中嶋ユキノ|夢を叶えた先にあった 今だからこそ歌える歌

中嶋ユキノが2ndアルバム「空色のゆめ」をリリースした。前作に続き、今回のプロデューサーを務めたのは浜田省吾。アカペラで何層にも重なるコーラスワークが美しい「Love and Dreams」や、他人から見える自分と本来の自分とのギャップに対する本音をピアノの弾き語りで吐露した「わたしのはなし」など、全12曲が収録されている。

小さい頃から歌手になることを夢見ていた中嶋は、アーティストのバックコーラスや楽曲提供からキャリアを重ね、三十代でシンガーソングライターとしてメジャーデビューする夢を果たした。今作には、そんな彼女の柔らかさと強さを兼ね備えた歌声の魅力はもちろん、あきらめなかったからこそ歌える夢への思いもパッケージされている。インタビューでは制作時のエピソードを紐解くほどに、中嶋の職人気質とチャーミングな人柄が伝わってきた。

取材・文 / 上野三樹

32歳、女の葛藤

──メジャーデビューアルバム「N.Y」から約1年ぶりのリリースとなりましたが、今回はどんな内容の作品にしたいと思っていたんですか?

中嶋ユキノ

「N.Y.」は二十代半ばに作った曲をリニューアルしてまとめて出した感じだったので、未来への希望を託しつつ、これまでの私を歌った作品でした。対して今回は、より今の自分に近い作品にしたいなと思って。今年で33歳になるんですけど、やっぱり女性ならではの葛藤みたいなものって30歳を境に一気に増えてきたんですよね。結婚や出産をするのか、仕事をこのまま続けていくのか……そういった等身大の気持ちを歌って表現することで、多くの人に届けていけたらいいなと思っています。

──30歳というのは中嶋さんの中でターニングポイントだったんですね。

私は小さい頃から漠然と「歌手になりたい」という気持ちがあったんですけど、その夢がなかなか叶わない現実に押しつぶされそうになりながら、がむしゃらに歩き続けたのが二十代で。コーラスや仮歌といった裏方の仕事をやらせていただく中で、30歳を超えても夢を追い続けるのはどうなんだろうなとも思いましたし、自分で言葉を紡いで世に出していこうとするエネルギーが減っていた時期もあって。でも、「もう気持ちを切り替えようかな」と思っていたときに浜田省吾さんにお会いしてツアーバンドにコーラスとして参加させていただいたことがきっかけで、こうしてシンガーソングライターとして活動する流れになったんです。

──30歳の時点では仮歌やコーラスや楽曲提供のお仕事だけでも、ちゃんと生活ができていたということですか?

そうですね。18歳くらいからコーラスのお仕事を始めて、バイトは23歳くらいで辞めたのかな。作詞などもしていたので、それだけでご飯は食べられていました。でも「シンガーソングライターになりたい」という夢が叶わない限り、ずっと「夢が叶わない、夢が叶わない」という概念が頭にこびり付いてしまって。こんな活動ができるなんて、3年前の私はまったく想像していなかったですね。

11年越しの思いを込めた「桜ひとひら」

──夢に対する思いの変化を経てリリースされるのが今回のアルバムなんですね。

はい。なのでこのアルバムには、1曲1曲違う形の夢が出てくるんです。描いた夢が叶わなかった主人公の曲もあれば、あきらめきれない夢を持っている人を歌った曲もあって。これまでも夢をテーマにした曲は多かったんですけど、これから目指していきたい新たな夢のことも書きました。シンガーソングライターとしてようやくデビューできた今だからこそ書けた歌詞だと思います。

──今作にはインディーズ時代の代表曲「桜ひとひら」も収録されています。ギターのアルペジオが美しい切ないナンバーですが、どのようにして生まれた曲なんですか?

もともとは2006年頃、当時のプロデューサーと一緒に作った曲で。当時はまだ「夢が叶わない自分」でしたから、今回収録されているものとは歌詞もまったく違ったんです。それを2011年に配信リリースすることになって、改めて作詞家さんと一緒に書き直して完成したんですけど、リリースされたのは2011年3月2日、東日本大震災の前の週で。3月2日の時点では世の中的にも「もうすぐ春がくるね」「卒業式だね」なんて平和なムードで、私たちも「今年の桜ソングとしてこの曲をリリースするぞ!」って意気込んでいたんですけど。震災が起こってからは「桜ひとひら」を歌えるような状況じゃなくなっていましたし、当時この曲を歌うことはほとんどありませんでした。

──そうだったんですね。

でも私にとっては本当に大切な曲なので、今回改めてアルバムに収録したらどうかというお話をいただいて、迷わず入れました。 11年越しの思いがこもった曲ですね。

中嶋ユキノ「空色のゆめ」
2017年8月9日発売 / SME Records
中嶋ユキノ「空色のゆめ」

[CD] 3000円
SECL-2181

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収録曲
  1. Love and Dreams [作詞・作曲:中嶋ユキノ、浜田省吾]
  2. HAPPINESS [作詞・作曲:中嶋ユキノ]
  3. 伝わんないと意味がない [作詞・作曲:中嶋ユキノ]
  4. ビールとカーネーション [作詞・作曲:中嶋ユキノ]
  5. 左手で書いたラブレター [作詞:春嵐 / 作曲:浜田省吾]
  6. STEP UP [作詞:中嶋ユキノ / 作曲:宗本康兵]
  7. 桜ひとひら [作詞:中嶋ユキノ、尾上文 / 作曲:Sin]
  8. キラキラ [作詞・作曲:中嶋ユキノ]
  9. 願い文字 [作詞・作曲:中嶋ユキノ]
  10. てがみ [作詞:春嵐 / 作曲:浜田省吾]
  11. 夢のとびら [作詞:中嶋ユキノ、浜田省吾 / 作曲:宗本康兵]
  12. わたしのはなし [作詞・作曲:中嶋ユキノ]
中嶋ユキノ「アコースティックライブツアー『空色のゆめ旅 2017』」
  • 2017年10月1日(日)石川県 もっきりや
  • 2017年10月7日(土)福岡県 ROOMS
  • 2017年11月12日(日)北海道 札幌くう
  • 2017年11月19日(日)宮城県 SENDAI KOFFEE
  • 2017年11月26日(日)愛知県 Live DOXY
  • 2017年12月3日(日)大阪府 BananaHall
中嶋ユキノ「ワンマンライブ『空色のゆめ歌 2017』 in 日本橋三井ホール」
  • 2017年10月22日(日)東京都 日本橋三井ホール
中嶋ユキノ(ナカジマユキノ)
1984年生まれ、東京都出身のシンガーソングライター。2003年に音楽活動を始め、川嶋あい、水樹奈々、ももいろクローバーZなどのライブや、華原朋美、ポルノグラフィティ、久保田利伸らのレコーディングにコーラスとして参加する。並行して中森明菜、上戸彩、AAAなどへ歌詞を提供するなど作家としても活躍。2011年に「桜ひとひら」を配信リリースし、以降コンスタントに楽曲を配信する。2012年には配信楽曲を集めたアルバム「Dear...」を、2013年にはセルフプロデュースによる弾き語りアルバム「Starting Over」をリリース。2015年に浜田省吾のアルバム「Journey of a Songwriter ~ 旅するソングライター」に収録されている「夜はこれから」にフィーチャリングボーカルとして参加した縁で、浜田のツアーにも参加。2016年8月に浜田省吾プロデュースによるメジャーデビューアルバム「N.Y.」を発表。2017年8月に同じく浜田省吾プロデュースの2ndアルバム「空色のゆめ」をリリースした。