ナタリー PowerPush - hitomi

動物的勘でインディーズに移籍!? 世界的プロデュース集団と生んだ痛快新作

面白いかもしれないならチャレンジすべき

──サウンドについてですが、今回、マドンナ、カイリー、ビヨンセ、ケイティなど、世界中のヒットを手がけるプロデュース集団aamとタッグを組んでますよね。そこに到った経緯は?

まず私のディレクターが、非常にキャラの濃い人なんですね(笑)。彼は、はっきりとしたイメージを持って、いろいろと提案してきてくれる。で、今回はそのaamのデモをたくさん持ってきてくれたんです。そのどれもが、今までやってきたものとは全然違ってた。あえてhitomiに寄り添いすぎないその提案が、面白いなとも感じたんです。ただ、正直一瞬躊躇しました。それはなぜだろうと考えたときに、結局ただ怖いだけじゃないか、というところに行き着きましたね。人間、結果の見えないことって怖いじゃないですか。この橋を渡れば素晴らしい景色が見えるかもしれないけど、もしかしたら途中で落ちて、ワニに食われちゃうかもしれない(笑)。

──確かに。

でも、少なくとも自分がやったら面白いかもしれないと思えているなら、チャレンジすべきだなと。

──たくましいかぎりですね。

もちろん、aamのデモを聴いて、これは好き、これは好きじゃない、これはできる、これはできないとチョイスしたのは私自身です。外国曲ならではの譜割に日本語を当て込むことで、新たな発見もたくさんありました。

若い世代はどんだけ怒られるのがヤなんだよ

──今回、言葉がすごく具体的でハッキリしているなと思ったんですが。

「LOVE2000」にも書いた「愛はどこからやってくるのでしょう」という根底のテーマはデビュー当時からずっと変わらないけれど、家庭を持って、生活や環境と密接にかかわるようになったことで、その表現がより具体的で強いものになった気がします。

──歌詞がどんなふうにできてきたか、いくつか聞かせていただけますか? 例えば「Private Flower」は?

これは結婚生活の中で感じたことですね。結婚が日常になると、とかく男性って、自分の忙しさにかまけて奥さんの話も聞かなくなるものじゃないですか。それって、お互いの間に咲いていたはずの、とてもプライベートで大切なものをおろそかにしている証拠。そのことにさえ気付かない世の男性に対して、言いたい気持ちを綴ってみました(笑)。

──「Lights on☆」はどうでしょう?

最近、私より若いスタッフが増えて、その一連の行動を見るにつけ感じてたんですけど、彼らっていわゆるコンピュータ世代なんですね。何かをしたくてもその過程で失敗するのがイヤで、求める前に感情をストップさせてしまう人が多い。例えば仕事で遅刻したら、こっちとしては「すいませんでした!」と駆け込んできてほしいじゃないですか。ところが、遅刻したらそれっきり連絡もなく辞めてしまう人も珍しくない。どんだけ怒られるのがヤなんだよって思うんです(笑)。たかが遅刻で、面と向かって謝ることもできない、そんなふうな人とのかかわり方では、本当の愛になんてたどりつけるわけないよということを言っておきたいなと。

──「不自由なんて 誰が決めたの?」という強烈な言葉がある「Freedom☆」は?

これはちょっと聴いただけではそうは感じないと思うんですけど、実は「子育てはツラい、自由がない」と嘆いているママたちに向けて書いたものなんです。そう決めつけてるのは自分自身であって、ちょっと角度を変えれば物事は違って見える。本当は自由なんだよということを言いたくて。

──具体的なテーマが、本当にhitomiさんの日常の視点から生まれてるんですね。

ここ2年ほどの間にいろんな人と出会い、いろんな経験をして視野が広がった分、また新たに言いたいことも増えていきました。なんかもう、アルバムという区切りで制作してないのかもしれないですね。以前より、そのときどきで思ってることを、ダイレクトに歌詞にしてる気がします。

純粋な感覚で動いていけたら

──ラストに、WEEZERのリヴァース・クオモさんとのデュエットも収められてます。

あれは、レコーディングの最後の最後に出会った曲。聴いてすぐ「あ、これいい」と思ったので、急遽入れました。といっても、失礼ながらその段階ではWEEZERのことはあまりよく知らなかったんで、今までの作品を勉強してから臨みました。リヴァースさんのお茶目な歌いっぷりに引っ張られて、すごく楽しく歌えましたね。

──hitomiさんの「これ、いい!」っていう勘が、すごく生かされたアルバム、という気がします。

そうですね。なんか最近、物事をあまり凝視しないでジャッジできる体になっている気がします。まぁ、凝視してる暇もないんですけど(笑)。でも、その自分の中の動物的勘みたいなものは、大事にしたいって思いますね。その人がどこの誰とやってるからスゴい、というチョイスじゃなくて、かかわった瞬間に自分が気持ちいいかどうか。その純粋な感覚で、これからも動いていけたらなと思っています。

ニューアルバム「SPIRIT」 / 2011年4月27日発売 / 2980円(税込) / maximum10 / MXMM-10113

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CD収録曲
  1. Hands up!!
  2. Time Machine
  3. Private Flower
  4. 2010 ~金儲けのHeaven & Paradise~
  5. Lights on☆
  6. Spirit☆
  7. Sweet & Honey
  8. Love me♡ Love body☆
  9. Freedom☆
  10. Supernova
  11. Song for you☆
  12. Rollin' wit da Homies ft. Rivers Cuomo
hitomi(ひとみ)

hitomi

1976年生まれの女性シンガー。1993年からファッションモデルとして活動を開始し、10代の女性の間で絶大な支持を獲得する。1994年に小室哲哉プロデュースによるシングル「Let's Play Winter」でCDデビュー。翌1995年のシングル「CANDY GIRL」が30万枚を超えるヒットを記録し、トップアーティストの仲間入りを果たす。「LOVE 2000」「MARIA」「SAMURAI DRIVE」などコンスタントにヒットを飛ばし、ベストアルバム「h」「SELF PORTRAIT」はともに50万枚を超える売り上げを達成。また映画「悪夢探偵」などで女優としても活躍している。2008年12月に第一子を出産。休養期間を挟んで、2009年6月にリリースしたアルバム「LOVE LIFE 2」では、ジャケットでマタニティヌードを披露。同時にヌード写真集も発表し、大きな話題を集めた。