芸人が大きなコンテストで優勝した際の報告ツイートには多数の祝福が寄せられる。そんな優勝報告ツイートを2年間にわたり1日も休まずに続けている芸人がいる。男の名は、
取材・
執念の2年間をおさらい
2020年10月30日、みながわとはじりのコンビ・ネイビーズアフロが「第50回NHK上方漫才コンテスト」で優勝。みながわはTwitterで喜びを爆発させた。
彼は翌日に「昨日放送の、第50回NHK上方漫才コンテスト優勝しました」、次の日には「おととい放送の、第50回NHK上方漫才コンテスト優勝しました」、さらに次の日は「3日前に放送された、第50回NHK上方漫才コンテストで優勝しました」とツイート。そのしつこさに、芸人仲間やファンは徐々にザワつき始め、「毎日ツイートする感じですか?」「言いすぎじゃない?」「毎日毎日デジャヴって感じで焦る」と戸惑う声が多く上がった。
優勝から丸2年。みながわは今もなお、1日も休むことなく「第50回NHK上方漫才コンテストで優勝しました」とツイートし続けている。途中、ネイビーズアフロは2021年4月10日に「第56回上方漫才大賞」で新人賞を獲得。この結果、2つの報告を同時並行でツイートしていくこととなった。さらに「令和3年度 NHK新人お笑い大賞」でニッポンの社長が優勝してからは、彼らに対する祝福ツイートも毎日投稿することに。「第57回上方漫才大賞」の新人賞にもニッポンの社長が選ばれると、その祝福ツイートも追加された。現在、みながわは以下の4種類のツイートを毎日投稿している。
- 「第50回NHK上方漫才コンテスト」優勝の報告ツイート(2020年10月30日~)
- 「第56回上方漫才大賞」新人賞獲得の報告ツイート(2021年4月10日~)
- 「令和3年度 NHK新人お笑い大賞」で優勝したニッポンの社長への祝福ツイート(2021年11月1日~)
- 「第57回上方漫才大賞」新人賞を獲得したニッポンの社長への祝福ツイート(2022年4月10日~)
ネイビーズアフロみながわ インタビュー
気付いたら700日を超えていました
──率直にお聞きします。なぜ優勝報告を2年間も続けているのでしょうか?
みながわ 2年前の「第50回NHK上方漫才コンテスト」のオンエア当日にTwitterで優勝を報告したんですけど、書き忘れていた内容があったので、それを追記したツイートを翌日にもう1回投稿したんです。「改めてありがとうございました」みたいな。そしたら
──急に飛びましたね。1週間を過ぎたあたりで、そろそろやめようとはならなかったのでしょうか?
みながわ 5日経ったあたりで周りから「あれ、めっちゃ面白いやん」「みながわしかできへんよな」と声をかけてもらえるようになったんです。確かに僕の自己顕示欲の強さが凝縮されたツイートだなと。自分でいうのもなんですけど、持ち前の勤勉さも表れていますし。そこで「いけるところまでいってみるか」とスイッチが入りました。
──同じ文言と写真を投稿し続けることはほかの人もできるかもしれないのですが、みながわさんの場合はツイートの内容を毎日変えていて、これを2年間続けるのは並大抵のことではないと思います。昔から何かをコツコツと続けることが苦にならない性格だったんですか?
みながわ 続けるスイッチが入ると「やらないと気が済まない」という状態になるんですよ。小学3年生のとき、1週間に1回くらいのペースで日記を書く宿題を出されてたんですけど、書いてない日があるのが気持ち悪くて、僕だけ365日書いてました。先生が「なんでそんなに書いてくるの?」と怖がってしまって、それは今の状況に近いかもしれないです。あとは人に褒められたいという欲求が強いのも要因かもしれません。何かを継続してると褒めてもらえるじゃないですか。僕、4人兄弟の末っ子なので割と褒めてもらいやすい環境だったんです。
賞賛から罵詈雑言、そして無関心へ
──最初は「面白い」と評判だったとのことですが、ツイートを続けていく中で周囲の反応に変化はありましたか?
みながわ 賞賛から罵詈雑言に変わっていきました。「お前、いつまで言うてんねん」「おもんないねん」という声が徐々に増えていくんです。でも、それを超えるとまた賞賛されるフェーズに入るんですよ。「しつこいねん」から「まだやってんの? すげえな」に変わる瞬間。で、さらにその先に待っていたのが無関心でした。ほとんどの人が何も言ってこなくなります。
──途中でミュートを宣言する芸人さんも多く見受けられました。
みながわ はい。でも「ミュートしたのにタイムラインに流れてきた」という謎の現象も何回か確認されています。
──あまりのしつこさにファンからフォローを外されるんじゃないかという恐怖はなかったですか?
