ナタリー PowerPush - 柴山一幸×澤部渡(スカート)対談

時代を超えたソングライターの遺伝子

アナログとデジタル

柴山 今回のアルバム「サイダーの庭」は音の質感がガレージっぽいですよね。曲はポップなんだけど、すごくラフなガレージロックって感じがする。

澤部 ああ、今回は初めてアナログ録音をしたんですよ。吉祥寺のGOK SOUNDというスタジオで24トラックのアナログ録音。

柴山 Pro Toolsは使ってないの?

澤部 まったく使ってないですね。去年の「ひみつ」まではデジタル録音をしてきていて、このままずっとデジタルしか知らないでいくのはよろしくないんじゃないかって思って。一度ちゃんとアナログで録音してみたいなって思ったんですよね。「ひみつ」のときのボーカル録りなんて、けっこういくつもテイクを録って、いい部分を選んだりしていたんです。そういうやり方で作ったことに後悔はしていないんですけど、そういうことができないようなアナログレコーディングでやってみたくって。

柴山一幸

柴山 僕も8トラックのオープンリールで、シーケンサーと同期させて……ってことをやってきたことがあるんで気持ちはわかるな。「Everything」は鈴木博文さんとADATで録音しましたね。少ないながらもそういう経験をしてきているんで、最終的には感情的というか、レコーディングも気持ち次第なんだなって気がするんですよ。歌って日によって感じが変わってくるじゃないですか。曲を作り上げた瞬間に歌を録音するのもいいけど、2年くらい経ってからのほうがいいかもしれない。声を発して、マイクを通して、録音されるまでの距離が一番いいのってどういう瞬間なんだろう?って考えたりすることが、最近特に多いんですよ。そう思うと、デジタルとアナログの違いって最終的にはないんじゃないかなって思ったりもするんですよね。録音の仕方はあまり関係ないかもって。合理的なほうがいいからデジタルのほうがいいんじゃない?って思ったりもしますよ。家にデジタルの簡単な機材があれば、感情が沸き上がってきた瞬間にパッと録れる。そういう手軽さ、瞬間のよさみたいなのってあるんじゃないかなって。

澤部 なるほどー。僕は柴山さんと真逆で、手軽に録りたくなかったんです。なんでも簡単に直せちゃうのもどうなんだろう?って思ったんですよ。一発勝負の緊張感とか、大事じゃないかなあって。前のアルバムを作ったときなんかは、マスタリングの前日までキーボードのパートを直してたんですけど、今回はレコーディングの日までに全員がしっかりと仕上げてきて、その期間でしっかりと録音するんだっていう心意気で臨みましたね。

柴山 面白いね。本当にまったく逆なんだ。最終的にいいものにしたいって気持ちは同じなんだろうけどね。

澤部 実際にアナログ録音をやってみて、フェーダーの上げ下げだけで、言ってしまえば耳で判断するわけじゃないですか。そこはやっぱりいいなと思いましたね。デジタルだと音が波形になって目で見える。EQで切り替えると「今、音のどこがモコってなってるのかな?」ってことが画面で見えちゃう。

──視覚に頼ってしまうことで、聴覚が麻痺してしまうことへの危惧があると。

澤部 集中力が分散してしまいますからね。なるべく若くてバンドの調子がいいときに、アナログでバシッと録音しておきたかったっていうのがありましたね。

実は泣いてる一発録りテイク

柴山 お手軽なデジタルがそのミュージシャンに合ってるかどうかっていうのもあると思うんだよね。つまり性格の問題っていうか。僕なんて気に入らないところがあると最後の最後まで徹底的に直したいって思っちゃうほうだから。

