ナタリー PowerPush - チュール

2ndシングル「思想電車」が描く故郷・北海道と東京への思い

まだまだ人生修行だなって思いました(笑)

──カップリングの「それが大人ってもんなのか」は、切り取る視点が面白いなと。子供の頃の自分が今の大人の世界を見たらこう感じてしまうのかな? ってふと考えちゃいました。

酒井 これはまさに東京に来て、ちょっといろいろ悩んでしまってたときにできた曲なんです。北海道にいた頃は、親や妹がいつもそばにいてくれて、悩みがあっても一緒に解決してくれた。でも、今は1人で自分のことを考える時間ができて、それって生まれて初めてに近い感覚だったんです。で、「これって大人になってるってことなのかな?」と改めて考えて。

──じっくりと自分に向き合う時間ができた、ってことですね。

酒井 はい。でもその反面、小さいときって余計なことを考えず無意識に家族とかを大切にできてたけど、今はそういうことを忘れがちになってるんじゃないかなって。自分は今の状況にいっぱいいっぱいになってるんじゃないか? って思いがあったんですよね。

──ちなみに、大きく悩んでしまったことって何だったんすか?

酒井 やっぱり東京に出てきて、今は音楽が仕事なわけだから曲をいっぱい書かなきゃっていう思いはありますよね。それはもちろん大事だし、ありがたい環境なんですが、いっぱいいっぱいでがんばらなきゃってやっているうちに、自分のいいところもなくなってしまうんじゃ……と思って。今は心も落ち着いて抜け出せた感じなんですが、それもやっぱり東京に来なかったら思わなかったこと。周りの人のありがたみも身に染みてわかったので、まだまだ人生修行中だなって思いました(笑)。

重松 今までは「思想電車」のような幸せな部分を切り取った歌詞が多かったので、最初にこの詞を見たときは「悩んでるのかな?」って。意外というわけではないのですが、悩んだらこういう風になるんだっていう発見が僕にはありました(笑)。

どんどん喜怒哀楽が激しくなっているのがわかる

──でも、そういった葛藤に目を伏せないところは素直ですよね。一般的には「そんなもんだ」って済ませつつ大人になっていく人も多いと思うんですよ。

酒井 あはは、ありがとうございます(笑)。でも、だからかな? 今までの歌詞は風景から入ることが多かったんですけど、こっちに来てからは心の中のものを書くことが多くなりましたね。

──重松さんには、酒井さんのそういった変化ってどう映ってるんですか?

重松 うーん、なんでしょう。でも彼女は東京に来てから、心の底から楽しそうな感じがしますね。多分悩みも多いと思うんですが、その分、乗り越えたりしたときの喜びもすごいんじゃないかなって。

酒井 それは当たってますね。私、どんどん喜怒哀楽が激しくなってるのが自分でわかるんですよ。昔からよく泣くんですけど、最近は本当にちょっとしたことでも泣けてきちゃうんです(笑)。

お母さんに曲を送ったら、歌詞を見て泣いてました

──もう1曲のカップリング「ママのうた」も、やっぱり上京したからこそ書けた感動的な内容で。

酒井 歌詞は北海道にいたときには、できてたんですよ。東京に来て、レコーディングのときは泣きそうで大変だったんです。お母さんはすごく近い存在なだけに、直接「ありがとう」っていう感謝の気持ちを伝えるのが気恥かしくて。でもいつも私の味方をしてくれて、そういう人がいるっていうのは本当に心強いこと。そんな感謝の気持ちを書きたいと思ったんです。

──歌詞には「ありがとう」という言葉はないですけど、その気持ちがめちゃくちゃ伝わってきましたよ。

酒井 曲の中でもやっぱり恥ずかしくて「ありがとう」は言えてないんですけどね(笑)。でも曲を送ったら、歌詞を見て泣いてくれたみたいで。良かったなって思いましたね。

──1枚を通して、「ママのうた」のようにすごくコンパクトな世界から、「思想電車」のように壮大な風景の曲まで。とても広がりのある1枚になりましたね。

酒井 デビューシングルのときも思ってたことなんですけど、1枚のCDを買って聴いてもらうわけだから、その中でできるだけ楽しめるものにしたいなと思っていて。いろんなチュールを見せられたらという気持ちで作りましたね。

重松 3曲とも全然違った面があると思うので。かなり広がりもあるし、楽しんでいただけるといいなと思います。

2ndシングル「思想電車」 / 2010年6月9日発売 / 1223円(税込) / Ki/oon Records / KSCL-1579

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CD収録曲
  1. 思想電車
  2. それが大人ってもんなのか
  3. ママのうた
チュール

酒井由里絵(Vo,B)、重松謙太(G)による2ピースバンド。2003年、高校生同士の2人を中心に北海道で結成。柔らかくも力強い意志を感じさせる歌詞と、酒井の透明感あふれるボーカル、おおらかなサウンドで徐々に注目を集める。ライブ会場限定で発売した3曲入りシングル「Train」は500枚以上を売り上げ、昨年4月に札幌cube gardenで行われたワンマンライブも大成功のうちに終了。その後活動拠点を東京に移し、2010年2月、シングル「見てみてよ」でメジャーデビュー。