くりぃむしちゅー有田の脳を覗く、深くて濃い即興トーク Amazon Music独占ポッドキャスト新番組「有田脳」|“自分語り”をしてこなかった有田の変化「面白いかどうかは俺が決めることじゃない」

くりぃむしちゅー有田にとって初のポッドキャスト番組「有田脳」がスタートした。これはその場で提示されたテーマに沿って、有田が即興トークを繰り広げる番組。トークのための事前準備ができないという状況のもと、時に有田本人すら予想できなかった展開が生まれたり、思いもよらない初出しエピソードが飛び出したりするのが醍醐味だ。かつて有田の運転手を務め、知り合ってから約25年経った現在も交流を続けているコトブキツカサが聴き手として参加し、有田という人間をより深く掘り下げていく。

お笑いナタリーでは有田とコトブキにインタビューを実施。番組の魅力はもちろん、これまで“自分語り”を避けてきた有田の心境の変化、SNSやYouTubeへの向き合い方、膨大なカルチャーをインプットする方法などについても迫った。

取材・文 / 塚越嵩大

「今さらイメージを保ってどうする」50歳を超えての心境の変化

──「有田脳」は有田さん初のポッドキャスト番組です。どのような経緯で始めることになったのでしょうか。

有田哲平 担当者の口説き方がすごくうまくて。最初は「ポッドキャストで何かやりたいですね」と言われていたのが「やりましょう」になって、いつの間にか打合せすることになってました。僕はイエスもノーも言った覚えがなくて、完全にハメられました(笑)。「やりたいですね」のところまでは楽しかったんですけど……。

コトブキツカサ 今が楽しくないみたいなこと言わないでくださいよ!

有田 楽しくないというか、ドキドキしながらやってるから! その場で出されたお題に即興でトークをするので、台本もないし、本当に何も用意できないんです。

有田哲平

──有田さんと長年関わってきたコトブキさんから見て、この企画と有田さんの相性はいかがですか?

コトブキ 実は一番いい企画なんじゃないかと。そもそも有田さんは多趣味だし記憶力もいいので、トークの引き出しがものすごく多いのに、自分からは語りたがらない。でも誰かが引き出しを開けると、ずーっとお話が続くんです。なので、その場でお題が出されることで、長年一緒にいる僕ですら知らなかった初出しのエピソードや、初めて聞く考え方が飛び出して、ものすごく濃い内容になっています。

有田 テレビでは開けていい引き出しを自分で選びながらしゃべってますけど、「有田脳」の場合は「今日はこれを開けちゃいます!」って強制的にポーンと開けられるんです。だから自分でも「これは開けて大丈夫なのか!?」と思いながらしゃべってます。

──収録では「どこまでしゃべっていいのかわからない」と仰ってました。

有田 ラジオの生放送とかはやっぱり自分の中でリミッターがかかるんですけど、ポッドキャストの場合は「まあ、最悪なんとかしてくれるでしょ」という感覚はあります(笑)。変な話をしても誰かがその部分を削ってくれると信じてるので、「この引き出しは開けないでおこう」というリミッターは外しています。

コトブキ そもそも有田さんが自分語りをする場所ってメディアにはあまりなかったですよね。

有田 確かに。

左からコトブキツカサ、有田哲平。

コトブキ 「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」でもキャラクターになっちゃうから。

有田 ふざけちゃってね(笑)。

コトブキ 時事ネタには言及しないし、「今週こんなことがあった」ということすら語ってこなかったですよね。

──今回の「有田脳」では有田さんがガッツリと自分のことを語っていますが、何か心境の変化はあったのでしょうか?

有田 以前は「俺が自分のことを語っても面白くないでしょ」「イメージが崩れるかもしれない」と思って断ってたんです。でも50歳を過ぎたあたりから今さらイメージを保ってどうするんだろうと思うようになって、それよりもやってほしいと言われたことに応えるほうが大切なんじゃないかと。「有田と週刊プロレスと」も「俺がプロレスのことを人に教えて何が面白いの?」という感じで、すぐやめるつもりで始めたんですけど、評判がよくてシーズンを重ねるようになって、そのときに「やってほしい」ということにもっと応えるべきなんじゃないかと思ったんです。なので最近は「面白いかどうかは俺が決めることじゃない」「誰かが求めてくれるならそれが一番だろう」という考えになりました。

おしゃべりがとにかく好き

──実際に「有田脳」の収録が始まり、手応えはいかがですか?

