初音ミク10周年特集|和田たけあき(くらげP)|「むしろ2012年の状態が異常だった」シーンを見つめ続けたボカロPが考える衰退論の真相

初音ミクの10年 ~彼女が見せた新しい景色~

上がいなくなるってことは下にチャンスができるわけで

──和田さんは2010年に初投稿して以来、今までボカロシーンの中にずっと居続けたわけですが、その期間中のシーンの状況をどのように見ていましたか?

正直、内側から見てるぶんにはずっと印象は変わってないです。確かに、デビューする人の数が増えたりとか、メディアミックスが盛んに行われたりとか、そういう盛り上がりは2012年にすごかったんですけど、それも中にいるとあまり関係なくて。新しいカッコいい人たちがどんどん出てきて、やめていなくなる人たちもいて、の繰り返しですね、ずっと。

──例えば、2013年から2014年にかけて、再生数がミリオンに達するボカロ曲が激減したという話もあります。その時期もシーンの内側から見て特に印象は変わりませんでしたか?

和田たけあき(くらげP)

それ、ホントにわかんないんですよ。当時ほかの人が作った曲はもちろん聴いてたけど、その再生数がどのくらい伸びてるかなんて気にしてなかったし、ランキングをチェックするようになったのも自分がランクインするようになってからなので。ちなみに自分の曲の再生数はずっと横ばいで、むしろ2014年末から少しずつ増えてきたから、周りが「ボカロシーンが衰退した」みたいなことを言ってるのを見て「えー? そう?」って思ってました。

──そうなんですね。衰退したと言われている時期って、BUMP OF CHICKENが初音ミクを使った「ray」をリリースしたり、レディー・ガガのワールドツアーでオープニングアクトとして初音ミクのライブが行われたりと、シーンの外側から見るとむしろ盛り上がっている印象だったんですよ。

そうかもしれないですね。まあ確かにこの時期、じん(自然の敵P)くんとか人気がある人があんまり投稿しなくなったっていう意味で、みんながちょっと淋しくなってたところはあると思う。でもすごく意地悪な言い方ですけど、上がいなくなるってことは下にチャンスができるわけで。

──確かに。

「ベテラン芸人がいつまでも引退しないから若手芸人に活躍の場がない」ってよく言われてますけど、2012年頃のボカロシーンはまさに、当時中堅Pだった僕からすると「上にいる人がフタをしているから新しい人にチャンスがない」という状況に見えてたんですよ。だからそれをもって“衰退”と言うのは逆で、むしろこれからどうなるのかが楽しみでした。

──音楽ナタリーの初音ミク10周年記念連載でwowakaさんとDECO*27さんの対談を公開しているんですが(参照:初音ミクの10年~彼女が見せた新しい景色~|wowaka(ヒトリエ)×DECO*27対談 ボカロシーンの牽引者たちが語る「あの頃、何が起こったのか」)、そこでwowakaさんは、自分自身の作風がヒット曲のテンプレートにされてしまった苦悩や、それによってある時期のボカロシーンに忌避感があったことを語っていました。当時同じシーンの中にいた和田さんは、これについて理解できるところはありますか?

対談読みました。何か1つ人気が出るとそれに似たものがたくさん生まれてしまう状況、自分も感じた部分はあります。wowakaさんもそうだったけど、僕がそれを一番感じたのはじんくんですね。あの頃カゲプロ(「カゲロウプロジェクト」)フォロワーがめちゃくちゃ大量に現れて、それに対して「つまんないなあ」っていう思いは正直ありました。だから僕は当時、カウンターのつもりで曲調や動画のテイストをどんどん大人しくしてたんです(笑)。でも、それでも僕はボカロシーンが嫌になることはまったくなかったですね。

10周年に対してはまったくなんの感慨もないです

──カウンターと言えば、和田さんのそのスタンスは初音ミクの発売10周年記念コンピ「HATSUNE MIKU 10th Anniversary Album『Re:Start』」にも表れている気がします。参加者の多くが10周年を多少なり意識した曲を提供している中で、和田さんは……。