澤部渡

澤部 僕も基本的にはそうですよ。でも今って完璧主義者が多すぎるって感じがして。特にウチのバンドのキーボーディスト(カメラ=万年筆の佐藤優介)って本当に完璧主義者なんですよ(笑)。そういうのを見てると、気持ちもわかるし、僕自身そういうところがあるから人のことは言えないんですけど、バシッと一発で録ってみようって思うんです。インディーズだと納期もうやむやになって遅れがちですし……。そういう人が増えてきているから、余計に逆のことをやりたくなったっていうのが大きいですね。でも、これでアナログ万歳!ってなったかって言うとそうじゃなくて。これからもアナログがいいって決めたわけでもなく、曲次第、アレンジ次第だと思いますし。いろんな選択肢の中の1つって結論に変わりはないっていうのが自分としても興味深いところなんです。

柴山 なるほどね。僕はやっぱり60年代の音楽が好きで、それはアナログ感のある温かみのある音がいいってことになるんだけど、僕はそんなに音楽バカじゃないしマニアックでもないんです。どっちかと言ったら、好きな音楽を認めてほしいって気持ちがある。こだわりはあるくせに、それが弊害となって聴き手に届かないってことになるのがイヤで。今回のアルバムは、自分のやりたいことをこだわりを持ってしっかり出して、その上で誰でも無理なく自然に聴いてもらえるような、ちゃんと届くような作品になったかなって。そのバランスが今はいい感じになってきましたね。今一緒にやってもらってるエンジニアの方とは好きな音楽とかの価値観も共有できるんで、そういう意味でもすごくやりやすいんですよ。その点でも「君とオンガク」はすごく満足しています。

澤部 60年代の録音は古い技術のようにも見えてますけど、実はそうでもなくて、そのときどきの最先端、最善のやり方をしているんですよね。The Beatlesの「REVOLVER」なんて4トラを2個つなげたりして。The Zombiesの「Odessey and Oracle」なんて、予算がないからストリングスを入れられなくて、仕方なくメロトロンで代用したわけじゃないですか。でもそれがかえって雰囲気につながったり。そういうのがいいですよね。

柴山 ああ、よくわかる。僕は今はデジタル録音をメインにしてますけど、基本は生楽器を使っていて編集がないって作業が好きなんです。合理的に作業ができるけど、肝心の演奏部分や歌録りはやっぱり編集しないでそのときの雰囲気をそのまま生かしていきたいんです。今回のアルバムも、バンド録音に関してはほとんど一発録音なんです。あのアルバムの唯一のカバー曲である小坂忠さんの「機関車」なんか、ボーカルも一発なんですよ。バンドのグルーヴがちゃんとあったから、それに合わせて歌を乗せていきたいって思いがあったんで、結局最初の仮歌のものをそのまま採用したんです。実はあのテイク、最後のほうで僕、泣いてるんですよ。

澤部 えー! わからなかった。

柴山 もちろんボーカルだけ抜き出して聴かないとわからないくらいですよ。僕が思うデジタルのお手軽感っていうのは編集云々じゃなくて、毎日の生活の中でパッと思いついて、その気持ちがあるうちにサッと録音できるのがいいなって意味なんですよ。そういう意味では澤部さんの言ってる感じと同じだと思いますね。最初に出てきたものが本物だと思うんで、その初期衝動を逃さずに録音したい。だから自宅の中ですぐ録音できるようにセットしてあるんです。

澤部 それはありますよね。僕は袋詰めから納品まで何から何まで自分で作業をしているんですけど、そうやって日常とステージ上の自分が地続きになっていくことが果たしていいのかどうか?ってジレンマがあって。デモとかはもちろん部屋で録音してるんですけど、それが当たり前になると区別がつかない。だからせめて録音くらいは外のスタジオでやりたいって思うんです。もちろん、ちょっとした鼻歌をiPhoneのボイスメモに録ってしまうようなことはしてますけどね。

2人の異なる作曲技法

左から柴山一幸、澤部渡。

柴山 曲はどうやって作ってるんですか?

澤部 僕はギターと、たまにピアノですね。柴山さんは?

柴山 僕はまずダブルカセットデッキで曲の断片とかを録って、それを何日か置いておいて、他の曲の断片と合わせたりするようなことをして完成させていきますね。新たに録ったモチーフを前に作ったモチーフにくっつけたり、また他の曲の断片にくっつけたり……。ダブルカセットデッキがないとできない作業なんですね。

──サンプラーとか使わないんですか?

