ナタリー PowerPush - 森山直太朗

10周年、家族、ルーツを語るロングインタビュー

玉置浩二が週2~3回は家に来ていた

──ご家庭の話ばかりするのも恐縮なんですが、少年時代は身近にかまやつひろしさんや吉田拓郎さんがいらしたりしたんですか。

拓郎さんはちらっとご挨拶したぐらいだったんですけど、環境的に誰かしらいらっしゃいましたね。母のライブが終わると打ち上げで、とか。その打ち上げに、ほかのライブをやっていた人が駆けつけちゃったり。あの世代の人たち特有のフットワークの軽さみたいなのがあって。

──森山さんの曲を聴いていて、意外にルーツみたいなものが感じられない気がするんです。まわりに、影響を強く受けるような方々が多数いらっしゃったんだろうと想像するのに。僕自身は森山直太朗さんのことを、拓郎さんのような存在感を継承するシンガーソングライターだと思っているんですが、「結婚しようよ」という歌もあるのに曲自体は拓郎さんぽくないし。まあ、ときどき井上陽水さん的なものが顔を出すような気もしますが、ご自身としてはルーツを意識するような方はいらっしゃるんですか。

うーん……すぐに浮かぶのは母親と友部正人さん、そして玉置浩二さん。いずれもギターを持って弾き語りをする。まあ、玉置さんは違う一面もありますが。それで言うと、玉置さんは本当によくいらしてたんです、うちに。もう、ホンットに。「ナォタロォー、おフロ入ろういっしょにぃ~」(清水ミチコばりのモノマネ)みたいな(笑)。

──なんでなんですか。

インタビュー風景

あれは、なんでだっけ?

奈歩 一時期、事務所が一緒だったんだよね。

そうだ、事務所が母親と一緒で、うちの母もああいうノリなんで意気投合しちゃって。週に2~3回くらい来ていましたね。僕はたぶん中3とか高1くらいで、音楽をやるなんて思っていなかった頃ですけど、玉置さんがギターを持ってTHE BEATLESとかを歌ってくれるんです。でたらめ英語でノリ一発なんですけど、歌声がとにかくめちゃくちゃカッコいいんですよね。それがすごく具体的に、音楽をやる上での自分のルーツになっていたりするかもしれません。

──メロディなどに表れているかどうかは僕にはわかりませんが、ときどきテレビで拝見する森山直太朗さんのテンションみたいなものは、玉置さんにちょっと似て……。

あっ、ごめんなさい、そこだけは真似しないようにしていたんですけど(笑)。でも、音楽的な部分では出ちゃうんですねー。「この曲のコード進行は」みたいな細かいところでいったら、玉置さんの影響を受けた曲がめちゃめちゃたくさんありますよ。

マーシーが最初にギターでコピーしたのは、森山良子だった

──友部正人さんについては、森山さんに「片足のポー」という曲がありますが、まさにあれは友部さんの「ビッコのポーの最後」という曲から登場人物が出てきたような曲ですね。でも、歌そのものが友部さんをルーツにしている感じかというと、そんなことはなかったりする。

うちの母もフォークをやっていて、友部さんも同じような世代でフォークをやっていて。でも、やっていること自体は全然違うんですよね。そして、好き嫌いとかそういうことで言うと、僕は友部さんみたいなフォークが好きなんです。なんでかはわからないんですけど、ああいうものに対する憧れとか、ああいうものが生まれた時代に対する興味がすごくある。だから、母親とか玉置さんのように“愛を歌う”みたいな大きな、どこか広い間口のメロディで、友部さんのようにある思想を持って何かを歌っているというのが、僕のスタイルのひとつなのかなと思っています。全部ではないですが。御徒町と出会ったときに「あっ、そういうことができるかもしれない」と思ったんですよ。僕ひとりじゃ真似だけになっちゃうんだけど。

──言葉数の多さとか歌うテーマの幅広さなどでは、友部さんの味わいも感じますが、森山さんの作品はちょっと妙なことや暗いことを歌っていても、普遍的な気持ちいいメロディで、柔らかな輪郭を感じる歌になるという印象。まさに今、ご本人がおっしゃった通りですね。

ありがとうございます、その言葉を待っていました(笑)。それはもう、重ね重ねですけど……育ち?

