　撮影 / 佐藤類

無言でニヤニヤしちゃいます（最上）

──「あさがおと加瀬さん。」のOVAが、6月9日より期間限定で劇場上映されます。今日は皆さんに完成したばかりの映像を観ていただきましたが、いかがでしたか？

高橋未奈美　なんか、最上さんと一緒に観るのちょっと恥ずかしかったです……自分の恋愛を見られているようで（笑）。

佐倉綾音　確かに。私たちも完成したものを観るのは今日が初めてなので、いつもより緊張しました。

最上もが　そう言われると、ぼくも初々しいカップルの隣に居合わせたみたいな恥ずかしさが……（笑）。

高橋・佐倉　あはは（笑）。

最上　無言でニヤニヤしちゃいますよね。なんなんですかね、この感じ（笑）。

高橋　改めてじっくり観ると、ちょっと照れくさいです。

最上　今日初めて観たってことは、おふたりは映像が完成する前に声を入れてらっしゃるんですよね？ アニメって完成した映像の動きに合わせてアフレコをするものだと思っていました。逆に、映像を声に合わせたりもするんですか？

佐倉　そうですね、色が着いていない制作途中の映像に声をあてることも多いです。後から声に映像を合わせて完成させる場合もあるんですけど、制作会社さんがカットごとに違ったりもして……。

高橋　いきなりアニメ業界の深い話をしてる（笑）。

最上　面白い！ 本当はやっぱり、映像が完成してからアフレコするのが理想ですか？

佐倉　それはそれでまた違う難しさがあったりするんですよ。

高橋　でも「あさがおと加瀬さん。」は制作陣の作品に対するイメージが最初からすごくハッキリしていて、「ここはこうしたい」とか「ここはこうしてほしい」って細かく指示を入れてくださったので、やりやすかったですね。

原作の雰囲気をそのままにアニメ化してくれた（佐倉）

──ではまず、観ていただいた率直な感想を聞かせてください。

最上　もう冒頭から音楽と映像がすごくきれいで、ほっこり癒されました。

高橋　わかります！ 絵が本当にきれいなんですよ。水彩っぽくて、淡くてやわらかい、優しい感じですよね。そこに音楽が相まって。

最上　でもなぜだか泣きそうになるんですよね、「ああ、青春ってこんな感じだよね……！」みたいな。まあ、ぼくにはこんな青春なかったけど（笑）。

高橋　（笑）。でも本当に原作のいいところが映像にもしっかり凝縮されていて。完成したものを観させていただいて、この作品に参加できてうれしいって改めて思いました。

佐倉　私はもともと原作を読んでいたので、この作品をどうアニメ化するんだろうなと思っていて。最近のマンガ原作って、アニメはアニメで独立したコンテンツにしましょうというパターンも多いですけど、「あさがおと加瀬さん。」は、本当に原作の雰囲気がそのままにアニメ化されたと思います。スタッフさんも原作に対する愛情をしっかり持っている方々ばかりだったので、ちゃんと映像に残すぞっていう心意気を感じられる現場でした。それが作品にもきちんと反映されていて、それって本当に幸せなことですよね。

「いい恋愛マンガだったなあ……！」って（高橋）

──皆さん、原作についてはどんな印象をお持ちですか？

最上　ぼくはアニメになる前から原作を読んでいたんですけど、まったく嫌味のない百合マンガだなって。女の子同士っていうこと以外、普通に恋愛をしている女の子たちを描いてるところがいいなと思いました。同性愛って、まだまだ世間的には偏見もあるし、それこそいじめの原因になることもあると思うんですけど、そういう描写が一切なくて。純粋に山田と加瀬さんの恋模様を見ていて楽しめるし、彼女たちも楽しそうで。

佐倉　確かに、そうですよね。クラスに女の子同士のカップルがいても、生徒たちが噂したり騒いだりすることもないし。

最上　恋愛のすれ違いはあっても、第三者が関わってきて揉め事が起きるとか、ややこしいトラブルが起きることがないし、ライバルもいるようでいないし（笑）。観ててほっこりします。山田の、自分の気持ちに素直に恋をしている感じがすごくいいんですよ。

高橋　確かに偏見もないですよね。「女の子同士なんてよくない！」みたいな展開にもならないし。私はオーディションを受けるときに初めて原作を拝読したんですけど、今までいわゆる“百合”と言われる作品を読んだことがなかったので、「お、百合か」と少し意識しながら読み始めたんですが、読み終わったときは「いい恋愛マンガだったなあ……！」って（笑）。

一同　（笑）。

高橋　女の子同士の恋愛だったなってことを忘れさせてくれるくらい普通に恋をしてて。私、少女マンガが大好きなんですが、百合も同じ恋愛マンガなんだなって気付かされましたね。

佐倉　すごくわかります。彼女たちって普通に恋をしているんですよね。相手が女の子とか関係なく。またそれに対して騒ぎ立てたり暴き立てたりするような外野も出てこないから、こっちも安心して肩の力を抜いて読めるのかなと。かと言ってただの日常系というわけではなく、ちゃんとストーリーもあって、彼女たちが悩みを乗り越えて、成長していく姿も描かれている。もっとスキャンダラスな描き方も、しようと思えばできたと思うんですけど、あえてやらないところに高嶋（ひろみ）先生のポジティブなパワーが溢れているなあと思いました。

最上　最初にちょっとだけ山田が「女の子が好きなんて、おかしいのかな？」って悩むけど、それも一瞬で。気持ちに気付いたらもう全然気にしてないっていう（笑）。

佐倉　悩みの解消が早かった（笑）。

最上　「付き合えるの!? わーい！」って。

高橋　ヘンに悩んだり葛藤したりしないのが山田のいいところ（笑）。