コミックナタリー Power Push - あおやぎ孝夫「ここが噂のエル・パラシオ」
女子プロレスが舞台のエロコメでサンデーの限界に挑む!
辞める前に自分が満足する作品を描いてみたかった
──お話を伺ってるとすごく楽しんで描いてらっしゃるのが伝わってくるんですが、「エルパラ」の企画自体は編集者からのリクエストだったんですか?
いや、ゲッサンが創刊するというので声を掛けていただいたときには、スポーツマンガをやらないか、というお話でした。声を掛けていただいただけでもすごく恵まれた話なんですが、かなり躊躇しまして。
──それはなぜでしょう。
実はその頃……僕、この道をあきらめようかと思っていたんです。で、どうせ辞めるんならその前に一度、自分が満足するものをしっかり描きたいなと考えまして。それがちょうど、「エルパラ」の原型になるネームを切り始めていた時期だったんです。
──そうだったんですか。ずっとスポーツものでしたものね。
サンデーに限らず少年誌ではスポーツマンガを求められることが多くて。僕自身サッカー部だったこともあってスポーツもの好きですし、求められてるならば頑張ってみようとやってきました。あと、簡単に言うとカッコつけてたんだと思います。
──でも一方では……。
「カワイイ女の子いっぱい描きたいよー」って思いが募っていて。心の奥底では、エッチな女の子をいっぱい描いて、蔑まれながらも人気者になるんだ、みたいな気持ちが人一倍あった(笑)。なのでスポーツものを求められてるとは知りつつ、持ち込みをするぐらいの気持ちで「エルパラ」のネームを見てもらったんです。そしたら連載でいけるんじゃないかと言ってもらえまして。
──ようやく念願叶って、というわけですね。
でもちゃんと話が決まるまではすごく不安でしたよ。「じゃあゲッサンでやらせてください」って言った途端、「まああれはあれで温めといてさ、サッカーものやらない?」なんて言われたらどうしよう、とか。そんなこと言われたらもう僕死んじゃいますよ絶対(笑)。
──まあそんな酷い目に遭うことこともなく(笑)。では「エルパラ」は編集部発ではなく、作家発の企画ということですね。
一応そうですね。でもひとりじゃここまでは無理でした。ちゃんと担当さんと打ち合わせをして、話作りをしていく。話数を重ねるごとにその大事さを再認識しています。読者からの反響にもそれが表れているみたいですし。あと、忠輔が記憶喪失って設定は、第1話の第1稿を読んだ担当さんからもらったアイデアなんですよ。てことは記憶喪失のアイデアを活かしたらもう他社に持ち込みできない。だから「エルパラ」はゲッサンで連載するかゼロかのどっちかでした(笑)。記憶喪失っていう設定で一気にイメージが膨らみましたから、やっぱり人間ひとりじゃダメだなって。
──女の子がいっぱい描けるようになって、今、かなり幸せなのでは。
いや、それがですね、もっと楽しくなるかと思ったのに、楽しいどころか自分の力量のなさに頭を抱えてますよ……毎日毎日。
──それは絵的な問題ですか?
まあ絵的にもそうだし、演出的にも、ネーム的にも。もっと可愛く描けるんじゃないかと常に思ってしまいます。自分の頭の中にはもっと可愛いイメージがあるんですけど、絵にするとダメなんですよ。
──どれだけうまく描けても、自分の脳内の絵とは違うものですか。
違いますね。というかまずもって、下描きと仕上がりが全然違いますからね。いつもチェックのために担当さんに下描きを送るんですけど、その絵が脳内に一番近いと思います。
──ペン入れをするところで変わってしまうんですね。
はい。ニュアンスでしか言えないんですけど、鉛筆の絵のほうがイキがよく見えるんですよ。もっと言えば、ネームのほうがイキがいいときもある。僕はネームの段階で表情がわかるようにある程度は描き込んで、そこから下描きに行くんですが、どうしても下描きがネームの絵を超えられないってことがあるんですよ。ネームの絵なんて時間もかけてないし、ササッと描いてるんですけど、どう考えてもそっちのほうが表情がイキイキしてるっていう。
──そういうときはどうするんですか。
俺はなんて描けないんだ、と思いながら、ネームを拡大コピーしてトレースします(笑)。こういう悩みって解消されるのかなあ。ほんと、頭の中ではもっと可愛いはずなんだけどな。描いても描いても、描き直したくなるんですよね……。
──どれだけ売れて有名になっても、「こうしたらよかった」って思ってしまうタイプなのでは?
うーん、そうかもしれません(笑)。
あらすじ
交通事故にあった“オレ”が目を覚ますと、そこは須弥仙桜花ひきいる謎のプロレス団体「エル・パラシオ」の道場だった! 記憶を失ったオレは、流されるままに5人の猛獣……もとい、美女たちと共に暮らすことになってしまい……。オトコ1人、オンナ5人の新型ラブコメディのゴングが鳴る!
あおやぎ孝夫(あおやぎたかお)
12月13日生まれ。東京都出身。「フリーダム!」で第43回小学館新人コミック大賞入選。「ジョカトーレ」で連載デビュー。2002年から2004年まで、週刊少年サンデー(小学館)にて「ふぁいとの暁」を連載。全7巻が少年サンデーコミックスより発売。2009年5月、ゲッサン創刊号(小学館)にて「ここが噂のエル・パラシオ」の連載をスタートした。