音楽ナタリー Power Push - おとぎ話

“特別じゃない名盤”が完成するまで

おとぎ話が、待望のニューアルバム「ISLAY」(アイラ)をリリースした。最高傑作との呼び声も高かった前作「CULTURE CLUB」から約1年9カ月を経て彼らがドロップしたのは、濃厚な“おとぎ話らしさ”が詰まった愛すべき1枚。音楽ナタリーでは全曲の作詞作曲を手がける有馬和樹(Vo, G)にインタビューを行い、本作が完成するまでの激動の日々について話を聞いた。

取材・文 / 大山卓也 撮影 / 寺沢美遊

今年の名盤はこういう感じ

──この「ISLAY」というアルバムは、これまでのおとぎ話の作品とは少し印象が違いますね。

有馬和樹(Vo, G)

はい、今回はなんかベクトルが違う感じで、「今までにないアルバムが作れた」っていう達成感がすごくあります。

──なんと言うか「あの名曲が入ってます」とか「全曲シングルカットできます」というタイプの作品ではない気がしていて。

ないない。そうなんです(笑)。それ自分でも感じてるんですけど、「必殺の1曲が入ってるすげえのできました! ドン!」っていうアルバムじゃないんです。

──例えば前作「CULTURE CLUB」(2015年1月リリース)を聴いていて、7曲目に「COSMOS」が始まると「おっ、『COSMOS』来た!」って思うんですよ。

わかります。「COSMOS」は特別な曲だから。

──でも今回それがない。

ないですね。

──そういう特別な1曲が必要だとは思わなかったんですか?

それがまったく思わなかったんですよね。でもできあがってみたら「全体的にいい!」みたいな。

──有馬さんは今まで曲を作るときに「ものすごい名曲を書きたい」「感動させたい」という気持ちがあったんじゃないかと思うんですが。

めっちゃ思ってました(笑)。それだけを思って音楽やってきたっていうくらい。なのに今回はそういうの1秒も思わなかったんです。だから完成してから自分たちでびっくりした。

──でもすごくいいアルバムなんですよね。

有馬和樹(Vo, G)

うん、これを聴いたらみんな「めっちゃいいじゃん!」「こんないいバンドだったっけ?」ってなると思うんですよ。サニーデイ・サービスのこないだのアルバム(「DANCE TO YOU」)もそういう感じのアルバムで「なんかいいな」みたいなやつだったけど。

──感動を煽るわけじゃなく、スッとなじんで繰り返し聴きたくなる作品というか。

そうなんです! 俺らのアルバムができたあとでサニーデイのアルバムが出て、同時期に坂本慎太郎さんのアルバム(「できれば愛を」)とかも出て、聴いたら「あれ? わりとおんなじじゃね?」って思った。「今年の名盤ってこういう感じかも」みたいな気がして、ちょっとうれしかったです。俺はそもそもこういうアルバム好きだし「一番作りたかったアルバムができた」「これがおとぎ話だな」って思うんですよね。

有馬独裁と牛尾失踪

──制作の仕方もこれまでとは違ったんでしょうか?

そうですね。今までのレコーディングはめちゃめちゃ独裁だったんですけど……。

──独裁?

いつも俺がメンバーに細かく指示して作ってきたんです。もちろん大前提として、メンバーが俺の曲をめちゃくちゃ愛してくれてるっていうのがあって、だから俺の希望を極力生かして演奏してもらってた。結果スタジオでは俺ばっかりがすごいしゃべって、イニシアチブ握ってレコーディングを進めていくってことが多かった。

──そのスタイルを変えたのはなぜですか?

10年やってきて、このまま続けても同じになっちゃうなって思ったのと、そのやり方でやりたかったことは「CULTURE CLUB」でほとんどできたから。だから今は真逆です。4人それぞれが自分で曲を解釈して、やりたいように演奏するっていう。

──その中で有馬さんの役割は?

最終的な交通整理っていうか、ほかのメンバーが適当に演奏してるいろんなフレーズを「そっちのほうがいい」とか言う仕事。だから個々の演奏は自分が想像してたのとは違うんだけど、最終的に4人の演奏を並べて聴くとイメージ通りになってたりするっていう。

──そういう作り方ができるようになったきっかけはありますか?

有馬和樹(Vo, G)

3年前かな、ギターの牛尾(健太)が失踪したんです。

──えっ、失踪?