みながわ 正直、このツイートを始めてから、フォロワーの増え方は大きく抑制されてます。でも何かを成し遂げるためには、何かを諦めなければいけないじゃないですか。それは歴史が証明していると思います。坂本龍馬も常に新選組に命を狙われながらも、薩長同盟や倒幕をやり抜いたんですよ。僕もフォロワー数と引き換えに歴史を作りたいんです。
──熱いです。確かに、現在も毎日「おめでとうございます」とリプライを送り続けるファンも数人いて、小さな文化が定着した感じもします。
みながわ 文明ってこうやってできていったんでしょうね。毎日祝福してくださるファンの方々に関しては、ほんまに僕が言うのもおかしいですけど、「毎日どういうつもりで書いてるんやろ」と思っています(笑)。ただ、そういう方々がいるということは、ツイートを続ける上で心の支えになっています。
──芸人では
みながわ 「ついによしたかさんもここまでか」と思いました。
後輩が誰も協力してくれなくなった
──4つのツイートを毎日欠かさず投稿する上での一番の苦労は?
みながわ ニッポンの社長への祝福ツイートは辻さんのことをとにかく褒めまくるという内容なんですけど、正直、文章が思いつかなくなる瞬間もありました。とても尊敬しているはずなのに、徐々に褒めるところがなくなってくるんです。
──無理やり褒めるために、辻さんの本名の漢字を分解してましたよね。
みながわ どんな聖人君子でも300個以上の褒めるところは見つからないという発見がありました。例えマザー・テレサだとしても。キツいというほどではないんですが、「時間がかかるなあ」と思うときはあって、ニッポンの社長への祝福ツイートは1周年でやめようかなとは考えています。
──そうなんですね。なぜか少しホッとしました。
みながわ 4つを経験しているので、2つに戻ると思うとすごく余裕な感じがします。上の兄2人が独り立ちしたときのうちの母親もこんな気持ちやったのかな。
──ゆとりができると。写真も毎日変えていますが、これも大変ではないですか?
みながわ そうですね。基本的には撮り溜めをしていて、写真から文章を考えることも多いです。前は後輩に撮影を手伝ってもらってたんです。少ないですけどお小遣いもあげて。でも「みながわに声をかけられたらトロフィーの写真を撮らされる」という噂が広まって、いつの間にか誰も協力してくれなくなりました。しょうがないので150cmくらい伸びる自撮り棒を買いまして、最近はあたかも人に写してもらってるかのような写真を撮っています。
コンプレックスに泣いた、でもそれは個性の産声だった
──この2年間は長かったですか? 短かったですか?
みながわ あっという間でした。30年間の人生のどの2年よりも自分を自分たらしめられた期間だと思います。しゃべったことがなかった東京の他事務所の先輩がこのツイートで僕のことを知ってくれていたりするので。
──このツイートでいろんな名言も生まれましたよね。
みながわ 個人的に気に入っているのは「コンプレックスに泣いた。でもそれは個性の産声だった」(笑)。自分の勤勉さや真面目さは芸人っぽくないのかなと悩んだこともあったんですが、それを突き詰めた結果、個性として認められるようになってきました。エンタテインメントの世界で個性を放っている人たちは、入口はコンプレックスだった人が多いと思うんです。桑田佳祐さんも最初から歌がうまいと言われていたわけではないけど、「俺はこれだ」とオリジナリティある声と歌い方を貫いたから今がある。
──ツイートはまだまだ続きそうですか?
みながわ 最初は1000日が目標だったんですけど、捉えられるところまできたら、1000日では終わらない気がしてきました。ギネス記録も申請してみたいです。
──このツイートにゴールはあるのでしょうか?
みながわ Twitterが終わるまでですね。
※記事初出時、本文に誤りがありました。訂正し、お詫びいたします。
みながわ
1992年9月22日生まれ、京都府出身。NSC大阪校33期生。2011年にはじりとネイビーズアフロを結成。2020年に「第50回 NHK上方漫才コンテスト」で優勝し、2021年には「第56回上方漫才大賞」で新人賞を獲得した。2020年10月よりKBS京都で冠ラジオ番組「ネイビーズアフロのラジオにセント」が放送されている。
ネイビーズアフロ単独ライブ参勤交代2022~霜月~
日時:2022年11月3日(木・祝)14:30開場 15:00開演
会場:東京・よしもと有楽町シアター
料金:前売2000円 当日2500円
チケット:FANYチケットで販売中。
ネイビーズアフロみながわ @navysdekkaihou
1日目から全てのツイートをこと細かに追い続けている、常軌を逸した方がいまして、その方が書いてくださいました☺️ https://t.co/unWo8XDvlI