エレ片「新コントの人」|解き放たれたエレ片は自由で新しい!

エレ片は2007年から10年にわたり続けてきた「コントの人」シリーズに終止符を打ち、昨年1月に新作公演「新コントの人」を開催。写真や音楽、ネタの作り方も一新した同公演では、タイトルにふさわしい、まさに新しいエレ片を見せている。

この公演を収めたDVDが2月20日に発売されるのを記念し、お笑いナタリーでは本特集を企画。バレンタインデーにあわせて大量に用意したチョコレートをつまんでもらいながら、その新しさがどこから来ているのかエレ片の3人に聞いた。

取材・文 / 狩野有理 撮影 / 辺見真也

全部ゼロにして作ったのが「新コントの人」

──2016年2月の「コントの人10」から「新コントの人」開催まで2年の期間がありました。その間にあった主なできごとをまず簡単に振り返りましょう。

今立進 けっこういろいろありましたね。言われないともう何も覚えてないです(笑)。

片桐仁 「ENGEIグランドスラム」は緊張しましたねー。事務所ライブに出て調整したんですよ。

──そうなんですか!

やついいちろう ネタ尺をキュッとしなきゃいけないんで。

今立 結局長くなっちゃいましたけどね。

エレ片。左からやついいちろう、片桐仁、今立進。

──エレ片では2年間新作公演を行わなかったわけですが、「新コントの人」開催にあたってブランクは感じましたか?

やつい 「空いたなあ」っていう感覚はあまりなかったです。エレキコミックで新作をやっていましたし。

今立 ラジオで毎週会うしね。

片桐 コントの稽古が始まったら「久しぶりだな」とは思いましたけど、ブランクみたいなものは僕も感じませんでした。「あ、もう2年経ったんだ」くらいの感覚で。ラジオ発のイベントとかもありましたからね。

──以前のインタビュー(参照:DVD「エレ片コントライブ~コントの人9~」特集)でもお話ししてもらいましたが、「コントの人」に幕を下ろした理由を改めてお聞かせいただけますか?

エレ片

やつい 同じことを続けていると“呪い”みたいなものになってくるんです。誰も何も言っていないし、なんでもできるはずなのに「こうしなきゃいけないんだ」っていう頭になってきて、つまんなくなっちゃったっていうのが理由です。

片桐 やれることが狭まっていくんだよね。

──そこで、例えばオーディションを行うなどして新しい人材やゲストを入れるというお話もありましたよね。

やつい 単純に、新しい人を入れるとお金がかかるんですよ。

今立 現実的にね(笑)。制作費は抑えなきゃいけないから。

やつい かと言って、お金がかからない人を呼んでもしょうがないでしょ?

今立 失礼だな!(笑)

やつい このジレンマね。お金がかかる人を呼びたいけどお金がないし、お金がかからない人は呼べるけど呼んでもしょうがないし。

一同 あははははは!(笑)

やつい なので、人を加えるのとは別の方法で今までやっていないことはなんだろうって考えました。3人のキャラクターに準じてないネタとか、ラジオの流れを踏襲していないネタ、とにかく思考を1回フラットにしたかった。そしたら「ネタって別に終わらなくていいんじゃない?」とかも思い始めて。

──オチがなくてもいいということですか?

やついいちろう

やつい そうです。エレ片って別にテレビに出るグループじゃないから、ネタをテレビサイズにする必要もないし、ちゃんと1本になってる必要はないんじゃないかって。そういうことも含め全部ゼロにして作ったのが「新コントの人」です。

──なるほど。「ENGEI」に出演してテレビサイズというものを意識したことも関係しているのかもしれませんね。では全部ゼロにしたことでネタ作りも新たな気持ちで取り組めましたか?

やつい と思ったら、何も浮かばなくて(笑)。なにせゼロだから。とはいえ「コントの人」の場合は1、2、3……って番号を振っているだけでテーマのない大喜利をやっているようなものだったんですけど、「新コントの人」だったら「新」というテーマで作ることができる。初めてテーマがあったからまだちょっと発想しやすくはありました。

──「コントの人」すら取っ払って、もっとテーマが明確になるようなタイトルも付けられたと思います。なぜそうはしなかったのでしょうか。

やつい 「コントの人」ってすごくいいタイトルだなと思っていて。すべてを見事に言い表しているタイトルだと思いません? あと、今さらそれっぽいタイトルを付けるのが恥ずかしいっていうのもありますね。それでシンプルに「新」にしました。

今立進

──正直なところ、今まで通り3人体制ですし、タイトルも「コントの人」に「新」が付いただけで、これまでとあまり変わらないのかなと思っていたんです。ですがライブを観ると「新」というテーマ通りのフレッシュさを感じました。

やつい そうなってくれてよかったです。

片桐 若々しかったですよね。

やつい 1本目も2本目もめちゃくちゃしんどかったから。

今立 まあ動くネタだったもんね。

エレ片

写真も音楽も今までと違うものにしたかった

──公演ビジュアルなどを担当した写真家の池田晶紀さんや音楽を手がけた馬喰町バンドもエレ片に新たな風を吹き込んでいます。

やつい やっぱり10年やっていると固まってきてしまうので、フライヤーや音楽も今までとはまったく違うものにしたかったんです。

──池田さんとはどこで出会ったんですか?

