コミックナタリー PowerPush - 甘詰留太「いちきゅーきゅーぺけ」

世紀末マンガサークル青春譚 甘詰留太、憧れの山本直樹と1990年代を語り合う

1994年──バブルが弾け世紀末も近づく中、次の変化に向けたエネルギーが静かに滾っていた激動前夜の時代。そんな時代を舞台に、「ナナとカオル」の甘詰留太が大学のマンガサークルを描く「いちきゅーきゅーぺけ」が単行本化される。

その作中に主人公が憧れるマンガ家として登場する山本直樹と、甘詰との対談をコミックナタリーがセッティング。さまざまな共通項がありながらも初顔合わせだという2人に、1990年代の記憶を熱く語り合ってもらった。

取材・文/前田久 撮影/岸野恵加

 
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自分の学生時代を舞台にすれば、時代の節目を描けるかなと(甘詰)

──今回、甘詰先生の憧れの存在であり、作中にもお名前がたびたび登場する山本先生との対談が実現しましたが、お2人は今日が完全に初対面ですか?

山本直樹 ええ、そうですね。

甘詰留太 はい、あの、よろしくお願いします……。

──甘詰先生、とても緊張されてますね(笑)。

「いちきゅーきゅーぺけ」で主人公の純平が入ったサークルの名前は、「W大ひねくれっ子マンガ集団」。

甘詰 そりゃあしますよ!(笑)

──世代は違えどお2人とも早稲田大学に在籍されていたわけですが、そのつながりでお会いすることもなかった?

山本 あ、マンガの舞台が「W大」ってなってたから、もしかしたらと思ったら、やっぱり早稲田出身なんだ。

甘詰 はい。ご卒業された山本先生と違って、中退なのですが……(苦笑)。

山本 漫研(早稲田大学漫画研究会)には入ってたんですか?

甘詰 いえ、早稲田には漫研以外にもいくつかマンガのサークルがあって、僕は「いじけっ子マンガ集団」という、ちょっと変わった名前のサークルに。

山本 なるほど。僕はね、ジャズ研だったんですよ。タモリさんに憧れて……というわけでもないけど(笑)。どうせ早稲田に入ったなら、その当時オールナイトニッポンのスーパースターだった、タモリさんの後輩になろうかな、と。早稲田漫研出身のマンガ家は多いんだよね。けらえいこさんとか、さそうあきらさんとか。

──いきなり母校のトークで話が弾んでいますが、ゆるゆると本筋に入らせていただこうかと思います。まずなぜ今回、甘詰先生が自伝的な要素を入れた作品を描こうと思われたのかをお聞きしたいです。

1994年春、純平は大学入学を機に上京する。

甘詰 率直な話をすると、担当編集さんから「やりましょうよ」と言われたからです。たまたま編集さんも交えた何人かでドイツ旅行に行く機会があったんですが、車で移動している最中に、「ネオジオCDの読み込みが遅い」とか「PC-FXって全然売れなかったよね」とか、懐かしいゲーム機の話をしていたんですね。そうしたら編集さんが面白がっちゃって、その頃のことをマンガにしませんか? と提案されまして。最初は、マンガ家マンガって今いっぱいあるし、ちょうど「アオイホノオ」がドラマ化されてたりもした時期なので、やめとこうかなと思ったんですけど、考えているうちに面白くなってきちゃったんですよね。あと、ちょうどそのころ、新書で「1995年」って本が出て……。

──ライターの速水健朗さんが書かれた、ちくま新書の?

甘詰 そうそう。その本の影響も大きかったですね。1995年が時代の節目として捉えられるんだったら、ちょうど自分の学生時代を舞台にすれば、そのあたりのことを描けるなと思ったんです。オウム真理教だったり、阪神・淡路大震災だったりといった大きい事件が自分の生活にもたらした変化を、オタクな物事に組み込みながらストーリーを作れたら、面白い作品になるんじゃないか……と。

「BLUE」に出会って「これはすごい!」と(甘詰)

──なるほど。山本先生は「いちきゅーきゅーぺけ」をお読みになられていかがでした?