うん、当時まさに独裁みたいなスタイルで制作してたんですけど、牛尾が「もうやっていけない」みたいな感じになって、俺と殴り合いのケンカになったりして。そしたらあいつ突然いなくなっちゃって。

──けっこうシリアスな話ですね。

その間の何本かのライブは牛尾抜きでやって、警察に捜索願も出したりして。これ以上見つからなかったらナタリーで捜索記事書いてもらおうって言ってたくらい。それで結局見つかったのが3週間後かな。

──どこにいたんですか?

あいつ島根におばあちゃんがいるんですけど、それでとりあえず島根に行って、公園で野宿して、でも朝寝てたらゲイの人にズボン脱がされそうになったらしくて。それでビビっておばあちゃんに会いに行ったら「健太、みんながお前のこと探してるよ」って。

──その後は?

牛尾が見つかったっていっても、さすがにメンバーみんな「もうこのまま解散だろうな」って思ってたの。でも俺やっぱり牛尾のこと好きだし、わだかまり持ったままでいるのもイヤだったし、そもそも友達だから、最後に言いたいことはちゃんと言おうって思って。それで新宿の楽器屋に2人で自転車で行って、そのあと飲んだんです。そこでまず俺が「今まで全部、俺が間違ってました」「ホントにすみませんでした」って牛尾に謝ったの。

──ずっと有馬さんが主導権を握ってやってきたのに、それを自ら否定したんですね。

もしまたこの4人でバンドやれるとしても、俺以外のメンバーが主導でやったほうが絶対いいなって思ったんですよね。だから「俺はやりたいと思ってるけど、最終的な判断は風間(洋隆 / B)、前越(啓輔 / Dr)、牛尾の3人で決めてくれ」って。そのあと4人で集まって話したときに、前越が「まあとりあえずやってみる?」って言って、牛尾も「じゃあとりあえずやってみるか」って言ってくれて。だから今のおとぎ話は、そのときの「とりあえず」のまま続いてる状態なんです(笑)。

──その事件のあとは4人仲よくやれてるんですか?

そこからは信じられないほど仲いいですね。「あの頃なんであんなにケンカしてたんだろ?」っていうぐらい。たまに4人で笑いながら「あのとき牛尾が失踪してくれたおかげでこんないいアルバムができた」って話してますからね(笑)。

ニュールバム「ISLAY」2016年10月26日発売 / 2808円 / felicity / PECF-1142
「ISLAY」
収録曲
  1. JEALOUS LOVE
  2. ブルーに殺された夢
  3. TEENAGE KIXX
  4. セレナーデ
  5. 蒼い影
  6. YUME
  7. DREAM LIFE
  8. 天国をぶっとばせ
  9. 太陽の讃歌
  10. めぐり逢えたら
  11. 夜明けのバラード
公演情報
おとぎ話ニューアルバム「ISLAY」リリースパーティ
<New Moon,New Moon ~ドラマとドラマ~>
  • 2016年11月15日(火)東京都 WWW
    <出演者>
    おとぎ話 / ドレスコーズ
おとぎ話主催イベント
  • 2016年12月24日(土)大阪府 FANDANGO
  • 2016年12月30日(金)東京都 新代田FEVER
  • (詳細は後日発表)
ニューアルバム「ISLAY」リリースツアー
「FLAVOUR OF ISLAY TOUR 2017」
  • 2017年4月8日(土)宮城県 FLYING SON
  • 2017年4月14日(金)福岡県 UTERO
  • 2017年4月15日(土)広島県 HIROSHIMA 4.14
  • 2017年4月28日(金)愛知県 Tokuzo
  • 2017年4月30日(日)大阪府 FANDANGO
  • 2017年5月14日(日)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
  • (詳細は後日発表)
おとぎ話(オトギバナシ)
おとぎ話

有馬和樹(Vo, G)、風間洋隆(B)、牛尾健太(G)、前越啓輔(Dr)から成る4人組ロックバンド。2000年に結成し、2005年に現在の編成に。銀杏BOYZのツアーのフロントアクトを務めるなどして話題を集め、2007年9月に1stアルバム「SALE!」を発表する。2013年には映画「おとぎ話みたい」、2016年には舞台「ねもしゅーのおとぎ話『ファンファーレサーカス』」に出演および音楽で参加するなど多方面で活躍。2016年10月に8thアルバム「ISLAY」をリリース。