稲空穂「おとぎ話バトルロワイヤル」PR

「おとぎ話バトルロワイヤル」|[彩色動画あり] アリスも世界も“キラキラさせたくない”
血塗られたおとぎ話を彩る筆運びに密着

おとぎ話の登場人物たちが武装し、殺し合いの戦いを繰り広げる「おとぎ話バトルロワイヤル」。メルヘンなキャラクターと殺伐としたバトルの組み合わせを描いたイラストがpixivを中心に反響を呼び、そのアイデアをマンガへと発展させた物語が現在Webマンガサイトのジーンピクシブにて連載中だ。

コミックナタリーでは単行本2巻の発売を記念して、作者・稲空穂が透明水彩絵の具を使いイラストに着彩をするメイキング動画を配信。下準備など何かと手間がかかりそうな水彩のイメージを覆す、独特の塗り方が披露される。そのほか作品の成り立ち、高校時代に読んでいたというホラーマンガについても聞いた。

取材・撮影 / 鈴木俊介 文 / 淵上龍一

おとぎ話のはじまり、はじまり……

クラスメイトから陰湿なイジメを受ける女子高生・青葉の前に現れた、なんでも望みがひとつ叶うという謎の契約書。誰かのイタズラと思いながら書き込んだ「クラスのみんなと仲良くなりたい」という願いが現実になるも、その代償として彼女は「不思議の国のアリス」のアリスとして、別世界に召喚されてしまう。おとぎ話の登場人物となってしまった人々が集う、地獄のようなおとぎの国を舞台にしたサバイバルホラーの幕が開く。

着彩動画&インタビュー

「ONE PIECE」や「DRAGON BALL」の扉絵みたいに描きたい

──本日はカラーイラストができあがるまでを動画で撮影させていただくため、仕事場にお邪魔させていただきました。水彩絵の具をお使いと聞いたので、もっと緊張感のある作業を想像していたのですが……意外と迷いなく筆を入れていきますね。

よく驚かれるんですが、水彩って意外と修正できるんですよ。水だけつけた筆でなぞれば薄くなるし、淡い色は濃い色を重ねてしまえば目立たなくなるし。取り返しがつかないみたいなことはほとんどありません。

──たしかに、淡い色から始めて徐々に濃い色を重ねていく印象はあります。でもそのお話で言うと、最初に塗る色として肌色って濃くないですか?

着彩前のイラスト。 テンションを上げるため、肌色から塗り始める稲空穂。

肌色が入るとテンションが上がるので(笑)。キャラクターの表情が見えてくるのが好きなので、やる気のスイッチを入れる意味で最初に顔を塗っちゃうことは多いです。

──なるほど。肌色が入る前と比べると、断然キャラクターが生き生きして見えます。

「ONE PIECE」とか「DRAGON BALL」の扉絵って、セリフがなくてもキャラクターの考えていることが伝わってくる気がしません? ああいう生き生きとしたイラストに憧れていて、動きや感情を絵だけで表現することはいつも意識してます。

──このアリスと浦島太郎の2ショットは、どういうイメージで描かれているのでしょう?

浦島は8話でアリスと出会うキャラなんですが、物語的には登場してもすぐどこかに行っちゃう展開なので、いずれは2人を協力して戦うような関係にしたいと思いながら描いています。アリスはちょっと自信のない感じを表情に出していて、剣もこんなしっかり持たせていいものか迷ったんです。メチャクチャな握り方のほうが、リアルかと思って。

──いきなり剣なんて持たされても、普通の人間は使いこなせないですもんね。

だから今描いてる絵でも不慣れな感じを入れようかと思ったんですけど、浦島が安心して背中を任せられるくらいにアリスも成長していてほしいという願いを込めて、この絵ではガッチリ握らせることにしました。

ミイラ化した人物に遭遇し、たじろぐ青葉(アリス)。

──おとぎ話の登場人物をキャラクター化する際に意識しているポイントなどはありますか?