有田哲平

有田 手応えはまったくないです(笑)。プライベートの子育ての話もしていて、事前にテーマを聞かされていれば整理して面白話に昇華できるんですが、それを封じられているので、真面目に答えちゃうときもあるし、心の中にしまっておこうと思っていたことをポロッと言っちゃうこともある。「これでいいんですか?」と思いながらやっていて、スタッフの「面白かったです」「楽しかったです」「いい話でした」という声だけにすがっています。

コトブキ 有田さんがしゃべってるときに「あ、こんなことがあった」と思い出すことがあるんです。誰も予想していなかった思わぬ話が飛び出す瞬間がこの番組の醍醐味だと思います。有田さん自身にも気付きがあるというか。

──非常にリラックスされながら楽しそうにお話しているのが印象的でした。

有田 おしゃべりがとにかく好きなんです。「しゃべくり007」でずっとベラベラしゃべってたのに、さらに打ち上げで4時間くらいしゃべったりすることもありました。最近そういう機会が減っていたので、いい意味でのドキドキ感を味わいながらおしゃべりできるのは楽しいです。

コトブキ 「M-1グランプリ」をはじめとするお笑いの話もけっこう出てきます。

──有田さんほど若手芸人と接する機会が多い芸人さんもいないと思うので、そういった方がどのようにお笑いシーンを見ているのかは気になります。

有田 確かに「笑いの金メダル」の頃からたくさんの若手芸人と絡んできたくせに、それをあまりしゃべってこなかったんですね。打ち上げではずっとしゃべってたんだけどなあ。俺、打ち上げでポッドキャストやってたんだ(笑)。

コトブキ ははははは! 配信してないだけで。

有田 コトブキが僕の運転手をやってくれていたときは、車内でもよく語ってました。「今日の番組、俺はこう思う」とか。

コトブキ 僕のほうから「どうでした?」と聞くこともよくあったし、有田さんはそれに100%返してくれるんです。「わからない」と言うことは絶対になくて、テレビ収録の現場で起こったことのメカニズムを教えてくれるんです。本当に貴重でした。そういうものをアウトプットする場所が今までなかったのかが不思議なくらい。あの車内でのトークは、リスナーが僕1人だけの「有田脳」という感じ。車中ポッドキャスト。あんな貴重な経験はないですよ。今でも録音しておけばよかったと思ってます(笑)。

有田 それが人に聞かせられる話かは知らないけど(笑)。

SNSをやってこなかった理由

──自分語りをする場を設けてこなかったということに関連してお聞きしたいのですが、SNSをやっていないのには理由があるんですか?

有田 単純にプライベートで見せられるものはないという意識はあります。あと、やり始めたらやり続けなければいけないじゃないですか。「今日載せるための面白い写真ねえかな」って探さなきゃいけないのは大変だなと思って手を出してこなかったんです。そういうの嫌いじゃないので、始めたらたぶん結構やっちゃうんですよ。SNSの文化をよく思ってないわけではまったくなくて、むしろ素敵だと思っています。

コトブキ 12年前に「コトブキ、お前はTwitterをやったほうがいい」って僕のガラケーをぶんどって登録してくれたのは有田さんなんです。収録が終わるたびに「お前、なんか呟いてんのか?」って聞いてきて。本人はやらないのに。

有田 「時代的にいち早くTwitterみたいなのは取り入れなきゃダメだぞ」と言った覚えはあります。携帯をぶんどって(笑)。

コトブキ 「暗証番号を言え!」って(笑)。でも有田さんに背中を押してもらってよかったなと思ってます。

──今年は有田さんのYouTubeチャンネルが始まって、個人的にはそれも衝撃でした。

コトブキ 僕も有田さんはYouTubeをやらないと思ってました。もちろん「有田と週刊プロレスと」からの流れではあるんですが、始まったときは本当にうれしかったです。テレビとかでプロレスを語るとどうしてもキュッと編集されてしまうので、長く話を聴けるのが最高だなと思ってたら、今回の「有田脳」も始まりましたから。「くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン」をずっと聴いていた自分からすると、有田さんのお話を長尺で聴けるのはたまらない。少し前だったら考えられなかったので感慨深いです。

有田 コトブキがポッドキャストやYouTubeをやっていて、よく聴いてるんです。それに背中を押されているところはあるかもしれない。

コトブキ えぇ!?

有田 コトブキは映画パーソナリティをやってるから、映画の話を期待されてるはずなんですけど、全然そういう話をしないんです。でも全然聴ける。「自由におしゃべりしてるだけでもちゃんと面白く聴けるんだな」という意識がだいぶ身についた気がします。