柴山 使わないですねー。なんだかんだ言ってけっこうアナログな作り方ですよね(笑)。

澤部 僕はあんまり曲とか断片のストックないなあって、今、柴山さんの話を聞きながら思いました(笑)。僕は、例えばベースがGから始まるすごく好きな曲があるとして、メロディの始まりが6度の音だったりしたら、この曲とまったく同じ始め方をしてみよう、みたいな感じできっかけを見つけて作曲してますね。こういう感じの曲がやりたいって思ったら、そういう風になっていく、みたいなこともありますけどね。でも音楽を聴いてそれが直接アウトプットになるってこと、ほとんどないんですよね。

柴山 へえ、意外!

澤部 主にマンガですね。マンガを読んでて、このシーン、ヤバい!って思った瞬間に、おもむろに本を置いて、ギターを手にして曲を作る、みたいな。

柴山 もともと美大か音大か迷ったらしいですね。

澤部 絵はまったく描けないんですけどね。映像のほうに行きたいなっていうのはあって。文章を書くのが好きだったんで、脚本を書いたりするのが向いてるんじゃないかな?って思ったり……。だから音楽を聴いて影響を受けてそのまま曲を作るってことは本当にないですね。あとから影響が出てるってことはありますけど。音楽を聴くときは本当に楽しんで聴くだけで、聴いてきた音楽が自然と出るって感じなのかもしれないです。もちろん、この曲のこのベースとギターの関係って面白いなって思うことは多いし、それをきっかけに曲を作り始めてみようって感じで、それが参考になることもないわけじゃないですけど。蓄積していくタイプなのかもしれないですね。元ネタが出ちゃうようなのってあまり好きじゃないんです。

柴山一幸 ニューアルバム「君とオンガク」 / 2014年6月4日発売 / 2160円 / GO→ST / DQC-1273
「君とオンガク」
収録曲
  1. Hello!Hello!
  2. 僕は今も信じている
  3. 君とオンガク
  4. ペットサウンド
  5. お願いダーリン
  6. サクカサカナイカ
  7. Cry Wolf
  8. 機関車
  9. 手はおひざ
  10. We are Music-Star
  11. ポイントカード
スカート ニューアルバム「サイダーの庭」/ 2014年6月4日発売 / 1836円 / カチュカ・サウンズ / KCZK-010
スカート ニューアルバム「サイダーの庭」
収録曲
  1. さかさまとガラクタ
  2. アポロ
  3. 都市の呪文
  4. ラジオのように
  5. サイダーの庭
  6. はなればなれ
  7. 古い写真
  8. すみか
柴山一幸(シバヤマイッコウ)
柴山一幸

1969年11月8日、愛知県生まれのシンガーソングライター。2001年に鈴木博文(ムーンライダーズ)主宰のレーベル・メトロトロンレコードよりアルバム「Everything」でデビューを果たした。2008年5月には田辺マモル、徳永憲らをゲストに迎えて制作された2ndアルバム「涙色スケルトン」を発表。自身の作品のみならず、田辺マモルのサウンドプロデュースや声優アーティスト田村ゆかりへの楽曲提供など幅広く活躍する。2013年3月の3rdアルバム「I'll be there」発売以降はライブも精力的に行い、2014年6月にはGO→STレーベルより4thアルバム「君とオンガク」をリリース。

スカート

ソングライター澤部渡が2006年に始動させたソロプロジェクト。2010年12月に自主制作アルバム「エス・オー・エス」を発表し、以降はフルアルバムのみならず展示即売会限定のCD-Rなども含め、コンスタントに作品を発表し続けている。さまざまな変遷を経て、現在は佐久間裕太(Dr / 昆虫キッズ)、清水瑶志郎(B / マンタ・レイ・バレエ)、佐藤優介(Key / カメラ=万年筆)をサポートメンバーに迎えて活動中。2014年6月に最新アルバム「サイダーの庭」を発表する。