いすぼくろ|2次創作の連鎖を絶やさないために

いすぼくろが1stアルバム「MOSAIC ART」をリリースした。

2012年に「独りんぼエンヴィー」の“歌ってみた”動画を投稿し、歌手活動をスタートさせたいすぼくろ。活動5年目にして初のアルバムとなる今作には、「ONE OFF MIND」など動画共有サイトで多数の再生回数を記録しているカバー曲のほか、ピノキオピー、MI8k、瀬名航、万玄斎といった作家による書き下ろし曲が収録されている。楽曲のカバーに限らず、イラストや動画などによる2次創作の文化が大好きだと言う彼に初アルバム制作に至るまでの経緯や、自身の音楽活動に対する思いを聞いた。

取材・文 / 倉嶌孝彦 撮影 / 佐藤類

遊び場のような雰囲気が好き

──音楽ナタリー初登場ということもありまして、活動初期の話も伺えればと思います。いすぼくろさんがニコニコ動画に最初の“歌ってみた”動画を投稿したのが2012年の12月ですが、それ以前から何か音楽に携わることはしていましたか?

実はニコニコ動画に投稿する前は、ほかのサイトで歌を投稿していたんです。それでニコニコでもやってみようかなと思って「いすぼくろ」って名前で投稿してみた最初の作品が「独りんぼエンヴィー」でした。

──「いすぼくろ」って名前、すごく変わってますよね。

よく言われます(笑)。もともと「くろ」って名義で歌を投稿していたんですけど、「くろ」って名前はすごくありきたりだなと思っていて。でもまったく違う名前でやる気も起きなくて「くろ」に声の「ボイス」を付けた「くろボイス」のアナグラムで「いすぼくろ」という名前を付けたんです。「いすぼくろ」って普通は思い付かない言葉だと思うので、今ではけっこう気に入っています。

いすぼくろ

──いすぼくろさんが動画を初めて投稿した2012年頃は、ボカロ曲のメディアミックスなどが盛んに行われ、動画文化に大きな注目が集まった年でした。

始めたばっかりの頃は周りを見る余裕がなかったから、とにかく自分が楽しかったってことくらいの記憶しかないんですけど、僕は2次創作の文化が好きで。“歌ってみた”もそうですし、例えば投稿された曲のイメージをイラストで描く人がいたり、自分でミュージックビデオを作る人がいたり。そういう遊び場のような雰囲気が好きで、毎日毎日パソコンの前に座り込んで歌を録って、自分でミックスをしてました。

アルバムを意識してスランプに

──初投稿からおよそ5年が経ち、なぜこのタイミングで初アルバムを制作することに?

実はこれまでも何度かアルバム制作のお話をいただいてはいたんですが、ずっと断っていたんです。動画投稿を始めたときからアルバムを作ることはずっと憧れていたんですけど「もう少しタイミングを待ってほしい」とお伝えして、アルバム制作の機会をずっと伺っていて。

──制作に踏み切った理由はなんですか?

今年の2月に発売したウォルピスカーターの2ndアルバム「ウォルピス社の提供でお送りしました。」でミックスを手伝わせてもらったんです。制作に携わってみて僕自身すごく楽しめたんですよね。それで自分のアルバムも出してみたいなって気持ちが強くなって、今回のアルバム制作に踏み切れたんだと思っています。でもアルバム制作を意識したらちょっとスランプみたいなものに陥っちゃって。

──スランプですか。

いすぼくろ

アルバムを作ることで、僕の活動に関わる人の数が爆発的に増えたんです。それを考えすぎちゃったからか、人の目を引かなきゃいけないって意識が働いてしまって、歌を歌うこと、動画で作品を作ることがどうもうまくいかないような気がしてしまって。アルバムを作るって決意する前のほうが、伸び伸びやれてたんですよね。

──そのスランプはどう脱却したんですか?

アルバム制作に入って、ジャケットを描いてくれた街屋なぎさんや、楽曲の書き下ろしをお願いした作家さんたちがすごくいい作品を上げてきてくれて。「うまくいかないとか言ってる場合じゃない。期待に応えなければ失礼だ」って気持ちに切り替わったんです。そこからどんどん意欲が湧いてきて、最終的にはけっこう前向きな気持ちで取り組むことができて、いい勢いのまま制作を終えられたと思っています。

──動画投稿者の中には、わざわざCDにしなくても自分の表現したい音楽は動画で公開できる、というスタンスの方もいます。いすぼくろさんにとってアルバムを作ることはどういう感覚ですか?

アルバムを作るってことに対してずっと憧れはありました。でも僕は活動の軸として使っているニコニコ動画という場所がけっこう好きで。もともとニコニコ動画っていわゆる“メジャー”につながるようなものではなかったと思うんです。アンダーグラウンドな感じがあったと言うか。僕個人としてはそのアングラな感じも好きだったので、自分がアルバムを作るような“メジャーな存在”になることでいいのかって思っていたところもあります。もちろんアルバムを作れるのはうれしいんですよ。でもうれしい中に寂しさもある、みたいな。ちょっと複雑な感じは確かにありました。ただアルバムでも僕のやりたいこと、ニコニコ的な2次創作に近いことはできるんじゃないかなって思うところもあって、今回アルバムを作ることにしたんです。

いすぼくろ「MOSAIC ART」
2017年11月22日発売 / Subcul-rise Record
いすぼくろ「MOSAIC ART」

[CD]
2400円 / SCGA-00066

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収録曲
  1. ONE OFF MIND
    [作詞:蜂屋ななし / 作曲:VAN DE SHOP]
  2. フィクサー
    [作詞・作曲:ぬゆり]
  3. スマートを模索する
    [作詞・作曲:sasakure.UK]
  4. 路地裏タッグ
    [作詞・作曲:Task]
  5. シンクスリム
    [作詞・作曲:ピノキオピー]
  6. ラウジーカ
    [作詞・作曲:saiB]
  7. 甲斐甲斐しい言葉の闇に
    [作詞・作曲:ただのCo]
  8. ログライト
    [作詞・作曲:万玄斎]

  9. [作詞・作曲:瀬名航]
  10. 嗤うマネキン
    [作詞・作曲:MI8k]
  11. シルバーワープ
    [作詞・作曲:MI8k]
  12. シャルル
    [作詞・作曲:バルーン]
いすぼくろ
いすぼくろ
男性ボーカリスト。2012年12月、ニコニコ動画に「独りんぼエンヴィー」の“歌ってみた”動画を投稿し、以降定期的に歌唱動画を公開している。投稿楽曲のほとんどのミックスを自身で手がけているほか、アーティストのアルバム制作に携わるなどサウンドエンジニアとしても活躍する。2016年2月投稿の「ONE OFF MIND」の歌唱動画が63万回以上の再生数を記録(2017年11月時点)している。2017年11月には自身初のアルバム「MOSAIC ART」をリリースした。