ナタリー PowerPush - Lyu:Lyu

自らの苦悩と人々の期待の間で

Lyu:Lyuが、初のフルアルバム「君と僕と世界の心的ジスキネジア」を完成させた。ボカロP「ナノウ」としての活動でも知られるコヤマヒデカズを中心にした3ピースバンドの彼ら。アルバムは、結成から5年、これまで3枚のミニアルバムをリリースしてきたバンドの今の姿、思いを鋭く切り取った1枚になっている。

周囲になじめなかった10代の頃も、そして今も、さまざまな苦悩と葛藤を抱えながら音楽に向き合うコヤマヒデカズ。その感覚が、繊細な歌声と鋭角的なギターロックのサウンドからありありと伝わってくる。バンドについて、アルバムについて、3人に語ってもらった。

取材・文 / 柴那典 インタビュー撮影 / 高田梓

自分にとって最後のバンドにするつもりで始めた

左から純市(B)、コヤマヒデカズ(Vo, G)、有田清幸(Dr)。

──コヤマさんがLyu:Lyuというバンドを始めたのは2009年ですよね。これはどういうふうにして始まったバンドなんですか?

コヤマヒデカズ(Vo, G) 前のバンドが解散してから、しばらく1人で音楽をやってたんですけど、やっぱりどうしてもバンドをやりたいと思って始めたんです。そもそも、自分の中にバンドで音楽をやることに対する憧れやこだわりがすごく強かったんですよ。でも、どうしてもうまくいかなくて。

──なぜうまくいかなかったんでしょう?

コヤマ 主に人間関係ですね。人付き合いが本当に苦手で。曲を作ってきても、それをうまくメンバーに説明できなかったりする。そうこうしてるうちに軋轢が生じて。何度もバンドを解散して。向いてないのかなと思ったんですけど、やっぱりやりたくて。だから、2人にも「これがうまくいかなかったら俺はもうバンドやらないと思う」って最初に言ったんです。自分にとって最後のバンドにするつもりで始めたバンドでした。

──3人で音を鳴らしたときに、それまでと違う手応えがあったんでしょうか。

コヤマ ありました。3人でスタジオに入って音を出して、すごく面白かったんですよ。音楽的にも、3人のルーツがバラバラで、そこに可能性をすごく感じたというのはありますね。

──コヤマさんの音楽的なルーツはどのへんでしょうか。

コヤマ エレキギターの音やバンドっていうものをカッコいいと思ったのはNIRVANAがきっかけでした。生まれて初めてロックの曲を聴いたのがそれで。もう、頭をぶん殴られたような感じになりました。ほんと衝撃だったんですよね。そこからRADIOHEADとか、THE SMASHING PUMPKINSとか、OASISとか、いろいろ聴いていって。日本のギターロックのバンド、例えばSyrup16gとか、THE BACK HORNとか、そのあたりもずっと聴いて。そのへんが自分の音楽の基礎的な部分になってると思います。

──有田さんや純市さんの聴いてきた音楽はどんな感じでしょう?

有田清幸(Dr) 中学生の頃に聴いてたのはマイケル・ジャクソンとかマライア・キャリーとかの洋楽で、高校のときとかはもう完全に日本のパンクキッズでした。そのあとにもう一度洋楽に戻るんですけど、明るくて勢いのあるところが中心で。

純市(B) 自分はもともとJ-POPが大好きで。そのあとに洋楽を聴きだして、レッチリとか聴いて、そこからファンクにハマって、一時期ファンクベーシストのローディーとかやりながらファンクを学んでいて。その後にLyu:Lyuを組んだっていう経緯です。

──なるほど。この2人と一緒にバンドを組むっていうのは、コヤマさんにとってはどんな感じだったんでしょう。

コヤマ まず、そのときの自分にとって重要だったのは、しゃべりやすい人かどうか、音を出したときに気兼ねしないかどうか、そういうことだったんですよね。結局、それまでのバンドがうまくいかなかった原因は、意思疎通ができていなかったせいだから。そういうものをなくそうと、とにかく話し合える2人を選んで。それに、お互い好きな音楽が違うからこそ、自分にはない発想やアプローチができるんじゃないかっていう。そこに可能性を感じてました。

極度のスランプだった

──今回の「君と僕と世界の心的ジスキネジア」は初のフルアルバムとなりますけど、どういう作品にしたいというイメージがありました?

コヤマヒデカズ(Vo, G)

コヤマ そういう話の前に、実は、前回のミニアルバム(「プシュケの血の跡」)を作ってる去年の頃から、もう曲がまったく書けない状態になっていたんですよ。簡単に言っちゃえば極度のスランプだった。自分がそもそもどうして音楽をやってたのかさえ見失ってた時期だったというか。

──どういう理由で曲が書けなくなったんですか?

コヤマ それまで2枚のミニアルバムを出して自分の曲を聴いてもらって、いろんな人から反応が返ってきたんですよね。「救われた」とか「がんばろうと思った」とか。もちろんうれしいんですけど、戸惑う気持ちもあって。

──というと?

コヤマ それまで、自分が作る音楽っていうのは、自分の中に溜まってる膿みたいなものを吐き出して、とにかく自分が救われるためだけにやっていたものだったんですよね。最初にNIRVANAを聴いて衝撃を受けたときからずっとそうだったんですよ。よくあるポップソングの歌詞にまったく共感できないタイプの人間で、そこで歌われてるような世界の中に自分がいるとは思えなくて。

──思春期の自分はそういう世界から疎外されていた。

コヤマ はい。そんな中で自分の好きなバンド、例えばNIRVANAやSyrup16gが歌っていた風景のほうが自分にとってよっぽどリアルなものだったわけなんですよね。そこにすごく救われた経験がたくさんあったので。自分が作るときにも、まず自分が救われることしか望んでなかったんですよね。

ニューアルバム「君と僕と世界の心的ジスキネジア」 / 2013年3月20日発売 / 2300円 / SPACE SHOWER MUSIC / PECF-3041
「君と僕と世界の心的ジスキネジア」
収録曲
  1. 神経町A10街
  2. 黒煙
  3. 回転
  4. 梗塞
  5. アノニマス
  6. 文学少年の憂鬱
  7. 君から電話が来たよ
  8. Destrudo
  9. Y
  10. ヒビ
  11. それは或る夜の出来事
Lyu:Lyu(りゅりゅ)

ボーカロイドプロデューサー・ナノウとしても知られるコヤマヒデカズ(Vo, G)と、純市(B)、有田清幸(Dr)による3ピースロックバンド。2008年、コヤマが同窓生の純市、有田に声をかけて結成。2009年よりLyu:Lyu名義で活動を開始し、2010年、1stミニアルバム「32:43」をリリース。オリコンの「ネクストブレイクアーティスト」に選出されるなど、アグレッシブなサウンドと絶望的な言葉の中に希望を垣間見せる詞が話題を集める。2011年には2ndミニアルバム「太陽になろうとした鵺」を、2012年には3rdミニアルバム「プシュケの血の跡」を発表し、「SUMMER SONIC2012」の大阪公演にも出演。そして2013年3月、1stフルアルバム「君と僕と世界の心的ジスキネジア」をリリースした。