音楽ナタリー PowerPush - ななみ

求める側から与える側に

傷付けてくれてありがとう

──カップリングの曲についても話を聞かせてください。「恋桜」と「偽愛」ってどちらも失恋を歌っていますよね。なぜ失恋の歌を2曲並べたんでしょうか?

あ、今言われて初めて気付きました、どっちも失恋の曲だって。でも全然違う曲なんですよね(笑)。「恋桜」は、温かい失恋の歌で、「偽愛」は女性が狂う失恋。もしかしたら共感してくれる方も違うのかなと思って毛色の違う曲を2曲選んだんです。

ななみ

──「恋桜」は「旅立つ貴方」に向けて歌った恋の歌ですが、ななみさんの実体験がもとになっているんですか?

歌で嘘はつけないので、もちろん自分の経験をもとにしています。私が中学2年生のとき、1つ上の先輩のことが好きになったんです。それが卒業式の1週間くらい前。その人が高校に行っていろんな人に出会うチャンスを潰したくないなって思って、結局気持ちを伝えなかったんですよ。それで卒業式が終わったあと、校庭にある桜の花が散っていくのを見て、自分の恋に似てるなと思って「恋桜」っていう名前を曲に付けました。

──もう1つのカップリング曲「偽愛」は「恋桜」とは全然違う曲調で、行きずりの恋が歌われています。「歌で嘘は付けない」ということはこの曲も自分の経験がベースにあるんでしょうか?

そうなんです(笑)。私が17歳でヤンキーだったとき、1人の男性に裏切られたことがあって。でも私はその人が大好きだったから、別れたあとも「この人じゃない、あの人じゃない」って、毎晩街に出て同じような人を捜していたことがあったんです。この歌では歌詞に「貴方よりも貴方がくれる指輪に価値がある」とあるように、偽りの恋愛を重ねて女性が狂っていく様子を書いています。たぶん、ものすごく辛い失恋を経験した女性の中には、それこそ狂ってしまって逃げ出したいって思ってる人がいると思うんですよ。そういうときに私の曲を聴いて強気になってほしいし、「いい女になって見返してやる」と思ってほしいんですよね。

──実体験がベースにあるのに、まったく異なる2曲の失恋ソングが並んだんですね。

ホント、同じ人間とは思えないですよね(笑)。ただヤンキー時代の失恋とか偽りの恋も、後悔しているわけではないんです。どちらかといえば「傷付けてくれてありがとう」って思っているんです。そのおかげでこの曲ができたわけだし。ライブでは弾き語りでやるんですけど、狂ったように歌うことができるからすごく楽しいんですよ。けっこう女性はノッてくれるんですけど、男性はドン引きしてることが多いです。

──確かに、女性に指輪を贈ったことがある男性はこの曲を聴いてヒヤッとするかもしれません。

そうでしょ。私に指輪をくれた男子たちがこの歌を聴いたらそれはもうビックリするんじゃないですかね(笑)。

これからもずっと田舎娘

──YouTubeの番組ではSEIKINさんとデュエットを披露したり(参照:ななみ、SEIKINのYouTubeでエヴァコラボ)、NHK総合の「MUSIC JAPAN」に出演したりと露出も増えてきました。これまでない経験をしてみてどうでしたか?

すっごく緊張して、全然慣れないんです。「MUSIC JAPAN」のときは、普段はテレビの向こう側にいる芸能人の方々が目の前にたくさんいて……。テレビを観てるんじゃないかって思うくらいでした。もちろんたくさんの方に出会うのはうれしいんですけど、実際に出演してみて私はこれからもずっとテレビを観る側の人間なんじゃないかなって思ってしまいました。

──ななみさんだってもう芸能人の一員なんですよ。

そう見られちゃうのは嫌ですね(笑)。別にテレビに出ても私は何も変わらないのに、偉く見られてしまいそうなのが嫌というか。アマチュアでずっとやってるインディーズの子たちと同じ気持ちでいたいんです。だからこれからも自分が田舎娘だっていう気持ちは変わらないと思うし。やっぱり東京にも染まりたくないなって思うんです。

──地元の大分と東京はやっぱり違いますか?