──あははははは(笑)。ただ、柔らかな輪郭の中にあって、ときおり非日常的な迫力の裏声が炸裂する。それも大きな特徴ですね。

あっ、あと、さっき言い忘れていたのは、THE BLUE HEARTS。小学生の頃でしたけどすごく好きで、意味もわからないままずっと聴いていましたね。

──音楽番組「新堂本兄弟」では、THE BLUE HEARTSの真島昌利作品「チェインギャング」も歌ってらっしゃいました。いつもの森山さんの歌の味わいとはかなり違って素朴でザラザラした感じでしたけど、これもいいなあと思いました。

(普段の自分の楽曲と比べて)どっちが本当なのかというと、自分が自然な状態というのは実はああいうことなんだと思いますね。

──つまり、自然に歌うと真島昌利さんや友部正人さんみたいになったりもして、自然にしゃべると玉置浩二さんみたいになったりもする(笑)。

よくよくたどってみると真島さんも友部さんを好きだったんですよね。真島さんの「夏のぬけがら」という、僕が一番好きと言っても過言じゃないくらいのソロアルバムがあるんですけど、その中の「地球の一番はげた場所」を友部さんが書いている。「ああ、つながりがあるんだ」と思って、すごく感激したんです。

奈歩 それで、マーシーが最初にギターでコピーしたのは、森山良子なんだって。

えーっ、そうだっけ!?

奈歩 ってラジオで言ってた。「森山良子すげー!」と思いました(笑)。

──つながりまくりだ(笑)。

ですねー。まだお会いしたことはないんですけど。あっ、でもこの間、新宿御苑のスタジオで「ねぇ、マーシー」のレコーディング中にコンビニにクッキーとか買いに行ったら、そこで真島さんが立ち読みしていて。

──すごい偶然ですね!(笑)

「今、歌ってます!」と喉まで出かかったんだけど、そこで言うのは「違う」と思って。

──何も言わなかったんですね。でも、そのタイミングで「なんでそこにいるの?」という。

本当に。それは多分神様のいたずらだと思って。

──シンクロニシティ。

そうそうそう。「ああ、この曲歌っていいんだ!」と思いました。

──素敵な出会い、というか素敵なすれ違い、まさに素敵なサムシングですね。……無理やりまとめましたが、これで10周年を振り返ることができたかどうか。

いやー、振り返ってるんじゃないですか(笑)。

インタビュー風景

ニューアルバム「素敵なサムシング」 / 2012年4月11日発売 / 3300円(税込) / NAYUTAWAVE RECORDS / UPCH-20272

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CD収録曲
  1. ヨーソロー
  2. ヘポタイヤソング
  3. フォークは僕に優しく語りかけてくる友達
  4. 愛の比喩
  5. ねぇ、マーシー
  6. 初恋
  7. 判決を待つ受刑者のような瞳で
  8. そしてイニエスタ
  9. 夜に明かりを灯しましょう
  10. オラシオン
  11. 悲しいほどピカソ
  12. 放っておいてくれないか
  13. 水芭蕉
  14. 今ぼくにできること
  15. 泣いてもいいよ
  16. 青い朝
  17. 名もなき花の向こうに(仮)
  18. フラフラ
森山直太朗(もりやまなおたろう)

森山直太朗

1976年東京生まれのシンガーソングライター。フォークシンガーの森山良子の実子で、お笑い芸人の小木博明(おぎやはぎ)は義兄にあたる。2001年3月にインディーズからミニアルバム「直太朗」を発表し、2002年10月にアルバム「乾いた唄は魚の餌にちょうどいい」でメジャーデビュー。2003年3月に発表したシングル「さくら(独唱)」が異例のロングヒットとなり、100万枚を超えるセールスを記録した。また、その後も2008年にリリースされた16thシングル「生きてることが辛いなら」や、2010年12月に発売されたアルバム「レア・トラックス vol.1」に収録された「うんこ」など話題曲を発表。2012年4月に最新アルバム「素敵なサムシング」を発売した。