ナタリー PowerPush - クラムボン

ミト×しろくまカフェ ポップでディープなアニメの世界

「寝なきゃいいんじゃないかな」としか思わない

──そんな中で、大きくアニメや周辺の文化への揺り戻しがあったのはなぜですか?

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2004年あたりから音楽シーン全体が劇的に変わったのを感じて。まず音楽からメロディがなくなったと感じたのが、ビョークが「Medulla(メダラ)」を出したとき。かたや周りはRADIOHEADだポストロックだジャムバンドだの時代になって、私みたいに歌モノを作ってると「?」みたいな。失われつつある何かに、否が応でも気付かなくてはならなくて。かたやメロキュアが「メロディック・ハード・キュア」を出したのもこの頃なんですよ。私は全然こっち側なんだなって思って。ちょっとメロキュア周りのことを友達と話せば「いやいやおかえりなさい」の世界で(笑)。「なんだ今さら言ってんのかお前」みたいな。その流れで、MOSAIC.WAVの「AKIBA-POP」が2005年かな? そして2007年の「らき☆すた」で「もってけ!セーラーふく」があって、もう完全にこっちのほうが面白いぞと。

──2000年代中盤以降は電波ソング的なせわしない音楽がアニソンにおける主流のひとつとなりましたが、この手の音楽はクラムボンとは大きくかけ離れてますよね。そういった音楽についてミトさんが具体的に話しているのを拝見して、初めはすごく意外に感じたんですよ。

音楽って分析していくものではなくて、なんて言うのかな……ボディソニックなわけですよ。面白ければ面白いとすぐにわかるのが音楽だと私は思っているので。極端なビートが聴きたければTO ROCOCO ROTやMOUSE ON MARS、AUTECHREを聴くし、かたやメロが聴きたかったらアニソンを聴けばいい。どっちがどっちとか思わないし、ただただCDの数が増えていき、ただただ聴く音楽が増えていき、観るものが増えていき、眠れなくなるだけっていう。

──すごく訊きたかったんですけど、その「眠れなくなる」問題はどう解決してますか? 多忙な中で、ありえない分量のアニメやアニソンを消化してますよね。

「寝なきゃいいんじゃないかな」としか思わないですね(笑)。

──究極はやっぱそれなんですね。クラムボン以外の音楽活動もあるし、家庭のこと、育児もあるでしょうし、どう考えても同じ24時間を生きているとは思えないんですよ(笑)。

いやいや、クローンなんかいませんよ(笑)。中学3年ぐらいからずっと「オールナイトニッポン」の2部まで聴いてたし、もうかれこれ20年は平均睡眠時間2~3時間ですけど、大きな病気にかかったこともないし。あまつさえ子供も3人にまでなっちゃって、自分の時間は全然コントロールできないわけですよ。なのに、案外平気なんですよね。それは多分、総じて楽しいことばかりずっとやり続けてるから、ストレスを感じてないんだろうなと。

アニメにリスペクトがないと速攻でバレる

──そうやって自分が愛情を持って接していたアニメの世界に、アーティストとして関わることは、うれしさはもちろんとしてプレッシャーも大きいのでは?

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ありますね。やっぱりクラムボンとして作ってるものは、とにかく自分たちの音楽を作ればいいんですけれども、やっぱりアニメではいろんな人と関わりからストーリーまで愛してないとできないというか。そこにリスペクトがない状態で音楽を入れてしまうと、ユーザーに速攻でバレるわけですよ。愛がないものは。自分たちだけが満足しちゃダメなんですよね。サビのリフレインでうちらのメロを聴いてもらおうみたいな主張は必要ない。それがあって「はなさくいろは」(2011年4月より放送「花咲くいろは」エンディングテーマ)はリフレインなしの曲になったわけですけど。あくまで自分たちがツールとなって動かせるかが重要だよな、っていうのは常々考えてますね。

──ここでようやく本題です。今回の「しろくまカフェ」2期オープニングテーマに起用された「Rough & Laugh」ですが、ものすごく「アニメのオープニングテーマだ!」と思ったんですよ。

いやあ、うれしいです。

──クラムボンの世界観は残しつつ、ぴったり「しろくまカフェ」の世界観に寄り添っていて。映像とのシンクロぶり、アニメの世界観の汲み方はもちろんですけど、「アニメのオープニングテーマ」としての機能をかなり意識したのではないかと。

どうだろうなあ。自分たちなりに精一杯にやったつもり。「しろくま」1期のオープニングテーマだったJPさんの「ボクにインビテーション」は、キラキラしたエレクトロトラックだったでしょう? あのキラキラ感と、アニメ全体のパステルカラーなイメージは引き継いでいけたら面白いかなと思ったんですね。あとはメロを作る段階で私の中に最初から「わになって」というフレーズが出てきたので、動物たちのコミュニティ的な感じがキャッチーに出せたらいいなって。そんなところかなあ。

PPPHができちゃった

──元々「しろくまカフェ」はご覧になってたんですよね。どんな印象を持ってましたか?

