NSC東京夏合宿にお笑いナタリーが潜入
2009年9月8日 10:00 1
吉本興業が運営する芸人養成スクール「NSC(吉本総合芸能学院)」。今やテレビなどで活躍している吉本芸人のほとんどはNSCの出身だ。NSC東京では毎年9月初旬に合宿を行っているが、果たしてそこではどんなことが行われているのか。お笑いナタリーが潜入レポートする。
9月某日午前9時。神保町にあるNSC東京校に生徒約350人が集合。合宿は2泊3日で、4名のNSC講師と約10名の若手芸人、若手作家約10名が指導を行う。場所は静岡県掛川市にある「ヤマハリゾート つま恋」。ここで普段教室ではできない、広い場所やプールなどを使ったゲームコーナーや大喜利が行われる。「とにかく面白いことをする」というのがテーマだ。
それぞれの笑いのスキルアップはもちろんのことだが、ここで肝心なのは基礎体力作り。売れたとたんに睡眠時間がなくなるというのはよく聞く話だが、お笑い芸人にとって過酷なロケは切っても切れない関係にある。体力がないせいでチャンスを逃すことがないよう、この合宿では終日フルテンションでの参加が義務となる。
そして、この合宿のメインイベントは「ネタ見せ」。25組前後が選ばれ、ここで高い順位を勝ち取った芸人はほとんどといっていいほど、卒業後注目されている。
移動
10時頃バスは神保町を出発。バスは全部で7台、コンビで参加する生徒とピンの生徒がほとんどだが、うち2台は“相方を探している生徒”のみが乗るバス。2日目までに相方を見つけないと、ネタ見せに参加できないというルールだ。また、演技の幅を広げるためにと俳優コースからの参加希望者もいる。
車中では休む間もなく、大喜利やギャグ、替え歌などが行われる。緊張や興奮もあってか、大喜利のフリを待たずに答えを言う、お題と離れたギャグをするなど、初歩的なミスもかなり目立つ。だが、まずは積極的に回答することが重要だ。
相方探し
到着後すぐに講義は始まる。ピン芸人とコンビ芸人はすぐさま「ネタ講習」へ。この講習の結果で「ネタ見せ」に出られる人が決まる。そして、コンビでネタをやりたいが相方が決まっていないという生徒約100名を集めて行われるのが「相方探し」。ツッコミ希望とボケ希望に分かれて、自己紹介後、小道具一発ギャグを披露。その後フリータイムで気にいった人に声をかける。将来への真剣さも含め、ほぼお見合いパーティのような状態。
野外ゲーム実習
合宿の一番の醍醐味が「野外ゲーム実習」だ。炎天下の中、広大な敷地を存分に使って行われるこの実習は、身体を張って解答権を得るゲーム大会や大喜利、一発ギャグ、集団コントなどを行う。もちろん、倒れる前に休む、水分補給を怠らない、など人に迷惑をかけない自己管理も重要になってくる。
食事
食事も普通には食べることはできない。初日の夕食「夕食争奪一発ギャグ大会」では、ギャグのタイマン勝負で、勝った方は豪華なおかず、負けた方は一汁一菜のみ(ごはんのおかわりは自由)。2日目の夕食後、50~100の間の「素数」を当てないと休憩できないことに。近年学力クイズが流行っているが、わからないからといってあきらめていては勝負にならない。素数は計算すれば導き出せる良い例。最終日の昼食では、合宿中に獲得したポイントが最下位だったバスのチーム全員が激辛カレーを食べることに。
深夜講義
●小山田満月講師
NSCの授業では、主に「集団コント」を担当。合宿では「出身地対抗自慢合戦」を行った。人物、観光地、名産など、いかに多くの引き出しを使うかということがメインだが、引き出しがないときも含めいかにボケるかということも大切。
●水野しげゆき講師
