The VOCALOID Collection ~2021 Spring~ | R Sound Design×一二三 ライバルであり戦友、同じ時代を駆け抜けた2人がボカロを使い続ける理由

ボーカロイドにまつわるさまざまな企画が繰り広げられるイベント「The VOCALOID Collection ~2021 Spring~」が、4月24日から翌25日にかけて開催される。

「The VOCALOID Collection」の開催を記念して、音楽ナタリーではイベントに賛同するクリエイターにスポットを当てた特集を複数回にわたって展開している。第2弾は、ともに2015年にデビューしたR Sound Designと一二三による“同世代のボカロP対談”を実施。ボーカリストへの楽曲提供を行いながらもボカロ曲を投稿し続ける理由、目まぐるしく変化を続ける動画文化やインターネット上の音楽シーンについて、現役ボカロPの目線で語り合ってもらった。

取材・文 / 倉嶌孝彦

デビューもヒットも同じタイミング

──今回の対談では2015年にデビューしたクリエイター同士の対談として、R Sound Designさんと一二三さんにお声がけさせていただきました。現在ではプライベートでも交流があるお二人が、お互いを意識し始めたのはいつ頃ですか?

一二三 Rさんのことを意識し始めたのはやっぱり2017年の「帝国少女」ですね。ランキングにガンガン上がってきてましたし。

R 僕が一二三さんのことを知ったのもほぼ同じタイミングです。僕は「猛独が襲う」で一二三さんの楽曲を初めて拝聴して、それから「踊る恐竜さん」とか、ほかの曲も追うようになりました。

一二三 僕、Rさんに対してめちゃくちゃライバル意識を持っているんですよ。デビューしたタイミングも近いし、動画が伸びたタイミングとか、フォロワーの数とか、僕らはいろんなものがけっこう近いんです。定期的に楽曲はチェックしていますし、Twitterも追ってます。プライベートでも仲よくさせていただいている関係ではあるんですが、ボカロPとしては一方的にライバル意識を燃やしている相手でもあります(笑)。

R 光栄です(笑)。一二三さんがおっしゃったように、我々はいろんな数字が似ているので、一緒にステップアップした感覚があるんですよね。もちろん僕にもライバル意識はありますけど、一緒に駆けあがってきた戦友みたいな意識も強くて。一二三さんはすごく親しみやすい方でもあるので、一緒にごはんを食べに行ったり、情報交換をしたりすることもあって、ライバルでありながら戦友で仲間、みたいな感覚があります。

──お二人と同世代のボカロPをほかに挙げるとするとどのあたりの方々ですか?

R キノシタさんかなあ。

一二三 あとは大沼パセリさんとか、カンザキイオリさん。僕の中では2016年か、2017年に頭角を現してきた方が同世代なのかなと認識しています。

──ネットで活動している方々の場合、デビューしたタイミングではなく楽曲が注目されたタイミングが同じ方を同期、同世代と認識する傾向がありますよね。

一二三 意識したことはなかったけどそうかもしれないですね。デビューしたタイミングでいうと、誰が一緒なのかというのが自分でもすぐ思い付かないんですよ。

R おそらく自分が初めてランキングで上位にランクインしたタイミングで横並びにいる新しめのクリエイターたちの名前を見て、同世代だなと感じるんだと思います。少なくとも、僕はそうだったかな。

一二三 うん。僕もそうだったな。自分がランキングに上がったときに競い合ってたRさんのことは「同世代ですごい人が出てきたぞ」と思いましたから(笑)。

流行り廃りが語られる時点で、ジャンルとして確立している

──お二人には今回の対談とは別に「新世代クリエイターが明かす“影響を受けたボカロ曲3選”」と題したアンケート企画にもご参加いただきました。そこでお二人にも3曲を選んでもらったんですが、そこで共通しているのが2009年前後の曲が軸になっていることなんです(参照:「The VOCALOID Collection」特集、新世代が影響を受けたボカロ曲)。

一二三 高校から大学にかけての学生時代にボカロ曲をちょこちょこ聴いていたんです。その頃に聴いていた曲の影響が強くて、今も当時聴いていた音楽の影響が自分の音楽にも出ているかもしれないですね。

R 僕はボカロの音楽に触れるまで、同人音楽というもの自体を知らなかったんですよ。それまでの僕はテレビで流れる音楽とか、メジャーで流通しているCDとかにしか触れたことがなくて、ボカロを知ったときに同人音楽というものが存在することを初めて知って。だからすごく新鮮な感覚でボカロに触れていたと思います。

──ボカロPになる前のお二人は、当時触れた音楽からどのような刺激を受けたんでしょうか?