最初はまず「よくまあこんなに有名どころの声優さんが集まったな」と(笑)。櫻井(孝宏)さんも福山(潤)さんも神谷(浩史)さんも中村(悠一)さんも、みんな視聴者のつかみ方がすごいですよね。ある種あまり感情を出さない絵じゃないですか。

──パステルカラーでキャラクター的な強さがあるけど、描写は実はすごく写実的ですよね。

それであそこまで表現できるのはすごいなと。シュールな世界の中で、普通すぎるがゆえに浮きすぎる遠藤(綾)さんとか(笑)。だからテーマソングには、そのシュールさ加減に合った明るさみたいなのがほしいなと思ったんですよ。そのふわふわ着地しない感じに、きれいにオープニングからバトンを渡せるように。

──画面に流れる歌詞が柔らかいひらがななのも、すごくいいなと思いました。

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夕方枠だからあまり小難しいことはしないようにしたいな、というのもありましたね。子供も観てるし。ちゃんと子供たちが歌えるようなものがいいかなと。これが深夜帯だったらシュールな意味合いも少し変わってきて、曲ももっと遊んだ感じになったと思いますけど。今回は難しくならないように……ってやってたら、なぜかBパートがちゃんとできて「すげえ、PPPHができちゃった」って。

──そうなんですよ! 「クラムボンの曲にPPPHが出てきた!」という驚きも大きい曲ですよね(笑)。このAメロ、Bメロ、サビの役割がはっきりしてる感じが、よりアニソンらしさを出しているのかなと思ったんですけど。

でもね、クラムボンの範疇ではそもそもピアノトリオ以上のことができないから、なんというか、キラキラもこのあたりが精一杯で(笑)。もっとキラキラできないもんかなと思ったんですけどね。

──あはははは(笑)。でも結果、クラムボン史上最もキャッチーかもしれない曲が誕生しました。

シングルとしてはそうかもしれないですね。久々に「サラウンド」(2001年5月発売)みたいな抜け感はすごくあるなと思ってますけど。

ニューシングル「Rough & Laugh」2012/11/21発売 avex marketing
ニューシングル「Rough & Laugh」 / CD+DVD盤[CD+DVD] / 1890円 / AVCA-49969/B
ニューシングル「Rough & Laugh」 / CD盤[CD] / 1260円 / AVCA-49970
ニューシングル「Rough & Laugh」 / タワレコ限定盤[CD+DVD] / 1890円 / AVC1-62017/B
CD収録曲
  1. Rough & Laugh
  2. Rough & Laugh -Rings Around Laugh REMIX- by kz
  3. Rough & Laugh -A-bee REMIX- by A-bee
  4. Rough & Laugh –melting the ice in my foolish heart REMIX- by Go-qualia
  5. Rough & Laugh TV size(※CD盤は除く)
  6. Rough & Laugh(Instrumental)
CD+DVD盤 DVD収録内容
  • 「しろくまカフェ」ノンテロップオープニング映像
CD+DVD盤 初回特典
  • 「しろくまカフェ」描き下ろしイラストスリーブジャケット
  • 「しろくまカフェ」オリジナルオーナメント
タワレコ限定盤 DVD収録内容
  • 「Rough & Laugh」ビデオクリップ
タワレコ限定盤 初回特典
  • オリジナルスリーブジャケット
  • 「クラムボン」オリジナルオーナメント
「しろくまカフェ」とは?

毎週木曜夕方17:30~
テレビ東京系にて好評放送中!

しろくまカフェ

クールなシロクマくんがマスターをしている“しろくまカフェ”。お店は毎日、動物や人間のお客さんで繁盛しています。カフェを中心に、シロクマくんと常連さんたちが繰り広げるダジャレ&ほっこりスローライフ。今日もとぼけた会話が弾みます。

© ヒガアロハ・小学館 / しろくまカフェ製作委員会2012

最新作「しろくまカフェ cafe.5」2012年11月30日発売 avex marketing
通常版 [DVD] / 4725円 / AVBA-49937
アニメイト限定版 [Blu-ray Disc] / 7140円 / AVX1-49941/B
クラムボン(くらむぼん)

プロフィール画像

原田郁子(Vo, Key)、ミト(B)、伊藤大助(Dr)によるスリーピースバンド。1996年に同じ専門学校に通っていた3人により結成。1999年にシングル「はなればなれ」でメジャーデビューを果たす。自由で浮遊感のあるサウンドとポップでありながら実験的な側面も強い楽曲、強力なライブパフォーマンスで人気を集め、コアな音楽ファンを中心に高い支持を得る。2011年には約50カ所におよぶ全国ツアー「ドコガイイデスカツアー 2011」を開催。11月には東京・両国国技館で初のアリーナワンマンライブを成功させた。2012年3月には2枚組ライブアルバム「3peace2」を発表。11月21日にはニューシングル「Rough & Laugh」をリリースする。