M-1・R-1などの審査員もつとめる水野講師の講義は、メガネ芸人によるメガネを使ったポーズなど、さまざまなバリエーションで行う「だるまさんが転んだ」。動くことはもちろん、テーマに沿ってないポーズの人もNG。個人戦ではあるが、ゴールを決める着地点はそれぞれの動きをみながら決める団体芸でもある。
●金井夏生講師
吉本内のさまざまなイベントを手掛ける金井講師のクイズ大会。だが、内容はクイズお構いなしのハイテンション講義。ムチャぶりの連続で生徒全員、騒いで踊って叫ぶ。どんなフリにも全力で立ち向かうことが大事なこの講義。芸人魂を心身ともに出し尽くし、やり終えた後には一体感が。
●柏田眞志講師
さまざまな人気番組を手がけるとともに、最近ではNHKの番組レギュラーをもつ柏田講師の講義では「世界のなぞなぞ」が題材。問題の意味が全く分からない(答えを聞いても納得がいかない)クイズに対して、いかに正解を導き出せるのかがポイントとなる。
●若手芸人
NSC合宿で初の試みとなる若手芸人による講義。天狗、
●泥の97年芸人
合宿最後の授業にBコース、ガリットチュウ、レイザーラモンRGの「泥の97年組」がサプライズゲストで登場。Bコースの「集団ギャグ」、ガリットチュウの「マニアックモノマネ」、レイザーラモンRGの「あるあるネタ」をモチーフに各グループでネタを考えるというお題が。生徒たちにとって、ネタを考えて披露するということ以上に先輩芸人との絡みが何より貴重な経験となっただろう。
早朝バズーカ
短い睡眠時間も油断ならないこの合宿。ストリートファイターのベガ(セブンbyセブン玉城)軍団とイシバシタカアキ(ハンマミーヤ一木)軍団が、容赦なく寝込みを襲う。
ネタ見せ
今年は26組が選ばれた。内訳はコンビ16組(女性2組)、ピン芸人5人(女性1人)、トリオが4組(女性1組)、俳優コースが1組(男女)。ほとんどがネタ講習で選ばれるが、その後の敗者復活のゲーム大会にて、運のみでネタ見せを勝ち取ったコンビもいた。
今年の優勝を勝ち取ったのは、女性トリオ「おかずクラブ」。「キャッツアイ」をモチーフにしたよくあるパターンのコントではあるが、テンポよくそれぞれのキャラを活かし、王道コントを自分たちのものに仕立て上げていた。2位の「V缶」はコンビの片方が38歳という変わり種。3位のトリオ「トライデントアタック」は、フィットネスDVDを題材にしたコントで笑いを取っていたが、実は前日の相方探しで組んだトリオ。一夜にして逆転劇は起こる。
MVP発表
全体を通して、よく頑張っていた人を表彰する。10人がノミネートされたが、見事MVPを獲得したのは、とりあえず・渡久山。全身にベルトを巻いたヒッピー風衣装で合宿を過ごし、ネタ見せにも選ばれた。渡久山には、MVPの賞金として「NSC合宿費全額返金」が与えられた。
NSC東京校を長年支えてきた鈴木プロデューサーによると「今年の生徒は元気はある」とのこと。だが合宿最終日の講話では「人のネタ見せをヘラヘラ応援しているようではダメ」という厳しい指摘も行っていた。「ネタを見た後拍手をしないのは論外だが、自分たちが選ばれなかったことに対して悔しいという思いがなければ、面白くなることはできない。そういう真剣さが足りない」、そう言われ下を向く生徒もいた。
体力的には限界なはずの帰りのバスでは、行きでの空振りが嘘のように、大喜利や替え歌の名回答が続出。卒業後にはこれまで以上に厳しい世界が待っていることを少し肌で感じることができたかもしれない。それもひとえに、講師、スタッフ、先輩芸人全員の「芸人を志した人たち」へのエールで成り立っている。卒業後彼らが、1年また1年と時を積み重ねるにつれ、NSCで学んだことへの理解が深まるのだろう。
来年度の新入生募集は、間もなく始まる予定。気になる人は、オフィシャルサイトをチェックしよう。
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