一二三 ボカロ曲に出会った頃はまさか自分がボカロPになるとは思っていなかったんですよ。ただ大学の頃にネットに音楽を発表したいなという考えがぼんやりとあって、あくまで趣味の一環として音楽を作り始めたんです。実を言うと、最初は自分で歌った曲をアップロードする予定だったんですが、自分のボーカルがなかなか聴き苦しかったので、好きだったボカロの力を借りて音楽を発表することにしました。Rさんはもともとはバンドマンですよね?

R はい。中学生のときからギターを弾いていて、そのままバンドをずっとやっていたんですよね。ただ2015年にバンドの活動が終わることになって、昔から知ってるボカロを使って1人で作曲するのも楽しいかなという感じで作り始めたのがボカロPとしての始まりです。実を言うと、2010年頃から自分がボカロPになるまで5年くらい、ボカロの音楽を追ってなかった時期があるんです。

一二三 そうだったんですね。

R 例えば「カゲロウプロジェクト」の流行とか、2012年あたりのメディアミックス的な展開とかも当時は全然把握してなくて、自分がボカロを始めてから知ったくらいなんですよ。

一二三 僕はリアルタイムで追っていたので2012、13年あたりの盛り上がりも目の当たりにしていました。その後2014、15年あたりでいったん落ち着くような空気感があって、「ボカロは衰退した」みたいなことを言う人も増えてきた印象でした。ただ僕は、ボカロの音楽には根強い人気があって、これから先もブームを繰り返すような予感があったんですよね。

──2012年のある種異様な盛り上がりのあと、ブームが一度落ち着いたタイミングでボカロから離れていってしまったクリエイターも多かったと思います。その中でも一二三さんはボカロで勝負できる確信を得ていたわけですね。

一二三 はい。特に根拠はないんですけど、流行り廃りが語られる時点でもう1つのジャンルとして確立したんだとは思っていました。だから「ボカロの音楽がなくなる」みたいなことはまったく思ったことがなかったですね。

R 僕はその流行り廃りをまったく知らなかったので、周囲のことをあまり考えずにボカロ曲を発表し始めたんです。ただ2007~09年頃に比べて、アップロードされている曲数が爆発的に増えたというのは感じていました。その分、1曲が熱烈に流行ることも少なくなったとも感じましたが。

一二三 ボカロ曲が表現する音楽の幅は間違いなく広がったと思います。

R 人気曲の入れ替わりのスパンがおそらく違うし、ヒットの大きさも長さも変わりましたよね。

2015年以降のネット音楽シーン

──お二人がデビューした2015年以降のお話も伺えればと思います。ここ数年のインターネットの音楽シーンの変化をお二人はどう感じていますか?

R 2018年くらいからですが、米津玄師さんを始めとしたボカロ出身のアーティストがテレビで注目されるような流れが続いて、間違いなくネットの音楽シーンが盛り上がったと思います。それまでもメジャーデビューしたボカロPさんがたくさんいらっしゃいましたが、日本の音楽シーンの中心に躍り出るような存在にまでなる方は米津さんが最初だと思いますし。僕としてはボカロPとしてもアーティストとしてもずっとやっていきたい思いが強かったので、デビュー以降の時間はボカロ界隈のシーンがどんどん成長した、すごくいい数年間だったと捉えています。

一二三 僕はこの5、6年のプラットフォームの変化も大きかったなと感じています。ボカロ曲はもともとニコニコ動画を中心に流行していたんですが、ここ数年は特にYouTubeでも聴かれるようになって。それだけじゃなくて、Instagramのリール機能で音楽を聴く人とか、TikTokで音楽に出会う人も増えているので、最近は特に複数の動画サイトを活用することも意識しています。サイトによって尺感だったり、動画の楽しみ方だったりが違うので、SNSによって音楽の形を変える、みたいな工夫が求められているようにも感じますね。

──YouTubeにしろTikTokにしろ、日常的に動画を楽しむユーザーの数が増えたのもこの5、6年の大きな変化だと思います。

一二三 そうですね。時代の変化に対応していかなきゃいけない、という意識は強くあります。動画で発表される楽曲の数も増えているから、曲の最初の10秒で見せ場を持ってくるような曲作りを意識しています。

R 僕はブランディングというか、セルフプロモーションの仕方を意識しています。例えばSNSであまり本当の自分を出さないようにしているんですよ。自分の本名を出して自分の素を出すのではなくて、ボカロPとしてのアーティスト性を意識しているというか。やっぱりそれは動画サイトに新しい音楽があふれるようになったから、自分の楽曲をどうアピールするか、どう引っかかりを作るか考えて行っている工夫かもしれません。

──Rさんの場合は「R Sound Design」という名義もセルフブランディングの意識の表れだと感じています。

R そうですね。個人名を出すのではなく、レーベル名っぽい名前にすることで、自分の素が見えないようにしているところはありますね。