ナタリー PowerPush - hitomi
動物的勘でインディーズに移籍!? 世界的プロデュース集団と生んだ痛快新作
妊娠中に制作された「LOVE LIFE 2」から約2年、すっかり母親業も板についたhitomiが、今度は子育てをしながらじっくりと取り組んだアルバム「SPIRIT」をリリース。しかも、これを機にインディーズレーベルに移籍することを発表し、世間を驚かせた。さらに今回はあのマドンナやカイリー・ミノーグ、ビヨンセやケイティー・ペリーを手がけたプロデュース集団・Advanced Alternative Media(aam)と、全曲ガッツリとタッグを組んでいる。これはスゴいニュースじゃないか。が、当の本人は、「そんなとこですよ(笑)」と、いたってシンプル。まったく力んでないけれど、確実に自分から動いているそのスタンスが、実に爽快だ。そんなhitomiに、今の境地に到った経緯を、さまざまな角度から語ってもらった。
取材・文/藤井美保
子供ができて世の中の見え方が変わった
──まず、この2年ほどで、どんなことが変わってきましたか?
子供ができて、やっぱり世の中の見え方がいろいろ変わってきましたね。そこで感じたことをちゃんと伝えなきゃ、と思うようにもなりました。自分の子供に対してもそう。けっしてお手本を見せなくちゃということではなくて、「お母さん、こういう人だよ、ごめんね(笑)」というふうに、ありのままの姿を見せたいなと。だから、私、無理してがんばったりしてないんですよ。それより、自分らしい生き方をすることが大切だと思えたから。そしたら、いろんなことをやろうと思うようにもなりました。
──「お母さんとはこうあるべきだ」という固定観念に縛られていないんですね。
それに縛られちゃうと保守的になって、なんかこうどんどん教育ママみたいになっていっちゃうと思うんです。そうじゃなくて、人としてどうありたいかというところに、常に気持ちの軸を置いておきたいんですよね。
──お子さんのいる家庭を持つ身で、今後どう仕事をしていけばいいか、なんてことも考えたりしましたか?
しましたよ。次どこにmoveすべきか、もうそれは自分から動いて見つけていくしかないなと何につけ思うようになりました。
──ママフェスに出たり、ベビーウェアを手がけたり、バラエティに進出したりと、いろんなエリアでhitomiさんを見かけるようになりましたが。
今までは、当たり前に、ここだと思っていた場所でしか歌っていなかったと思うんですね。
──露出するにあたってのイメージが、少なからずありましたもんね。
そうですね。でも今はもう、「こういうイメージでこういうふうに出ていく」みたいなプランって、逆に古くなってると思うんです。むしろ「えっ、こんなところに?」という場所に現れるほうが、受け手側もワクワクするんじゃないかなと。
──このところ、バラエティ出演が多いのもその一環ですか?
そうです。最初のうちは「ホントに出てもらえるんですか?」なんて、なんかこっちが申し訳ないくらいありがたがられました。でも、私としても「やっべー、今日紳助さんに会っちゃった」みたいなことって、実は楽しいんです(笑)。いろんな年齢層や多種多様なエリアの方たちとお会いすることで、なるほどと思うことも多い。そこから得たものが、自分の娘を教育していく上でも役に立っていくだろうなって思いますね。誰とでも分け隔てなく交われる人になってほしいと願っているので。
──何につけ、自分から動いていくってことが大事なんですね。
音楽の市場のあり方も変わってきてるので、たぶん動かないでいると、停滞したまま、よくわからないうちに終わってしまう気がするんです。そうじゃなくて、求めてくれる人がいて、自分自身がそれを面白がれるなら、どこにでも行って、どんな人に対しても歌いたいと思うようになりました。
hitomiの音楽を知らなかった人たちに届く可能性
──インディーズ移籍という発想も、そういった一連の動きの中で出てきたものなんでしょうか?
最初は「そもそもインディーズって何?」という感じだったんです。メジャーレーベルが「売ってあげるけどメリットももらう」というものだとしたら、インディーズはフリーマーケットみたいなものかな、というくらいの認識しかなかった。ただ、今までとは違った切り口を探してる時期だったことは確かですね。
──というと?
デビューからずっとメジャーで活動させてもらってきたんですけど、その間エイベックスも大きくなって、あるひとつの色濃いブランドイメージを持つようになったと思うんですね。さらに、会社として押し出すべき旬のアイテムというものもたくさんある。そういうシステムの中で、今のhitomiが普通にアプローチしていっても、きっと振り向いちゃもらえないよね、という私自身の判断がまずありました。だったら切り口を変えて「エッ、なんでこんなところに?」と思われるところからリリースしたほうが、逆にこれまでhitomiの音楽をまったく知らなかった人たちにも届く可能性があるかもと思ったんです。
──柔軟な発想ですね。
留まっていると埋もれちゃう、当たり前の場所でやっても光らない。ならば、姿形をちょっと変えてみればいいんじゃないかなと。結果として何も変わらないかもしれないけど、変わるかもしれないと期待してみようってことですよね。
──いつもと違うオシャレで出かけてみました、みたいな感覚?
あるいは、デートスポットを変えてみたくらいのことですよね。そしたら、お互い意外と新鮮だったってこともあるわけじゃないですか。そんな感覚でインディーズ(笑)。要は、聴いてくれる人が増えたらいいなってことなんです(笑)。
CD収録曲
- Hands up!!
- Time Machine
- Private Flower
- 2010 ~金儲けのHeaven & Paradise~
- Lights on☆
- Spirit☆
- Sweet & Honey
- Love me♡ Love body☆
- Freedom☆
- Supernova
- Song for you☆
- Rollin' wit da Homies ft. Rivers Cuomo
hitomi(ひとみ)
1976年生まれの女性シンガー。1993年からファッションモデルとして活動を開始し、10代の女性の間で絶大な支持を獲得する。1994年に小室哲哉プロデュースによるシングル「Let's Play Winter」でCDデビュー。翌1995年のシングル「CANDY GIRL」が30万枚を超えるヒットを記録し、トップアーティストの仲間入りを果たす。「LOVE 2000」「MARIA」「SAMURAI DRIVE」などコンスタントにヒットを飛ばし、ベストアルバム「h」「SELF PORTRAIT」はともに50万枚を超える売り上げを達成。また映画「悪夢探偵」などで女優としても活躍している。2008年12月に第一子を出産。休養期間を挟んで、2009年6月にリリースしたアルバム「LOVE LIFE 2」では、ジャケットでマタニティヌードを披露。同時にヌード写真集も発表し、大きな話題を集めた。