音楽ナタリー Power Push - 佐藤竹善 クリスマスソング集「Your Christmas Day III」発売記念鼎談 佐藤竹善(SING LIKE TALKING)×さかいゆう×土岐麻子

クリスマスソングとカバーソングの魅力

SING LIKE TALKINGの佐藤竹善がクリスマスソング集「Your Christmas Day III」をリリースした。

彼がクリスマスアルバムを発表するのは今回で3度目。洋菓子店「PATISSIER eS KOYAMA」のオーナーシェフ・小山進氏とのコラボが話題となっているこのアルバムには、クリスマスソングのカバーと既発のオリジナル曲、そして小山氏が手がけたチョコレートの物語をイメージした10分超えの組曲「The Lost Treasure ~The Adventures」が収録されている。

今回音楽ナタリーでは佐藤とかねてから親交のあるさかいゆうと土岐麻子を招いて鼎談を企画。既存の楽曲をカバーしているという共通点のある彼らにクリスマスソングの魅力や名曲をカバーすることの魅力などについて語ってもらった。

取材 / 臼杵成晃 文 / 清本千尋 撮影 / 西槇太一

山下達郎さんの「クリスマス・イブ」は画期的だった

──佐藤さんはクリスマスソングにどんなイメージを持っていますか?

左から佐藤竹善、さかいゆう、土岐麻子。

佐藤竹善 クリスマスソングって独特の音楽で、海外では1年中クリスマスソングを流してるラジオ局もあったりするんです。海外だと「ジングルベル」(原題:「Jingle Bells」)1つとっても、ヒップホップやヘビメタ、パンク……いろんなバージョンがあるんですよ。クリスマスを好きな人たちが、自分の好きなテイストで演奏して、クリスマスソングそのものを楽しんでるんですよね。もう1つのジャンルの枠としてあるというか。

──そもそもどういう経緯でクリスマスアルバムを作ることになったんですか?

佐藤 クリスマスアルバムは、欧米では毎年無数にリリースされていて、いろんなアーティストがいろんな曲をカバーしたり、オリジナルを作ったりしてますよね。いろんなクリスマスアルバムを聴いていったら、クリスマスソングじゃないのにアルバムに入ってる曲もいっぱいあることを知ったんです。一番有名なのは「What a wonderful world」かな。それをヒントにクリスマスのときに聴くと、普段と違うメッセージとして聞こえる曲があるんだって気付いたんですよ。クリスマスシーズンに聴くと、“She”とか“He”とか“I”とか“You”とかっていう単語がもっと違う意味にとれる。そういう世界観のクリスマスソングが、日本でも普通に楽しめるようになったらいいなと思ってクリスマスアルバムのシリーズを作り始めました。

──それはすごくわかります。僕、自分で勝手にクリスマスソングであると決め込んで聴いている音楽もいくつかあったりするので。

土岐麻子 対象が広いからですかね? 日本だとクリスマスは恋人たちが一緒に過ごす日っていうイメージが強いけど、もともとクリスマスという文化が根付いてる人たちは家族で楽しんでいると思うし。もうちょっと大きな世界観を持ってるイメージです。

佐藤竹善

佐藤 そうだね。あと日本って歌詞をいじったりするのがすごく厳しいでしょ? 海外だとどんどんいじってるんですよ。例えば「Girl」って歌ってるところを「Darling」に換えちゃって、あとは同じ歌詞っていうものもある。それだけで曲のメッセージが変わるじゃないですか。自由に詞をいじったりできることによって、一層曲自体が育っていったというか。特にクリスマスソングにはそういうことがあると思うんです。もともとの歌詞を自分のカラーにフィットする言葉に換えてみんな普通に歌いますもんね。

──そういう文化の違いもあるかもしれませんね。日本の独自のクリスマスソングの代表曲といえば、山下達郎さんの「クリスマス・イブ」ですよね。

さかいゆう 日本で「クリスマスは切ないもの」みたいな雰囲気になったのは達郎さんの影響も大きいと思うんですよね(笑)。だって「きっと君は来ない」ですよ?

土岐 うん、あの曲は大人の恋人同士の話だもんね。

佐藤 「クリスマス・イブ」は画期的なシングルだったんですよ。それまでクリスマスソングはクリスマスのちょっと前にリリースされるものだったのに、あの曲は夏にシングルカットされたんです。で、気付いたら冬にはもう普通にラジオで流れまくってて。

土岐 それはある意味プロモーション的な戦略だったんですか?

佐藤 いや、単にいい曲だからでしょうね。

土岐 いい曲だから! すごいですね。

クリスマスソングは人種もジャンルも関係ない

──さかいさんと土岐さんは、クリスマスソングではないですが時期的にぴったりな「How Beautiful」を作られましたよね。クリスマスソングとウインターソングの違いって、歌詞以外にもあるんでしょうか?

