ナタリー PowerPush - 後藤まりこ
衝動と欲望を肯定するソロデビュー
後藤まりこがソロ初となるアルバム「299792458」(読み:後藤まりこ)をリリースした。今や伝説となったロックバンド、ミドリの電撃解散から約1年半を経て完成した本作はAxSxE(G)、千住宗臣(Dr)、仲俣“りぼんちゃん”和宏(B)、渡辺シュンスケ(Key)といった良き理解者たちの力を借り、ハードコアな芯を残しつつも素のままの彼女の表情が伺える内容に。ここに至るまでの経緯と、彼女自身の変化について話を訊いた。
取材・文 / 大山卓也 撮影 / 平沼久奈
今のボクは生まれたときの感じに近い
──かわいいアルバムになりましたね。
ほんま? え、かわいいだけ?
──いや、かわいいだけじゃないですけど(笑)。バンドのサウンドもすごく冴えてるし、歌がちゃんと中心にあって、後藤さんの思いが聴き手に伝わる作品だと思います。
ありがとう。せやな、曲は鼻歌で作ってメンバーに聴かせるんやけど、今回はメンバーがちゃんとキャッチしてくれて、すごいコミュニケーションとって作れたから良かった。
──後藤さんの歌をメンバーがしっかり支えている印象がありますね。
うん、ちゃんとみんなボクのやりたいこと抽出してくれてる。
──それにバンドメンバーが変わっただけでなく、後藤さん自身も変わりましたよね。
ボク? そうやね。わりかし変わった。良くなったやろ?(笑)
──そう思います(笑)。
うん、良くなったって思うねん。芯は変わってないつもりやけど。なんかわからんけどミドリのときと違って、今のボクはわりかし生まれたときの感じに近い。そこに戻れてるんかなあと思う。
──自然体ということ?
言葉にしたら恥ずかしいけどそういうこと。普通になった。
──「普通になった」ということは、ミドリの頃は普通じゃなかったということですよね。
普通じゃなかったんちゃう? 普通じゃなかったと思うで、あれは(笑)。
──でも何かを演じてたというわけでもなく。
そうそう。でもなんか普通じゃない心境で……わからへん、異常な人見知りやったんかも。ヘンなところに気を遣いすぎる人みたいな。うん。
──バンドを背負って立つ使命感みたいなものもあった?
うん。「売れなきゃ」っていうんは思っとったよ。メンバー食べさせていかなあかん、とか。でもその感じが、なんていうんやろ、バンドにとっていいように作用してるときもあったと思うけど……。
──ソロになってからはそういう気負いはなくなりました?
うん。あんまないかも、なくても音楽できる。
飲んでみたら全然飲めてん
──何が後藤さんを変えたんでしょうね。
わからへんけど。あ、飲めるようになったのは大きいと思うねん。
──いつからお酒を飲むようになったんでしたっけ?
えっとね、めっちゃ最近やで。2010年の秋とか冬とか。
──ミドリの解散が2010年末ですから、その前くらいからですね。何かきっかけがあったんですか?
え、わからへん。周りに飲む人がおったから?
──逆にそれまではどうして飲まなかったんですか?
飲んだらあかんと思ってた。思い込み(笑)。なんでかはわからへん。でも飲んでみたら全然飲めてん。
──それまでは自分をストイックに律したいという気持ちがあったとか?
ああ、あったあった。あったけど……ボク、そのストイックさのベクトルを間違えててん。それで息も詰まるし「ごめんね」ってなった(笑)。
──確かに後藤さんはストイックで、自分にも他人にもすごく厳しい人だったと思うんです。今はもう少し余裕ができたというか、優しくなった感じがするんですよね。
そうやねんなあ……そうかも。なんか自分のことをそんなはっきりした日本語で考えてはなかったけど、うん……言葉にしたら、おうてると思います。
ニューアルバム「299792458」 / 2012年7月25日発売 / DefSTAR Records
CD収録曲
- HARDCORE LIFE
- ままく
- M@HφU☆少女。。
- うーちゃん
- ゆうびんやさん
- ドローン
- ユートピア
- あたしの衝動
- 299792458_TOKYO-U
初回限定盤DVD収録内容
- 「あたしの衝動」ミュージックビデオ
- 「ままく」ミュージックビデオ
- メイキング
後藤まりこ(ごとうまりこ)
大阪府生まれ。2003年に結成したロックバンド・ミドリでボーカルとギターを担当する。ジャズとパンクを融合した音楽性と、セーラー服姿での激しいパフォーマンスで話題を集めるも2010年12月30日のライブを最後にバンドは突然解散。しばらくの沈黙の後、2011年12月27日に開催した自主企画イベントでソロとして再始動を果たし、2012年7月25日にソロ1stアルバム「299792458」をリリース。同年8月からはロックミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」に森山未來とともに出演する。