コミックナタリー Power Push - モテキ
久保ミツロウ、ナタリーに襲来!
思う存分心の底から憎める人が編集としてベスト
津田 久保先生はさ、なんであんな魅力的でかわいい女の子描けるの?
久保 っていうか男が魅力的な女を描けなさすぎなの! 男の新人の作家さんとか、どうやったらかわいい女の子が描けますかってよく訊いてくるんですよ。お前らさんざんグラビアでマスかいてんだろ、と。どの女が好きだとかさんざん言ってるくせに、なんでそれを絵で再現できないのか信じらんない。
津田 久保先生は女子は好きなんですか?
久保 かわいい女子は好きですよ。なぜそうやってかわいくなるか、同性だから見える方程式がある。これ系のファッションで、この髪型してるからこの人はかわいいんだなーとか。で、男ってこういう女が好きだよね~っていうのもわかる。
唐木 その方程式は自分には当てはめないの?
久保 うるせえよ!!
津田 いやいやチャーミングですよ久保先生。
久保 信じられるか! 私のモテ方は和田アキ子なのよ。「おくさまは女子高生」と一緒。「モテ方は和田アキ子」。わかる?
津田 いろんな男が周りにいて、ちやほやしてくれるってこと?
久保 や、アッコに気に入られれば「アッコにおまかせ!」も出れるし、仕事困んないじゃん。それと一緒でさ、あわよくばあたしのマンガが欲しいんでしょ? みたいな(笑)。
津田 言い寄ってくるのは、次の作品描かせたい編集者とか。
久保 でも自分に対して気持ちいいことしか言ってくれない人は編集じゃないです。思う存分心の底から憎める人、いちばん嫌な意見を言ってくれる人が編集としてベストなんですよ。
唐木 意見っていうのは、たとえばネームに対してこう直せとか?
久保 そう。でも編集がこういう風に直してほしい、っていうのは絶対聞かなくて。
津田 聞かないんだ(笑)。
久保 それはマガジン時代にずいぶん鍛えられたんですけど。当時の編集さんが、ネーム直しを頼んだときのベストは、こちらも考えてなかった新しいかたちを提案してくれること。2番目はこちらの言うとおり直してくれることで、3番目は言うとおり直したはずがつまんないかたちになってしまうこと、って言われて。
唐木 あー、それは俺も編集者のはしくれだからわかる。やっぱり俺の思いつきもしないことを見せてほしいんだよね。
久保 だから「ここおかしいと思う」って意見は聞きます。でも直し方は最終的に全部自分で決めます。
唐木 でもそれって苦しいときもあるじゃん、新しいアイデア出ないときはどうしてるの?
久保 出ます。あたしの中でしか、ベストなことは出ません。
津田 すごい、言いきった!
久保 それは自信を持って言えないと、長い作家生活を乗り越えていけないかなーって。あとは、向こうが提案してきた直しを無視して新しい形で描いたとき、(オーダーとは違うけど)この直し方は面白いねって言ってくれる人じゃないとイヤです。
「自分の望んでないことが起きる人生が最高なんだ」
唐木 へんにプライドの高すぎるのは困るよね。じゃあ、そもそも編集者って必要だと思う?