さかい ウインターソングはクリスマスソングよりサウンド的に幅広いイメージがありますね。

佐藤 ウインターソングだと温かい雰囲気の曲もあれば、広瀬香美さんの「ロマンスの神様」みたいに疾走してる感じの曲もありますから。僕は歌詞だけじゃなくてサウンド的にもクリスマスソングとウインターソングは別物だと思ってます。で、冬っぽい音にするためによくやるのはスレイベルを鳴らしたりだよね。どこかにシャンシャンシャンという音を入れるとクリスマスとか、冬っぽい感じになる。

さかいゆう

さかい 「チキンライス」(浜田雅功と槇原敬之が歌う楽曲)とかもそうですよね。あとは神聖さを彷彿とさせるチャーチ感ですかね。教会のエコーっぽい感じ。

佐藤 冬らしさは曲による部分が大きいですね。1960年代にリリースされた海外のR&Bのクリスマスアルバムとかって、全然クリスマスっぽくないんですよ。ひたすらシャウトしてたり。

さかい ジェームズ・ブラウンの「Funky Christmas」とかね。

佐藤 うん。「クリスマス」をキーワードに、勝手にみんな楽しんでる感じ。だから曲に共通してるのは“楽しんでる感”があるということですね。あとはもうジャンルや人種で全然違う。逆に言えばどんな人種だろうがどんな文化だろうが、みんな平等なんだ、平和なんだっていう感じが漂うんじゃないかなと思います。

佐藤竹善 クリスマスソング集「Your Christmas Day III」 / 2015年12月2日発売 / UNIVERSAL J
佐藤竹善 クリスマスソング集「Your Christmas Day III」
初回限定盤 [CD+DVD] / 4320円 / UPCH-7076
通常盤 [CD] / 3240円 / UPCH-2059
CD収録曲
  1. After The Rain(オリジナル:Nelson)
  2. Please Come Home For Christmas(オリジナル:Eagles)
  3. Whenever I Call You "Friend" / 佐藤竹善 with SHANTI(オリジナル:Kenny Loggins & Stevie Nicks)
  4. Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!(オリジナル:ヴォーン・モンロー)
  5. I'll Be Home For Christmas / 佐藤竹善 feat. The Jazz Creatures(オリジナル:ビング・クロスビー)
  6. I Need You / 佐藤竹善 with 平原綾香(オリジナル:モーリス・ホワイト)
  7. O Holy Night / 佐藤竹善 feat. Double Rainbow
  8. Be Inside My Life(オリジナル曲のリメイクバージョン)
  9. The Lost Treasure ~The Adventures of Jaime~(~Prologue~ / The Storm(instrumental) / Lost in Time / A Nostalgic Journey / Japonica / The Book - The Witches' Woods - The Challenge to Departure / ~Epilogue~)
初回限定盤DVD収録内容
  • The Lost Treasure 失われたアルアコの秘宝~500年の時を経て再び巡り会う、運命のカカオの物語~
佐藤竹善(サトウチクゼン)

SING LIKE TALKINGのボーカリストとして1988年にデビュー。1993年発売の「Encounter」、1994年リリースの「Togetherness」の2作はオリコンウィークリーチャートで初登場1位を獲得した。佐藤の透明感あふれるハイトーンボイスとエバーグリーンな楽曲は多数の音楽ファンを魅了。さらに佐藤の圧倒的な歌唱力はミュージシャンからも絶賛され、他アーティストのコーラスを務めたり、小田和正や塩谷哲とはユニットを結成するなど、ボーカリストとして幅広く活躍した。1995年に発表したカバーアルバム「CORNERSTONES」から、SING LIKE TALKINGの活動と平行して本格的にソロ活動を開始。2013年よりクリスマスアルバムシリーズ「Your Christmas Day」を3年連続でリリースしている。2015年2月にSING LIKE TALKINGの集大成となるオールタイムセレクションアルバム「Anthology」を発売。同アルバム収録曲を披露するライブツアー「SING LIKE TALKING “The Sonic Boom Tour 2015”」では、全国6都市で計1万人以上を動員した。2015年7月にソロとしては初のオールタイムセレクションアルバム「3 STEPS & MORE」を発表した。

さかいゆう

高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながらピアノを習得。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化させ、2009年10月にシングル「ストーリー」でメジャーデビュー。胸を打つ歌詞、透明感ある歌声が広く支持されている。また客演も多く、これまでにマボロシ、KREVA、RHYMESTERなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。2015年1月にはそんなコラボ楽曲をまとめたアルバム「さかいゆうといっしょ」を発表。同年10月にはシングル「ジャスミン」をリリースし、11月から全国5カ所を回る「さかいゆう TOUR 2015“ジャスミン”」を開催。2016年2月3日には2年ぶりのオリジナルアルバムの発売も決定している。

さかいゆう TOUR 2015“ジャスミン”
2015年11月30日(月)福岡県 DRUM Be-1
2015年12月2日(水)大阪府 サンケイホールブリーゼ
2015年12月7日(月)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
2015年12月10日(木)北海道 cube garden
2015年12月19日(土)東京都 中野サンプラザホール
土岐麻子(トキアサコ)

1976年東京生まれ。1997年にCymbalsのリードボーカルとして、インディーズから2枚のミニアルバムを発表する。1999年にはメジャーデビューを果たし、数々の名作を生み出すも、2004年1月のライブをもってバンドは惜しまれつつ解散。同年2月には実父にして日本屈指のサックス奏者・土岐英史との共同プロデュースで初のソロアルバム「STANDARDS ~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリースし、ソロ活動をスタートさせた。2015年7月には、コンセプトプロデューサーとしてジェーン・スーを迎え、2年ぶりとなるオリジナルアルバム「Bittersweet」を発売。同年12月にはボーナストラックを4曲加えた「Bittersweet」のアナログ盤と、初のエッセイ集「愛のでたらめ」をリリースする。2015年の締めくくりとして、東京・WWWにて「Bittersweet」リリースツアーの追加公演の実施も決定している。

土岐麻子「愛のでたらめ」
「愛のでたらめ」
[書籍] 2015年12月10日発売 / 1620円 / 二見書房 / 9784576151502
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土岐麻子「Bittersweet(アナログ)」
「Bittersweet(アナログ)」
[アナログ2枚組] 2015年12月18日発売 / 3780円 / avex / JET SET / JSLP050
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