まったく意識してなかったですね(笑)。単純な話、半分以上の人が10周年っぽい曲を作ってくるだろうなと予想してたので、10周年っぽい曲を作る人と作らない人がいるとしたら、自分の役割は作らないほうだと思って。

──それはなんとなくわかる気がします(笑)。

和田たけあき(くらげP)

2016年に「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」を出したのも、自分の中ではある種のカウンターだったんですよ。2014、2015年に活躍したn-bunaくんとOrangestarくんは、かつて僕がやりたかった情緒的なロックをやって人気になって、でも自分の曲はそれなりにしか評価されてなかった。それを目の当たりにして「僕は天才ではない」と改めて思い知らされたときに、「凡人の自分が人を楽しませるには、天才に対してカウンターでなければいけない」と思って、あえて当時の流行とは違う情緒的でない激しい曲を作ることにしたんです。

──コンピ収録曲は10周年を意識したものではありませんでしたが、そもそも和田さんの中に、アニバーサリーイヤーを迎えた感慨みたいなものはありました?

記念アルバムに参加させていただいておきながらすごく失礼な話なんですけど、僕は10周年に対してはまったくなんの感慨もないです。基本的に時間の節目に興味がないっていうのもあると思う。ただ、ボカロを始めたきっかけが「ミクフェス」だったので、初音ミクの公式のお仕事をさせてもらうのは夢の1つだったし、それは純粋にすごくうれしかったです。

V.A.「HATSUNE MIKU 10th Anniversary Album『Re:Start』」
2017年8月30日発売 / U&R records
V.A. 「HATSUNE MIKU 10th Anniversary Album『Re:Start』初回限定盤 」

初回限定盤
[CD2枚組+10周年記念イラストブック]
4212円 / DUED-1228

V.A. 「HATSUNE MIKU 10th Anniversary Album『Re:Start』通常盤」

通常盤
[CD2枚組]
3240円 / DUED-1229

Amazon.co.jp

DISC 1
  1. アンノウン・マザーグース / wowaka feat. 初音ミク
  2. ヒバナ / DECO*27 feat. 初音ミク
  3. ボロボロだ / n-buna feat. 初音ミク
  4. Initial song / 40mP feat. 初音ミク
  5. 大江戸ジュリアナイト / Mitchie M feat. 初音ミク with KAITO
  6. リバースユニバース / ナユタン星人 feat. 初音ミク
  7. 快晴 / Orangestar feat. 初音ミク
  8. それでも僕は歌わなくちゃ / Neru feat. 初音ミク
  9. ひとごろしのバケモノ / 和田たけあき(くらげP) feat. 初音ミク
  10. 君が生きてなくてよかった / ピノキオピー feat. 初音ミク
  11. 神様からのアンケート / れるりり feat. 初音ミク
  12. Steppër / halyosy feat. 初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、KAITO、MEIKO
DISC 2
  1. みんなみくみくにしてあげる♪ / MOSAIC.WAV×鶴田加茂 feat. 初音ミク
  2. Tell Your World / livetune feat. 初音ミク
  3. 千本桜 / 黒うさP feat. 初音ミク
  4. 初音ミクの消失 / cosMo@暴走P feat. 初音ミク
  5. ロミオとシンデレラ / doriko feat. 初音ミク
  6. 独りんぼエンヴィー / koyori(電ポルP) feat. 初音ミク
  7. カゲロウデイズ / じん
  8. from Y to Y / ジミーサムP feat. 初音ミク
  9. *ハロー、プラネット。 / sasakure.UK feat. 初音ミク
  10. BadBye / koma'n feat. 初音ミク
  11. オレンジ / トーマ feat. 初音ミク
  12. ハジメテノオト / malo feat. 初音ミク