ナタリー PowerPush - クラムボン

ミト×しろくまカフェ ポップでディープなアニメの世界

テレビ東京系列で放送中のアニメ「しろくまカフェ」のオープニングテーマに起用されたクラムボンの新曲「Rough & Laugh」が、11月21日にシングルとしてリリースされる。この曲はアニメのテーマソングとして書き下ろされたもので、「しろくまカフェ」の世界観に寄り添ったカラフルでキャッチーな1曲に仕上がっている。

今回ナタリーでは新曲「Rough & Laugh」の作・編曲を手がけたミト(B)を直撃。生粋のアニメファンとしても知られる彼のディープなオタク遍歴を探りつつ、「しろくまカフェ」とテーマソング「Rough & Laugh」について語ってもらった。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 佐藤類

神保町が生んだエリート

──最近は生粋のアニメファンとしても広く認知されているミトさんですが、その原体験というか、アニメにハマッたきっかけはどのようなものだったんですか?

インタビュー写真

原体験となると、私の世代はやっぱり宮崎(駿)アニメですね。小学校4年のときに「風の谷のナウシカ」を観て、アニメ雑誌に手を伸ばして。地元が神保町という本屋街だったりもしたので、ちょっと歩けば「コミック高岡」という聖地的なお店もあり、違和感なくその文化に入れたんですよ。

──それはすごく恵まれた環境ですよね。あの時代だと地方ではそうそう情報もなかったので。

私はFSS(永野護「ファイブスター物語」)の同人誌を作ってたことがあるんですけれども、製本屋さんの友達もいるからそんなに苦労しないで作れたり。工場に行ってご挨拶したりとか、本当に小さなコミュニティの中で、部活的な気軽さでそういう世界にいられたんです。そういう趣味はね、そんなポップなものでもないから(笑)。みんなでガヤガヤとするわけではなく、ひっそりと。ちょっとみんなとは違う優越感的なものを感じながらやってましたね。

──今のオタクカルチャーとも少し違う、ちょっと特殊なコミュニティという感じがありましたよね、当時は。1980年代後半にはその文化もかなりディープに加速しました。

ゆうきまさみさんの「究極超人あ~る」があり「機動警察パトレイバー」があり、なおかつFSSの1巻2巻が出始め、「宇宙皇子」と同時上映でFSS劇場版があって……みたいな流れでグッと。メカ的なものもすごく好きになって、OVAのダブルオーエイティ(「機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争」)もその頃かな? すごく充実してたんですよね、あの頃。

ロジャー・ディーンが「ロードス島戦記」とリンクする

──ジャンルとしてはメカものやファンタジーなどあまり分け隔てなく?

メカに関しては……そもそも私「コンプティーク」をずっと愛読してたんですよ。パソコンが好きで。まずは2プラ(MSX2+)から入り、SE30へ行き、ペケロッパ(X68000)へ行き……という世代で。神保町って歩いたらすぐ石丸(電気)なんですよね。そこに行って階層開いて遊んでました。ほとんど学校には行かずに、神保町で古本屋行くか、レコード買ってるか、御茶ノ水で中古楽器のシンセを触ってるか、秋葉原でパソコン触って階層開いてるか、アスキー辞典をずっと立ち読みしてるか、みたいな(笑)。本当そういう子だったんですよね、土地柄。

──今ひっそり音楽の話も混ざってましたけど、そこは並行して?

あのときはマンガを買うことのほうが大変だったんですよ。音楽を買うより。神保町って街は、靖国通りを越えて行くとすぐに中古レコード屋さんがたくさんあって、100円で3枚買えたんです。当時はみんなお小遣いって3000円とか、多くて5000円ぐらいですよね。マンガ1、2冊買うとそれだけで1000円はなくなっちゃう。ドラゴンコミックスなんて買った日には、やりくりを結構考えなきゃならない。でも音楽は100円で3枚で買えたんですよ。当時はハードロック全盛だから、3枚100円で売ってるのはプログレやニューウェイブの廉価盤みたいなもので、それがすごく面白かった。ロジャー・ディーンが描いたジャケットが「ロードス島戦記」とリンクするみたいな。神保町って街が今の生活のスタイルを作ってくれたようなものです。

──オタクカルチャーにおいては生粋のエリートですね。

いやあ、あの街にいなかったら私はこんな子にはなっていなかったと思います(笑)。

サイケファッションはダグラス・カイエン風

──アニメやマンガにどっぷり浸かりながらも、高校を卒業したあとは音楽の道を選びましたよね。同人誌まで作っていたのなら、そこでアニメーター、マンガ家、編集者……という発想にはならなかったんですか?