久保 必要。いちばんシビアな悪口を言ってくれないと困るから。ネットの意見も参考にするけど、それは「みんなが言ってるとおりにはしねーぞ」って程度ですね。信頼関係がある悪口を言ってくれる人がいないと。
津田 最近さー、電子書籍のブームとかで、編集者いらないじゃん、中抜きできるじゃんって話があるんだけど、それはないんだよね。特にマンガってほんと編集とマンガ家の共同作業っていうのがあって、その連帯っていうプロフェッショナルな関係があるからこそ作品が世の中に出ていくわけで、それを見たことないIT業界の人が「作家が自分で出せば印税70パー入るじゃんウハウハじゃん」って言うのは違うと思う。
唐木 マンガの編集って編集者の中でもすごく特殊な職能なんだよ。俺、雑誌と書籍の経験はあるけど、マンガの編集だけはできる気がしない。だから電子出版の時代にどう、マンガ編集って人たちを当てはめてくかは考えなきゃいけないよね。
久保 ほんと、編集がいなければ締め切りがなければ、マンガ家はマンガ描けないんですよ。自由に描けることイコール正しいマンガじゃないってずっと思ってて。私はいま自由に描いててそれでいいって言われてるんですけど、それは今までいろんな編集さんに言われてきたいろんなことがあるからであって、自由に描いてるわけじゃないんです。
津田 直されたり叩かれてきた経験があっての。
久保 未熟な作家が自由に描いたところでつまんないマンガなんですよ。そこを育てる気力があるのは、やっぱり愛情ある編集さんしかいなくて。
唐木 ただ一方でマンガ編集者も変わってきたって言われてて、作家と人生を丸ごと伴走してくれるような、そういう人は減ってきてるんじゃないかと。年下の編集さんと仕事をすることも増えてきてると思うんだけど、そんなムード感じたりは?
久保 あんまり年下の編集はやっぱり意見とか言いづらいだろうし、対等にはならないと思う。その点、年上の経験ある編集さんとは仕事をしやすいってのはあるけど、特に(週刊少年)マガジンは。うーん、でもなんだろうな、結局は個人差かな。
津田 最終的にはほんと、相性ですよね。
唐木 そこがやっぱり残酷なところでさ、持ち込みにしても、誰に当たるかくじびきみたいに運に左右される……あれ、ねえ、卓也は? さっきトイレ行ったっきり……。
津田 ちょっと俺見てくるから、あとテキトーに喋っててよ!
唐木 テキトーって(笑)。ああ、あれ、4巻の表紙最高だったよ、小宮山夏樹。
久保 あのさー、芸能関係の人とかみんな「小宮山夏樹が好きなんですよね」って。(「モテキ」TVドラマ版で監督・脚本を務める)大根仁さんも夏樹が好きで、こないだ会ったavexのお偉いさんも、唐木さんも夏樹でしょ? 私は、夏樹が好きだって言う男が、大っ嫌い!
唐木 ごめんね(笑)。でも「モテキ」終盤での夏樹の描かれっぷり、素晴らしかった。フジも土井亜紀もいつかもミッちゃんの一部が投影されてると思うんだけど、小宮山夏樹はさ、他人って感じで描かれてるんだよね。
久保 あれは他人です。
唐木 そうすっとさ、普通他人のことって分かんないはずじゃん。
久保 あーそれで言うと、自分から遠くはしてるけど、理解はできるようなさじ加減でやってます。
唐木 なるほどー。「自分の望んでないことが起きる人生が最高なんだ」って夏樹のセリフ、すごい良かった。あれは美人のセリフだよね。普通の人は望みどおりにならないかなーって思いながら生きてる。でも恵まれた人はさー、思ったとおりになるなんてつまんない、って思ってるっていう。
収録内容
- いつかちゃんのその後が読める番外編「モテキガールズサイド」60P
- 久保ミツロウ「モテキ」の全てを語るインタビュー
- 森山未來×大根仁×久保ミツロウ スペシャル鼎談
- 15歳の幸世が描いたマンガ「宇宙船カマメシ号 リンダとユキヨの大冒険」
ほかお宝コンテンツ満載!
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ハズれても全員に、描き下ろし「モテキ」特別出張編が読める豪華ペーパーをプレゼント!
「モテキ」あらすじ
藤本幸世、29歳、派遣社員。人間誰しにも訪れるという都市伝説モテ期襲来!! お声はいっぱいかかるけど、なぜか心は傷つくばかり。それでもやっぱり彼女が欲しい! 人類、必読。心に刺さる恋物語。
久保ミツロウ(くぼみつろう)
長崎県佐世保市出身。mimi(講談社)掲載の「しあわせごはん」でデビュー。週刊少年マガジンで「3.3.7ビョーシ!!」全10巻、「トッキュー!!」全20巻を連載後、イブニング(ともに講談社)で「モテキ」全4巻を執筆。「モテキ」は2010年7月にTVドラマ化された。