コミックナタリー Power Push - 「制服ロビンソン」

小島秀夫&箕星太朗が語る“物語を作るしんどさ”とは

「制服ロビンソン」は「漂流教室」の箕星版(小島)

──監督は「制服ロビンソン」を読んで、いかがでしたか?

小島 テーマはいいと思う。

箕星 ……容赦ないダメ出しを今日は覚悟しています。

「制服ロビンソン」カラーイラスト

小島 「制服ロビンソン」ってタイトルを最初見て、「ロビンソン」なら「ロビンソン・クルーソー」かな? で、「制服」だから学園ものなんだろうなって思って。1話読んだら感心したんですよ。「漂流教室」(楳図かずお)だったんで。

箕星 そうです! 荒廃した地球でサバイバルするというテーマはそこに繋がっています。昔、監督とも「漂流教室」面白いって話をしたことがありましたよね。

小島 うん。「制服ロビンソン」は、学園ものっていうくくりじゃないですか。箕星さんのキャラクターってそこが一番生きるから、そこを外したらいけない、と思うんですね。まず制服着た女の子たちが出てくることで、読者が惹きつけられる。普通の学園ものをやってもしょうがないんで、「漂流教室」の箕星版というアプローチはすごくいい。しかも不思議な始まり方じゃないですか。

箕星 はい、最初は読んでいてわけわかんないと思います。

「制服ロビンソン」1巻より、タマゴラス。

小島 このスタート、すごくよかったです。隕石が降ってきて、落ちたところに主人公たちが行ったらエッグ型コンビニのタマゴラスがあって。「コンビニが飛んでくる」っていうのがすごい。でも本当ならそこで、もっとミステリアスに展開してほしかった。

──と言いますと?

小島 世界のシチュエーションを、キャラが調べていくと同時に、読者も知っていくという手法じゃないですか。まず説明があるんじゃなくって、ボーンとわからない世界があって、ディテールを積み上げて、世界の様子がだんだん明らかになっていく。手がかりになるディテールを隕石で繋いでほしかった。

箕星 ああ。

小島 隕石で見つけた手がかりがあったら、次の手がかりは次の隕石で見つけてほしかった。なのに突然、コールドスリープとか言い出すから「こらー!」って(笑)。「ちょっと早すぎるやないか!コールドスリープは2巻くらいでええんちゃうの!?」って(笑)。もったいない。でも狙いと発想はいい。70年代のSFとは違いますよね。2004年に出した「メタルギアソリッド3」って、サバイバルをテーマにしているんです。

──「3」の舞台は冷戦中の1964年でしたね。

「制服ロビンソン」1巻より、タマゴラス。

小島 ええ。どうしてその時代設定で、テーマをサバイバルにしようと思ったかというと、今の子供はお腹が空いたらコンビニに行けばなんでも手に入る。水もおにぎりもある。歩いてすぐのところにあるんです。どんな田舎の人でも、もうサバイバルとか全くわからないわけですよ。昔、僕らが子供の頃は、近所にスーパーもなかったんで、お腹空いて家に何もなかったら、その日は我慢するしかない。そういうのを知らない人たちに、人が飲み食いするっていうのはどういうことかというのを、主人公のスネークの身を借りてシミュレーションしてもらおうと思ったんです。だから「制服ロビンソン」でコンビニが降ってくるっていうのは、うまいなあと。それでまた、タマゴラスはどっか飛んでってしまうわけでしょ。どういうルールで、なんでそんなもんがあるのかっていうのを、引っ張ってほしかったんです。

箕星 やっぱりねえ、長年業界にいると、アドバイスくれる人がなかなかいなくなっちゃって。すごくありがたいです。タマゴラスはもちろんまた登場しますよ。

不純異性交遊したら死にます!(箕星)

小島 あと、もっと毒があってもいいな、とも思いますね。

箕星 毒?

小島 学園もので、ラブコメみたいな世界でも、もっと毒があってもいいんじゃないかと思います。これはまた別かもしれませんけど、僕的には、セックスがないのは嫌ですね。

箕星 ええ、思春期の子たちが集まったらありますよね。この作品では異性との交流は接吻までとします、みたいな校則にしようかと思ってて。「不純異性交遊したら死にます!」くらいの。

小島 「イット・フォローズ」って映画がそれだったんですよ。セックスすると“それ”という、わけのわからないものが乗り移って、死者が見えるようになって、ずーっと追いかけてくる。で、理不尽な死に方をする。死んでしまうと、その人が最後にセックスした人のところに“それ”が戻ってくるんです。

──怖いですね……。

小島 いやいや、よく観るとちゃんとした青春ムービーなんですよ。女の子とセックスしたら責任取るって話だから。

箕星 なるほど! すごく参考になります。

箕星太朗「制服ロビンソン(1)」発売中 / 702円 / 講談社
「制服ロビンソン(1)」

荒廃した地球に残された少年少女。どこにも大人はおらず、物資は、たまに隕石のように飛来する補給ロケットに積まれているだけ……。大事なことは何ひとつ知らないけれど、僕らは笑顔で今日を生き抜いて、そして恋をする。社会現象にもなったあの国民的ゲームでおなじみのイラストレーターが放つ初のマンガ連載が単行本化。等身大の「未来」と「絶望」を描く、草食系青春サバイバル物語!!

第1話の試し読みはこちら

箕星太朗(ミノボシタロウ)

大阪府出身。国民的美少女ゲーム「ラブプラス」のキャラクターデザインを手がけ、6月には新作ゲーム「√Letterルートレター」が発売される。2015年よりマガジンエッジ(講談社)にて「制服ロビンソン」を連載中。

小島秀夫(コジマヒデオ)

1963年生まれ。ゲームデザイナー。「メタルギア」シリーズなどを手がけ、世界的ヒットを記録する。2015年12月にコジマプロダクションを発足。