放り出したら後悔しか残らない。最後までやれば作品が残る

──まずは「技の旅人」の完成、そして発売おめでとうございます。

ありがとうございます。想像以上に長い道のりでしたがなんとか完成することができました。

──ただでさえキツい週刊連載を続けながら、よく完成させましたね。

3年弱、本当にしんどかったです（笑）。放り出したら後悔しか残らない。けれども最後までやれば作品が残る。そう思ってなんとか最後までやりきりました。アニメに使える時間は週に半日しかないので、あとは原稿をやりながら机にモニターも置いてペン入れの休憩に3Dをカチャカチャ作る、そんな日々でした。あの状態があと半年長引いていたら確実に身体悪くしていたことでしょう。

──そもそもなぜ週刊連載中の現役マンガ家が、アニメ、それもフル3Dというデジタルなものを作ろうと思い立ったのか、そのあたり、ムービーの冒頭部を見ながら語っていただければと。

思い通りに動かない3Dに「もう描いた方が早い！」

──しかしとても本業の傍ら手がけたとは思えないクオリティに仕上がっています。3Dソフトというのは、扱いは難しくなかったですか。

絵コンテを描いてる間はドーパミンが出てノリノリですが、撮影が始まったらひたすらブルーです（笑）。手が変な風に曲がったり、そもそも曲がらなかったり、バグとの戦いもありましたし、なかなか思い通りには動いてくれないものです。

──3Dって、ひな形になる人形を1度PCの中に作ってしまえば、あとは描かなくていい、楽だ、みたいなイメージがありますが。

よくそう思われがちですが、3Dにも得手、不得手がありまして……柔らかい表現なんかは「もう描いた方が早い！」と絵を描いて組み合わせた部分もあります。そこは臨機応変に。ちなみにロボットなど同じ形をしたキャラがいっぱい出てくる映像は3D向きです。コピーして増やせるので。反対に個性的なキャラがたくさん出るような学園ものは向きません。クラスメイト1人ひとり作っていたら終わらないですから（笑）。

──ではその辺りの、具体的に3Dグラフィックというのはどんな作業なのかというのを、いくつかサンプルを挙げてご説明願えますか。

3Dアニメの経験からマンガ表現にフィードバックが

──声優さんこそプロにお願いしましたが、映像は完全にインディペンデントに作ってみて、どうでしょう、何か収穫はありましたか。

「どこがじゃ」って突っ込まれそうだけど、3Dをやったおかげでマンガの表現に、"途中の動き"を意識するようになりました。基本マンガは動きの中でどこを切り取るかという表現なのに対して、アニメは一連のモーションをすべて描きます。流れを全部描いてみたら、普段マンガで描かないような中間の絵を発見できたんですよ。例えばマンガならパンチは普通、振りかぶったところか振り切ったところを描くんですが、当たるちょっと前のポーズが意外と躍動感出るんだなー、とか。

──発見でしたね。ほかにも何かありましたか？

もうひとつは、立ち位置を頭の中にばっちりキープしながら描くようになりましたね。アニメーターさんの空間把握能力は、すごいです。マンガってけっこう演出優先というか、立ち位置とか嘘ついちゃうことがあるんだけど、それを守るとしっかりしたリアリティが出るのがわかって。一方でマンガにしかできない演出、ありえないパースや、漫符や、頭身の変化みたいな表現をアニメに持ち込んでみたりしました。

──そのあたり、マンガ家がアニメを手がける意義みたいのがあったかもしれませんね。

最後の方はもう頭が大変なことになってました。締め切りはやってくるし、3Dは混乱するし、体調を崩したり……このまま続けてたらヤバい！ 早く終わらせないと、って（笑）。

──いまとなっては笑い話ですが、壮絶です。しかも読み切りと絵コンテが収録された単行本には、恐ろしいクオリティのパラパラマンガまで。

アニメのおまけだから動かなきゃいけないだろうと思って、描ける隙間があったら入れておこうと。映像もギリギリまで作り直してました、直し出すとキリがないですね。まだ若くて頭が動くうちに無茶をしておこうと思って、ちょっと無茶をしてみました。ぜひ手に取って、観てもらえたらうれしいです。