いや、絵が描けなかったんです。

──ああ、それは大きいかもですね。

だから同人誌もトーン貼るとか、本当に下っ端的な仕事しかできなくて。それでも参加すること、文化祭的に作っている作業が楽しかったからやってるだけで、本当に絵は苦手でしたね。両親が音楽をやっていたので、楽器には自然と触れる機会があって。小さい頃からベースは弾いてたんで、中学高校ではブラスバンド部でベースをやったり。高校は私服だったんですが、私は当時サイケにハマってたので、神保町の「ガラクタ貿易」で買ったパンタロンみたいなのを履いてて、髪の毛もちょっと長かったりして。そうすると、ちょっととっぽいお兄ちゃんたちから「スカパラのコピーバンドやろうぜ」「クラプトンとか聴く?」みたいな感じで声をかけられるんですよ。自分の中ではFSSのダグラス・カイエンのつもりなのですが(笑)。

──自分の中では自然に共存しているという(笑)。

インタビュー写真

そもそも永野護さん自体が流行の最先端を行く人だから、あの方の作品を読んでいると、いろんな音楽やファッションが自然と吸収できていたんですよ。永野さんはあらゆるものに造詣の深いインテリですから。その永野さんを神様としてリスペクトしていたら、自然とこうなりますよ。

──なるほど。そんな高校時代を経て、1990年代半ばにはクラムボンが始動していますよね。

卒業後に音楽の専門学校に入ったんですけど、その頃、一時期音楽一辺倒だった時代があるんですよね。ちょうど先日そんな話をしていて、どのぐらいの時期かと思い出したら、ちょうどエヴァの劇場版が終わった頃(「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air / まごころを、君に」)なんですよ。テレビ版が終わったあたりで途切れちゃったんだな、多分。なんかスパッと区切れたというか。原点である宮崎さん周りも一段落した感じが自分の中にあって、シフトしちゃったんです。音楽のほうが楽しかったんで。友達から「ウテナ(「少女革命ウテナ」)とナデシコ(「機動戦艦ナデシコ」)ぐらい観とけよ」とか言われて、一応のチェックはしながらも。

──そのあたりは90年代後期のサブカルチャーシーンでも盛り上がってましたけど、音楽もどんどん自由度を増して広がりまくってましたもんね。

うん。その頃はガッチガチに音楽しかやってなくて。パソコンもやんなかったんですよ。その頃は全く。

──でもインターネットが普及し始めたのもその時期ですよね。

でもそれがWinベースだったから、僕はMacだったからわけわかんなくなっちゃったんですよ。要するにターミナルを開いてやるっていう発想がないわけだから。2003年にクラムボンで「imagination」というアルバムを作るときに自分たちのスタジオを建てて、その流れでエンジニア的な作業をすることになりMacのG4を買うまで、10年弱ぐらいですかね。全くそこらへんには関わらなかった。アニメに関しては「宇宙海賊ミトの大冒険」(1999年1月より放送)を同じ名前だから観たりしてたぐらいで(笑)。

ニューシングル「Rough & Laugh」2012/11/21発売 avex marketing
ニューシングル「Rough & Laugh」 / CD+DVD盤[CD+DVD] / 1890円 / AVCA-49969/B
ニューシングル「Rough & Laugh」 / CD盤[CD] / 1260円 / AVCA-49970
ニューシングル「Rough & Laugh」 / タワレコ限定盤[CD+DVD] / 1890円 / AVC1-62017/B
CD収録曲
  1. Rough & Laugh
  2. Rough & Laugh -Rings Around Laugh REMIX- by kz
  3. Rough & Laugh -A-bee REMIX- by A-bee
  4. Rough & Laugh –melting the ice in my foolish heart REMIX- by Go-qualia
  5. Rough & Laugh TV size(※CD盤は除く)
  6. Rough & Laugh(Instrumental)
CD+DVD盤 DVD収録内容
  • 「しろくまカフェ」ノンテロップオープニング映像
CD+DVD盤 初回特典
  • 「しろくまカフェ」描き下ろしイラストスリーブジャケット
  • 「しろくまカフェ」オリジナルオーナメント
タワレコ限定盤 DVD収録内容
  • 「Rough & Laugh」ビデオクリップ
タワレコ限定盤 初回特典
  • オリジナルスリーブジャケット
  • 「クラムボン」オリジナルオーナメント
「しろくまカフェ」とは?

毎週木曜夕方17:30~
テレビ東京系にて好評放送中!

しろくまカフェ

クールなシロクマくんがマスターをしている“しろくまカフェ”。お店は毎日、動物や人間のお客さんで繁盛しています。カフェを中心に、シロクマくんと常連さんたちが繰り広げるダジャレ&ほっこりスローライフ。今日もとぼけた会話が弾みます。

© ヒガアロハ・小学館 / しろくまカフェ製作委員会2012

最新作「しろくまカフェ cafe.5」2012年11月30日発売 avex marketing
通常版 [DVD] / 4725円 / AVBA-49937
アニメイト限定版 [Blu-ray Disc] / 7140円 / AVX1-49941/B
クラムボン(くらむぼん)

プロフィール画像

原田郁子(Vo, Key)、ミト(B)、伊藤大助(Dr)によるスリーピースバンド。1996年に同じ専門学校に通っていた3人により結成。1999年にシングル「はなればなれ」でメジャーデビューを果たす。自由で浮遊感のあるサウンドとポップでありながら実験的な側面も強い楽曲、強力なライブパフォーマンスで人気を集め、コアな音楽ファンを中心に高い支持を得る。2011年には約50カ所におよぶ全国ツアー「ドコガイイデスカツアー 2011」を開催。11月には東京・両国国技館で初のアリーナワンマンライブを成功させた。2012年3月には2枚組ライブアルバム「3peace2」を発表。11月21日にはニューシングル「Rough & Laugh」をリリースする。