どのキャラクターも何かひとつ現代的なものを入れるようにしています。例えばアリスは、戦ったり冒険をしたりする行動的なイメージを出すためブーツを履かせました。一般的なイメージだと、アリスってしましまのソックスだとか衣装的に結構派手な印象があると思うんですけど、あまりキラキラした感じは出したくなくて。

──世界観も結構ダークですよね。ミイラ化した人物が出てきたり、景色が荒廃していたり。

私、ホラーがすごい好きなんです! 仕事中はAmazonプライム・ビデオでずっとホラー映画を流しています。ホラーと言っていいのかわかりませんが「エイリアン」はもう観ないでもすべて内容が頭に入っていますね。高校のときには、グロいマンガを読むのが友達との間でブームになっていました。

──女子のグループで流行るグロいマンガって、どんなものだったんでしょうか?

伊藤潤二さんのマンガは特に大好きで、今でも全部集めています。あとは林田球さんの「ドロヘドロ」とかも描き込みがすごくて、おどろおどろしい雰囲気がたまらない。少しベクトルは違うけど冨樫義博さんの「HUNTER×HUNTER」も、幻影旅団が活躍する10巻は読むとテンションが上がるので、常に手に取れる場所に置いてあります。

作業をしながら流し見しているという映画。 いつでも見られるようにと、手の届く場所に積まれたお気に入りのマンガ。

──グロい、怖いというだけでは語りきれない魅力を持った作家さんばかりですね。

特徴的な作品を描かれる、個性の強い作家さんに惹かれちゃうんです。ほかには駕籠真太郎さんの作品も、枠に収まらないイッちゃってる感じがすごくて気に入っていたのですけど。うちには年の離れた妹がいたので、教育に悪いからって親に捨てられてしまって……。伊藤潤二さんのマンガは、家を出るとき全部持っていき死守しましたが(笑)。

「スマブラ」をおとぎ話の登場人物で描いてみたのが始まり

──そもそも水彩を始めたきっかけは何だったんでしょうか?

乙一さんの小説「さみしさの周波数」で、羽住都さんが描かれてた表紙がとても綺麗で。その絵に憧れたのがきっかけ。私は影を塗るときに青を使うんですけど、これは完全に羽住さんの影響ですね。

10年ほど前に友人からプレゼントされたという「ホルベイン透明水彩・W422:108色(全色)セット」。ずっと使い続けているが、なくなる気配がないと稲は語っていた。 画材セット。マービーのフォードローイングはTwitterでオススメされたもので、ペン先が堅いためカリカリとした描き味がポイントとのこと。

──具体的に、水彩の良さというのはどういうところにあると思いますか?

水彩で塗ってるって言うと、みんなビックリして褒めてくれるところ(笑)。一般的には、いろんな色を重ねて表現できる透明感が売りなんでしょうけど。それをやるには水を吸って紙が波立たないよう、先に紙を水で湿らして画板に固定する水張りって作業をしなきゃいけなくて。私は面倒くさいから水張りをしなくて済むよう、水をあんまり使わないんです。これって水彩の良さを全て殺す描き方なので、あまり自慢できないんですが……。

──でも逆に、準備を簡略化してもこれだけ塗れるというのはマネしたくなると思います。道具も、先ほどから見ているとずっと同じ筆で塗っていますよね?

はい。色ごとに筆を変える方もいらっしゃるようですが、1本で済むなら楽じゃないですか。

──水彩って面倒なイメージがあったんですが、今日のお話でグッとハードルが下がった気がします。 ほかに実践している自分流のテクニックはありますか?

