ロックをやってる自分に違和感を感じる

——1stみたいなアンビエントな音楽をやって得られたことってなんですか。

ああいう音楽には、ああいう音楽の見せ方があって。見せ方がおかしいと、おかしく見えるんですよ。ああいうアンビエントな音楽のときに、たとえばゴリゴリなロックの世界観は合わないし。それをなるべく排除して見せていくほうが、よりアンビエントとして伝わる。ロックをやる場合は、よりロックというものを見せていくっていうか、よりロックらしくに聴こえなきゃいけないっていうか。そういう演出に意識的になるっていうか。それがわかりましたね。

——さきほど、歌ものにどうやって持っていくのかが課題だったって言ってましたけど。中村さんにとって歌ものはイコール・ロックっていうことなんですか。

うーん……、ロックと言ったほうがわかりやすいと思うんですよ。だから今回あえてこういうアルバムタイトルにしたわけで。

——そのほうがわかりやすいっていうのは、厳密に言うと違うっていうことなんですか。

うーん……厳密に言うと、どうなのかわからないんですよ。ロックってこうだよねって定義して演出してロックやる自分がロックなのかって言ったら、微妙だから、っていうのが気持ちの中にあるんですよ。じゃあ、なんなんだって言われると、なんだったんだろうっていう。

——自分の本質はロックではない、と?

うん。

——ロックをやっているけどロックじゃない、と。

うん、なんかちょっと違和感があるんですよ。

——ロックの定義ってなんですか?

うーん……なんか、新しい価値観を提示するものなのかなあとは思ってますけど。なんか物事があって。それに対する、新しい捌け口みたいなものをどんどん作ってって。それがどんどん拡散してって。

——サウンドのスタイルとは違うってことなんですか。

ああ。サウンドのスタイルは関係ないですね。それはなんでもいいと思うんですけど。でもいわゆるロックらしさというのはギター、ベース、ドラムがいて……みたいな形のほうがわかりやすいから。

——例えば、iLLの1stみたいなのをロックだっていうのはわかりづらいけど、今回のをロックだっていうのはわかりやすく伝わるっていうこと?

うーん……まあ、1枚目がロックかと言われると疑問があるんだけど。でも、演出、見せ方としてはそうかもしれないですね。

今までは絶対にリスナーのほうを向きたくなかった

——やっぱり、今回はリスナーのことを意識したって面が大きいんですかね?

うん。そうですね。わかりやすさっていう面ではそうですね。

——たぶん今作は中村さんが初めてリスナーのほうを向いたアルバムじゃないのかなと思うんですよ。スーパーカーの頃から通じて。

ああ、そうですね。それが一番近いですね。自分がロックなのかどうかっていう疑問と一緒で。それでいいのか、リスナーに向いていいんだろうかっていう。

——躊躇があったんですか? 今までは。

いや。今までは絶対に向きたくなかったから(笑)。

——(笑)絶対って言い切りましたね。

それはずっとあった。

——それが今回、どういう心境の変化があったんですか。

うーん……リスナー、聴いてる人、聴いてた人になにかを伝えるっていうところの面白さに気づいたっていうか、わかったと言うか。それが今興味あるところ。

——じゃあ、今まではリスナーに何かを伝えようとは思わなかったってことですか。伝えることには関心がなかったと?

うーん。なんかこう、わかりやすく伝えることに関心がなかったっていうか。

——バンドでライブやってお客さんが満杯になって熱狂してる。そういうのを見て、自分たちがやってることが共感を呼んで盛り上がってると、普通は思いますよね。でもそういうことは自分たちとしては求めてなかったってこと?

うん。なんていうか、(自分のやってることを)わかってる人は——わかってるって言い方はあんまりよくないけど——あまり多くないだろうなあって思いながらやってたし。ああいうの、あんま信用してないっていうのがあったから。

——じゃあ、どんなに盛り上がってても、冷めた目で見てたって感じだったの?

うん、わりとそうでしたね。冷めた目で見てたって、そんなにひどかないけど(笑)。いつ終わらせたらいいのかなあとはずっと思ってたから。

——何を?

バンド。

——へえ……。

いつか辞めなきゃいけないから。ずっとそこにいるわけじゃないので。好きなことやっていけばいいと思うし。10年もやんなきゃいけなかったりするバンドもいるけど、そういうのはちょっと……。

——ひとつのところに留まってるのがいやだっていう?

うん。

——長年バンドをやってると、バンドに対するイメージみたいなものがついてしまう。そのイメージ通りに応えなきゃいけないのが負担になってくると。

ていうのもありましたね。人のバンドを見てるぶんにはいいんですけど。自分が関わるバンドになると途端にこう……。熱中してるときはいいんですけど、してないときは、これいつまでやるんだろうって思いますけどね。

——でも、今回そういうのが変わってきた。

うん。バンドがなくなったら変わりましたよね、割と。バンドっていうことじゃなくて。自分のことで作品が出せるから。

iLL 3rd Album 『ROCK ALBUM』

ジャケット写真

2008年8月6日発売 3059円(税込)/ KSCL-1278 / Ki/oon Records

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CD収録曲
  1. Cosmic Star
  2. Scum
  3. Merry Dance
  4. Moon Child
  5. Guitar Wolf Syndrome
  6. Sad Song
  7. Love Is All
  8. Ginger
  9. Fog
  10. Truth
  11. Space Rock
プロフィール

iLL(いる)

2005年に解散したロックバンド・SUPERCARのフロントマン、中村弘二による音楽プロジェクト。2006年5月に全曲インストゥルメンタルによるアルバム「Sound by iLL」をリリースし、「FUJI ROCK FESTIVAL 06」ではレーザーを駆使した演出と自然との共演で高い評価を得る。2007年1月には文化庁メディア芸術祭10周年記念展にて演奏。2007年5月に1stシングル「Call my name」、2008年3月には2ndアルバム「Dead Wonderland」をリリースしている。