コミックナタリー PowerPush - 「ニコ・ニコルソンのオトナ☆漫画」
マンガでマンガを紹介、その数52本!話題の作者が登場&描き下ろし番外編も
マンガでマンガの感想を綴った新感覚のガイド本「ニコ・ニコルソンのオトナ☆漫画」。ニコ・ニコルソンが独自の例えやギャグを織り交ぜながら、52作品の見どころを提示しまくる笑えて使える1冊だ。
コミックナタリーでは、新人ながら単行本を4冊連続で刊行し、いまノリにノッているニコに取材を敢行。読み物としての「オトナ☆漫画」を紐解くとともに、ニコの「まんが道」を辿っていく。またニコの描き下ろしによる、「オトナ☆漫画」の番外編もお見逃しなく。
撮影・文/唐木元
ニコ・ニコルソンインタビュー
マンガを紹介するマンガ、の描き方が定まらなかった連載当初
──きょうは「ニコ・ニコルソンのオトナ☆漫画」を中心にお話を伺うつもりなんですが、お聞きしたいことがたくさんあるんです。まず「マンガガイドマンガ」という形式の、ありそうでなかった感について。あと4冊連続発売フェアというビッグウェーブ感と、ニコ・ニコルソンって名前の何者なんだ感(笑)。
ですよねー。なんだかスイマセン(笑)。
──とんでもないです。「オトナ☆漫画」は作品としても「部室でダベってる感」が心地良いうえに、非常に良質なマンガガイドとしても機能するところが取り柄だと思ったんですが、これはどういった経緯で始められたんですか。
デジモノステーション(エムオン・エンタテインメント)というガジェット系雑誌での連載なんですけど、当時読み物というかカルチャーページも充実させたいという方針を打ち出して、私に白羽の矢が立ったという。
──マンガでマンガを紹介しようというスタイルは新しいですよね。
そのせいで当初は、どういう形式にしたらいいか定まらなくて……。単行本には4年分の連載がまとまってるんですが、実は連載第1回だけは収録されてないんですよ。その回はただのあらすじ紹介に終始してしまって、コラム的な切り口がゼロだったから。
──そうだったんですか。
とりあえず1回目が載ったのを読んだ時点で「こりゃイカン!」って思って。あらすじ紹介じゃダメだと。それで私の主観というか、マンガについてダベってる感を盛り込みつつ、探り探り、そのマンガを読んでみたくなってもらうことを目的に据えて。
ひとつ「批評はしない」というのだけは決めていました
──単行本の最初と最後のほうでも、かなり変遷というか、実験の歴史が感じられますね。
どうやってマンガを紹介したら面白いのかがわからなくて。最初の何回かはコマを割ったり割らなかったりも定まらず、模索の連続でしたね。たとえば模写をするべきかそれともコマを引用するのか、とか。あまりに「良い」「良い」ばかり言っていても芸がないですし。ひとつ「批評はしない」というのだけは決めていましたけど。
──それはどうして。
私はマンガの研究者ではないので、批評できるだけの言葉も持ち合わせてませんし。「オトナ☆漫画」というタイトルがそもそも、掲載誌のメイン読者である3、40代男性、しかも別にマンガ好きでもない、マンガから遠ざかってしまった大人に、もう一度読んでみたい気持ちになってもらえるようなマンガ紹介にしよう、という意味で付けたものなので。
──なるほど。模索という意味では第8回の福満しげゆきさんの「僕の小規模な失敗」では、ご本人の画風を完コピという、なかなか大胆な試みもされてますね。
しました……「やっちゃおうか」って……スイマセン(笑)。あと「度胸星」で主人公の模写をしたときは、「似てないね」って言われて描き直したり。
──「度胸星」もそうですけど、紹介されているマンガの選びはほんと良質というか、この本が書店のマンガコーナーにヒモで吊るされてたらいいのにって思うほどでした。セレクションはどうやって決めてらっしゃるんですか。
担当の岡部さんと「最近面白いのは?」って話し合って決めています。だいたいいつも5作品くらいまではスムースに絞り込めるんですけど、そっからひとつに決めるまでは結構せめぎ合い(笑)。あんまり巻数が出ていないことと、あとこれから盛り上がりそうっていう感じは基準になっているかもしれません。実はタイトルに込めたコンセプトは途中から有名無実化した部分もあって、単純に私が好きなだけで押し切っちゃったものもあります。いがらしみきおさんの「かむろば村へ」とか。
人のふんどしを借りて、これをどう巻こう、どう締めよう
──それは打ち合わせがさぞヒートアップしたことでしょう。
毎回平均したら4、5時間は打ち合わせをしてました。まずはこのマンガの魅力はどこかっていうのをバーッて書き出して、今度はそれをどうマンガに落とし込んでいこうかっていう。そこで粗い絵は入れてしまうんですけど、さらにネームにもたいがい直しが入ったりして。担当さんの立場からすると、どう考えても燃費が悪い企画だと思います(笑)。
──言ってみればデジモノ雑誌のいちコーナーですしね。
そこに「このマンガ好きだー」っていうラブレターを貼りつけるようなことをして、ずっと「これが存在してていいのかな」とは悩んでましたね。
──マンガ紹介マンガが珍しい理由のひとつとして、マンガ家がほかのマンガ家の描いた作品を語るということの難しさ、みたいなものもあるのではないかと思いました。
そうですね、最初はほかに連載を持ってなかったこともあって、マンガ家意識が希薄というか、いち読者としてってスタンスでしたけど、だんだん「私こんなことしてていいのかな」って何度も思うようになりました。どの作家さんも確実に私よりマンガが上手いわけで、とんでもない人たちからふんどしを借りてるわけですよ。人のふんどしを借りて、これをどう巻こう、どう締めようみたいな。
──それはいまでも抱かれている感慨ですか。
ええ。それに途中からヤングアニマル(白泉社)で「ニコ・ニコルソンのマンガ道場破り」という、マンガ家さんの仕事場に押し掛けてインタビューしていく連載が始まって、そこで大先輩の方々のマンガに対する姿勢や考え、作業の過酷さとかを聞けば聞くほど……。半端な気持ちでは描けないぞ、となってしまいました。
ニコ・ニコルソン
宮城県亘理郡山元町出身。専門学校卒業後「東京で就職が決まった」と嘘をついて実家を飛び出し、東京で半年間のニート生活を送る。バイトとしてソニー・マガジンズ(現エムオン・エンタテインメント)で働いていたところ、ひょんなことからイラスト制作を任されるようになり、やがてフリーイラストレーターとして本格的に活動を開始。イラストエッセイ「上京さん」をエムオン・エンタテインメントから発表する。その後、月刊誌・デジモノステーション(エムオン・エンタテインメント)で「ニコ・ニコルソンのオトナ☆漫画」、ヤングアニマル(白泉社)で「ニコ・ニコルソンのマンガ道場破り」、デジキス(講談社)で「ニコニコ妖画」、ぽこぽこ(太田出版)で「ナガサレール イエタテール」を連載。それら4タイトルの単行本が2013年春に連続刊行され、話題を集めている。