2015年開催「エレキコミック第25回発表会『東京』」のフライヤー。

やつい エレキコミックの宣伝美術をやっている太田雄介っていう高校の同級生がいて、太田が僕らのライブに連れてきてくれたのが最初です。それから一度、2015年の「東京」っていうエレキの公演で写真を撮ってもらいました。そのときに「人間的にいいなー」と思ったんですよね。それ以降は仕事でご一緒する機会はなかったんですけど、池田さんの奥さんと「バチェラー・ジャパン」がきっかけで知り合ったりして、不思議と縁はありました。で、何年かあとに池田さんの写真展があると聞いて観に行ったら、すごく好きな写真だったんです。このテイストでエレ片も撮ってもらいたいと思って池田さんにお願いしました。

片桐 撮影は山梨の本栖湖でやって、楽しかったですよ。池田さんがものすごく乗せるのが上手で。

今立 すごい褒めてくれて、こっちのテンション上げてくれるんです。「最高だ!」「かわいい!」って。

──馬喰町バンドにはどんな経緯でオファーを?

やつい 僕と片桐さんが出ている「シャキーン!」(NHK Eテレ)に馬喰町バンドが出たことがあったんですが、これまでアルバムで聴いていた印象と違ってすごくポップだったんです。音楽に関しても絶対に今まで一緒にやっていない人とやりたかったし、聴いたことがない音を入れたかったので、馬喰町バンドの音自体の新しさとポップさをミックスしたようなものにできたらいいなとそのときに思ったのがきっかけです。

──曲の方向性はどんなふうに伝えたんですか?

エレ片

やつい 今回、ネタを作る前にイメージだけの羅列みたいなものをバーって書いていて、それを馬喰町バンドに渡して作ってもらいました。その中に「恥丸(はじまる)」っていう言葉があったんです。恥をかかないようにすると尖って、恥ずかしいことをすることで人は丸くなるから、「恥丸」。そんなニュアンスも伝わって、オープニングテーマの「はじまるよ」という曲が上がってきました。でも、ネタはこの段階で1本もできてないんですよ。

──ですが不思議とライブ全体の雰囲気に合っていると思いました。片桐さん今立さんは曲を聞いてどう思いましたか?

片桐 素敵な曲ですよね。池田さんの写真ともピッタリですし。

今立 これまでのエレ片の印象とガラッと変わったと思います。

“匂い”だけで作ったネタ

──1本目のコント「はじまり」はオープニングらしいネタでした。

DVD「エレ片 新コントの人」よりコント「はじまり」のワンシーン。

やつい このネタは抽象的なイメージだけで作りました。水が流れているような感じにしたいとか、風呂に入りたいとか。池田さんが撮ってくれた写真に、3人で湖に浸かっていて風呂に入っているみたいな写真があったので、コントの中であの形になりたいなと思って。あとは馬喰町バンドの「はじまるよ」が昔話っぽい曲だから「まんが日本昔ばなし」みたいなテイストにしたいとか、そういう“匂い”だけで作ったネタです。

──やついさんは実話をもとにネタ作りされることも多いですよね。今作はどうでしたか?

片桐 今回もほぼ実話なんだよね?

やつい 「エキストラ」は僕が出演していたドラマの撮影現場で実際に起こったことですし、「ヒッチハイク」も人から聞いた話なんですよ。「Pコート」は映像の菊池(謙太郎)のエピソードそのままです。雪山にPコートを着てきて、「寒いだろ?」って言っても「いや、中にダウン着てるんで大丈夫です」って。「じゃあダウンが暖かいんじゃねえか!」っていうやり取りに、舞台でできるギリギリのことを足していった感じです。

エレ片

──オカルト的な終わり方でしたよね(笑)。「エキストラ」のようなエレキコミックVS片桐仁のドタバタ劇はやっぱり見ていて楽しいです。

片桐 もとは違ったんだよね、配役が。

やつい 3人ともいろんな役をやってみて、体当たりしたときの今立と片桐さんの身体のバランスがよかったんです。今立の上半身ってアメフト選手みたいなので。あと演技の仕方がマンガだから、ああいう変な役が合いますよね。ただ、女(今立演じるエキストラ)がブスすぎるんだよなあ。

片桐 あはははは!(笑)

今立 女にしてはデカイんだよ。

やつい もうちょっとしゃなりしゃなりしてほしかったんだけど。片桐さんにはズルしないように口酸っぱく言いました。

今立 走って僕を追いかける役なんですけど、近道しようとするんです。

片桐仁

片桐 だってすげえ走らせるんだもん!

やつい 疲れる前に疲れたフリするから。

片桐 うるせえなあ(笑)。本当に疲れたの。

──このネタはさっきのお話にもあったようにオチというオチがありません。

やつい そうですね。

今立 この荒業は芸歴5年以下にはできないでしょうね。

片桐 こっちはだてに20年やってないから(笑)。

今立 ちゃんとしてないことに恐怖がない(笑)。