ナタリー PowerPush - クラムボン
進化するバンドの“現在”をレコーディング「Re-clammbon 2」の制作意図を解き明かす
クラムボンがひさびさに動き出している。昨年は原田郁子のソロ三部作を始め、思う存分に個々の活動に打ち込んでいた3人は、この初夏、過去の楽曲をリアレンジしたアルバム「Re-clammbon 2」をリリース。つまり2002年に出したセルフカバー集の続編なのだけど──これがいずれの曲もオリジナルの形から大幅に飛躍しているのだ。
その音楽性は、アコースティックな味わいの強いアレンジ、バンド的な瞬発力を感じさせるサウンド、あるいは
それにしても……今ここでオリジナル作ではなく、再びリアレンジ集を出す意図は? そしてクラムボンはなぜこうものびのびと音楽に向かっていけるのか? ということで集まってもらった3人は、音楽同様インタビューの席で も、(ちょっと考えながらも)のびのびとたっぷりと言葉を重ねてくれた。その空間にはナチュラルで、しかも幸福な空気がずっと流れていた。
取材・文/青木優
去年僕ら3人で会った日はたぶん10日くらい
──今度のセルフカバー曲って、4月から配信リリースもしているんですね。
郁子 そうですね。配信は最初予定してなかったんですけど、レコーディングしていくうちに曲が多くなって、だったら実際のアルバムより前に、早く聴いてもらえるほうがいいだろうということで、その話が出てきたんですよ。
ミト 12月にプリプロやったんですけど、いろいろやってくうちに曲も増えてって、アルバムに全部入れることはできなかったんですね。74分を超えちゃうから。でも作った曲は良かったんで、どうにかして出したくて、配信ということにしたんです。僕らは曲が余ってることはあんまりないんで(笑)、まあ「あったら出す」みたいな。
──ということで、別ミックスも入れると15曲録ったわけですか。
ミト そうなんですよ。でも2週間ぐらいで録っちゃいました。1日2曲ずつ、ミックスも入れてそのぐらい。その間に東京に戻って仕事する日もあったり。
──ミキシング込みで2週間って、確かに早いですよね。
ミト そんなに遅くはないですね。でも新曲作ってアレンジ考えてっていうのとは違うんで。うちらにしてみればボーナスアルバムみたいなもんなんですよ。そんなに「アルバム作る」みたいな気負ったものでもなかったし。
──その気負わない作品をこのタイミングで作りたかったということなんでしょうか。
ミト 去年はほら、郁子のソロがあって。去年僕ら3人で会った日は、たぶん……1週間もなかったんじゃない?
郁子 (笑)や、もうちょっとあるんじゃない!? リハがあったし。ライブ(METAMORPHOSE・夏の野音2DAYS)と、私のソロのレコーディングにも参加してもらったから。
ミト じゃあ10日ぐらいかな? いや、別にだから何だってことでもないんですけれども。
郁子 そのぐらい別々だったということですね。
ミト そうそう(笑)。だから12月に集まって「何作ろうか?」みたいなプリプロをしたときに、次に出すものはすぐにニューアルバムっていうのじゃなくて……、そんなせっつかれてできる人たちじゃないので。いい意味で助走的なもの? あとは3人ですぐ出せるものにしようと。
郁子 パッと集まってパッとできるものですね。ライブでずっとやってたアレンジだから楽器に向かえばできる。「LOVER ALBUM」のときもそうだったんですけど、曲はもう真ん中にあって、そ れに対してプレイヤーとして参加できるという。だからレコーディングはすごく早かったんです。
ミト たまにあるんですよ、うちらって。あまり考えなくてもできちゃうときが(笑)。今回は特にそうでしたね。
「Re-clammbon 2」は、ベスト盤ではない
──あの、今回のアルバムは、ここで過去の楽曲を振り返ることで自分たちの今の立ち位置を確認して、次の方向性を模索しようという意図があるのかな? と思ってたんですけど。
ミト そういうふうに言えちゃうな、ぐらいは思ってましたけどね(笑)。
郁子 そっかあ、なるほど(笑)。確かにそう思えるフシはありますね。でも、振り返ってる気持ちは全然ないんです。昔の曲ではあるけど、どの曲もライブでやってるアレンジがベースになってるから、原曲とはもう別物だっていうような。
ミト なんて説明したらわかりやすいんだろうな……(笑)。僕らって、普通のバンドとちょっと違うなと思うのは、同じ曲を同じようには演奏してない感じがあるんですよ。それはなぜかというと、3人だから。すごくフットワーク軽いんですよね。これがもう1人増えると、アンサンブルとかでも決まり位置みたいなのができるから、演奏するときにある程度形が整ってないといけなくなると思うんですけど、僕らの場合は自分たちのやることが 決まってるから、その中で好きなことをやっても、音が埋まったり何かが違ったりしないんです。もとからそんなに音数が多いバンドではないので。で、それをずっと続けてると、曲の形が変わっていっちゃうんですよ。それは単純に面白いからやってる んですけど、そうやってできたリアレンジを録り直しても、同じようにはならないんです。大枠は同じなんだけど。それができるのはやっぱりフロントに郁子の声っていう軸がデッカくあるから。それがリアレンジの根本にある。あと、もっとメンタルな ところで言うと、飽き性なので……。
──あ、飽きちゃいますか(笑)。
ミト 「とにかく何か新しいことをしたいな」っていうのがあるんだと思います。だから振り返ってるというより、肉付けしたり、削いでってたり、という感覚ですね。芸術的な言い方をすると。削いでいくだけでもないし、粘土みたいにくっつけてる部分もあるし。
郁子 一度完成したように見える曲も、それをまた壊して新しいものにしてみる、ということをずっと繰り返してる状態なんですね。どこがフィニッシュというのもなくて、絶えず変わっていく。だから、今回録音した曲も、また「Re-Re-Re」って変わっていくかもしれない。それを面白がって作ってるからね、だから「Re-clammbon 2」はベスト盤ではない(笑)。
CD収録曲
- Re-Re-シカゴ
- Re-THE NEW SONG
- Re-Bass,Bass,Bass
- Re-意味はない
- Re-Re-華香るある日
- Re-090
- Re-Folklore
- Re-雨
- Re-Re-サラウンド
- Re-メロウトロン
- Re-アホイ!
※予約限定初回盤にはスタジオライブを収録したDVDが付属
クラムボン
原田郁子(Vo.key)、ミト(B,etc)、伊藤大助(Dr)によるスリーピースバンド。1996年に同じ専門学校に通っていた3人により結成。1999年にシングル「はなればなれ」でメジャーデビュー。自由で浮遊感のあるサウンドと、強力なライブパフォーマンスで人気を集め、コアな音楽ファンを中心に高い支持を得る。ポップでありながら実験的な側面も強く持つ楽曲は、シーンの中でもひときわ輝く希有な存在。クラムボンとしての活動を主軸に据えつつ、原田郁子は ohana、ミトはFOSSA MAGNA、dot i/o、micromicrophone、伊藤大助はThe Sun calls Stars、LOTUS GUITARなど各々の活動も行い、ハイクオリティな音楽を生み出している。