ひと通り塗ったあとに、線をシャープペンでなぞっちゃうんですよね、私。これも水彩の淡い感じが殺されるなとは思っているんですけど……主線をはっきりさせたくて。

──たしかにシャープペンでなぞった途端に絵がビシっと決まった気がします。キャラクターの細部が見えてくるような。

ですよね! ……でもこうしてよく見ると、アリスと浦島って色が似てますね。しまった。

──(笑)。おとぎ話が数ある中で、本作の主人公にアリスを選ばれたのは理由があるのでしょうか。

連載開始の告知で使われていたイラスト。

「大乱闘スマッシュブラザーズ」っていう、任天堂作品のキャラが集まって戦う格闘ゲームがあるじゃないですか。いろんな作品を「スマブラ」風に二次創作するのが仲間内で流行っていた時期があり、おとぎ話版があったら面白そうだなと思いついて。そのときに描いたキャラクター選択画面みたいな絵の中で、一番キャッチーに見えたのがアリスだったんです。

──「不思議の国のアリス」のアリスをそのまま主人公にするのでなく、普通の少女がアリスになってしまうという設定はどこから?

おとぎ話の人物って、すでに人格やキャラクターができあがっているじゃないですか。それを私の考えた物語の都合で動かしたり、喋らせたりするのが嫌だったんです。アリスそのものじゃなく、アリスを演じることになった別の人間だったら気兼ねなくできるかなと思って。

──そうして生まれた主人公・青葉は、いじめられっ子の女子高生というキャラクター。アリスになることで彼女の日常は一変するわけですが……。

イジメはなくなったし、一見すると青葉にとってアリスになったことは救いなんですけど。その代償が何もないかというと、そんなこともなくて。場所が変わっても結局は自分が変わらないと何も解決はしないとか、逃げてしまう前に何かできることがあったんじゃないかとか、失ってわかる日常の大切さみたいなのを描いていきたいです。

バトルロワイヤルの入り口が見えてきました

──連載開始前のイラストを見ると桃太郎など、まだ登場していないキャラクターがたくさんいますね。これから、どんなおとぎ話の人物が出てくる予定でしょうか?

マンガ第4話のネーム。マイナーなおとぎ話「ロバを売りに行く親子」の少年となった男子・ノアが、現実世界ではイギリスの超人気バンドのメンバーだと知った青葉の反応が描かれている。

メリハリを出したいので、あまり有名な物語ばっかりにならないようにはしたいと思っています。マイナーなおとぎ話の登場人物に選ばれているけど現実世界では有名人とか、2つの世界が存在する面白さを活かしていけたらなと。あの人は普段どんな生活をしているのかとか、いろいろ想像してもらえたらうれしいです。

──1巻は物語の導入という感じでしたが、2巻では少しずつ本の世界のルールが明らかになり、緊迫した雰囲気が出てきましたね。

これからアリスたちが何をさせられるのかわかり始め、ビシビシとヤバい雰囲気が出てきたと思います。ようやくバトルロワイヤルの入り口が見えてきました。そろそろ戦いが始まらないと、タイトル詐欺と言われかねない……。

──(笑)。バトルロワイヤルの幕開け、楽しみにしています!

おとぎ話というのは誰もがよく知る題材なので、バトルロワイヤルをさせるにしても、なるべく失礼のないようにやっていけたらと思います。これはこれ、ひとつの物語として楽しんでもらえるとうれしいです。どうぞ温かい目で見守ってください!

完成したイラスト。
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みんな殺せば、めでたしめでたし?
国仲青葉、高校1年生。ある日いじめられていた彼女のもとに「不思議な国のアリス しゅじんこう・アリス」と書かれた「けいやくしょ」が届く。それは、地獄のようなおとぎの国への招待状だった……。
pixivで人気のイラスト「おとぎ話バトルロワイヤル」「日本昔話バトルロワイヤル」を元に描かれる、おとぎ話サバイバルホラーここに開幕。

稲空穂(イナソラホ)
稲空穂
おとぎ話や昔話の登場人物が武器を持って戦うイラスト「おとぎ話バトルロワイヤル」「日本昔話バトルロワイヤル」がpixivで話題に。そのイラストを元にしたマンガを、2016年にWebマンガサイトのジーンピクシブで連載開始しデビュー。