山本 いやあ、自分の学生時代に引き寄せて読んで、感じるところがありました。描かれている時代は当然違うんだけど。ただ、作品の中に自分の名前がときどき出てくるのが、こっ恥ずかしかったですね(笑)。

甘詰 すみません(笑)。

──山本先生の作品と甘詰先生との出会いはどんな形だったんですか?

甘詰 親に連れられて行っていた地元の喫茶店で、いっぱい置いてあるマンガの中に、エッチなマンガが結構混ざっていたんですね。その中に山本先生の「極めてかもしだ」があって。小学校か中学校のころ、まだ本当は読んじゃいけない年齢だったんですけど……。

山本直樹(左)、甘詰留太。

山本 いや、「かもしだ」は一般誌のマンガだから、小中学生でも読んでいいんじゃないかな。

甘詰 あ、そうですね。でも親の前で読むのは、ちょっと恥ずかしいところがあるじゃないですか(笑)。ともあれそれを読んだとき、言いようもない感慨というか、モヤモヤを感じたんですよね。今でも体の芯の方に残っている気がするくらい。それであとあと、フランス書院文庫に入っていた作品集を買って。

山本 あのシリーズは本当に売れたんですよね。おかげで助かったなあ、当時(笑)。

甘詰 奥付を見ると、1年で10数回増刷されてますもんね。僕自身は愛知県の出身なんですが、「いちきゅーきゅーぺけ」の主人公は長野県の出身にしていて、これは友人の話を参考にしているんです。その友人に言わせると、彼にとってエロマンガといえば「山本直樹=森山塔の作品しかなかった」と。近場にまったく大きな書店がなかったそうなんですが、小さな書店でも森山作品は必ず置いてあった。それくらい当時、エロマンガの世界で圧倒的な存在だったんですよね。で、僕も先生の作品を追いかけているうちに「BLUE」に出会って、「これはすごい!」となったんです。

甘詰留太「いちきゅーきゅーぺけ」1巻 / 2015年4月28日発売 / 648円 / 白泉社
あらすじ

物語は1994年。大学入学を機に上京した純平は、エロマンガが大好きなオタク予備軍の少年。マンガサークル入部で純平の本格オタク人生が幕を開ける♡甘詰留太の“半自伝的”青春コメディ!!

甘詰留太(アマヅメリュウタ)
甘詰留太

1974年生まれ。早稲田大学のマンガサークル「いじけっ子マンガ集団」出身の愛とエロのマンガ家。他の代表作に「ナナとカオル」「年上ノ彼女」「ハッピーネガティブマリッジ」など。

山本直樹(ヤマモトナオキ)
山本直樹

1960年2月北海道生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。大学4年生の時に小池一夫主宰の劇画村塾に3期生として入門しマンガ家を志す。1984年に森山塔の名義で自販機本ピンクハウス(日本出版社)にて「ほらこんなに赤くなってる」でデビュー。同年、山本直樹名義でもジャストコミック(光文社)にて「私の青空」でデビューした。森山塔のほか塔山森の名義でも成人向け雑誌や青年誌などで活躍。1991年には山本直樹名義で発表した「BLUE」の過激な性描写が問題となり、東京都条例で有害コミック指定され論争になった。1992年、石ノ森章太郎が発起人となり結成された「コミック表現の自由を守る会」の中核として活発な言論活動を行いマンガの表現をめぐる規制に反対。その後も作風を変えることなく「YOUNG&FINE」「ありがとう」「フラグメンツ」など数々の問題作を発表した。早くから作画にコンピュータを取り入れ、生々しさをともなわない硬質な筆致から女性ファンも多い。その他の代表作にカルト教団の心理を題材にした「ビリーバーズ」、連合赤軍の革命ドラマ「レッド」など。また「分校の人たち」を、太田出版のWEB雑誌・ぽこぽこに連載中。