東京の人たちが嫌だっていうわけじゃないんですけど、やっぱり大分とは全然違って。それに私は大分で生まれた人間なので、東京の人っぽくなったら大分でやってきた意味がなくなっちゃうじゃないですか。だから大分っぽさは残したいですね。

──ななみさんが思う大分っぽさって?

泥臭いところですね(笑)。頑固だし、女性なのに男っぽかったりして。でもそういうところが私は大好きなんです。同じ事務所の阿部真央さんが大分出身なんですけど、本当に大分の女性らしいというか、がむしゃらに1つのことをガッとやってる姿が素敵で、大分っぽいなって思ったりします。

──同じ大分出身のシンガーが同じ事務所に所属しているのは心強いですね。

去年初めてご挨拶させていただいたときには、もう緊張して何もしゃべれなくて。自分で「普段はもっとしゃべれる子なんです」って言ってしまいました(笑)。真央さんも「いいよいいよ」みたいに言ってくださって。私みたいな大分の子からしたら真央さんはもう神様みたいな存在なんですよ。だからすごく感動しました。

ギタ女じゃない

──ななみさんは世間で言われている“ギタ女”とは少し違うアーティストだと思うんです。軽快なストロークで爽やかな曲調を演奏するタイプではないというか、そもそも「愛が叫んでる」のPVではギターを持たずに歌唱する姿を見せていました。とはいえ、メジャーで活動しているとギタ女に見られることもあるんじゃないですか?

ななみ

ギタ女って思われるのは嫌ですね。「ギタ女」って言葉でくくられてしまうと、どうしても時間が経つと古くなってしまう気がするんです。時代になってしまうというか。だからそういうふうに見られたくないんですよね。だから初めて会った人に「ななみちゃんはギタ女じゃないね」って言われるとそれだけでうれしいですね。伝わってる方には伝わってるんだなというか。今でも私、ギター大っ嫌いですから。

──ギター嫌いはデビュー前から変わらないんですね。

そうですね(笑)。私は曲を作るためにギターを使っているだけで、できればライブでは歌だけに専念したいし。ただちょっとした場所で即興でライブをするには、やっぱりギターって便利だし、弾き語りツアーとかもあったりするので仕方なくというか、相方として付き合ってる感じです。

──ちなみに、ななみさんから見てギタ女ってどう思います?

ギターうまいですし、単純にすごいなって思います。「ギタ女でやっていきます」ってなると、それなりにギターも弾けないといけないわけじゃないですか。私は好き勝手にやってるから「ギター嫌い」とか言えるけど、彼女たちはギター大好きでやっていかなきゃいけない。だから大変だろうなって思うし、それがちゃんとできてるのがすごいなって。難しい楽器だから、そんなにギターのことが好きじゃない子もいるかもしれないのに。だからがんばってるなあって思いながら観てますね。

ななみ

ななみ

1993年、大分県生まれ。学生時代から地元大分でライブの経験を積み、2013年1月に行われたヤマハグループ主催のコンテスト「The 6th Music Revolution JAPAN FINAL」でグランプリを受賞。NHK大分放送局のノンフィクション番組「ドキュメント 桃」の主題歌として書き下ろし曲「桜」がオンエアされるなど、地元大分での注目を集めた。グランプリ受賞後は、全国22カ所を1人で回る弾き語りツアーを行い、着実にその知名度を上げていく。2014年10月、自身が“暗黒時代”と呼ぶ学生の頃の経験をモチーフにした楽曲「愛が叫んでる」をシングルリリースし、日本クラウンとヤマハが合同で設立したe-stretch RECORDSよりメジャーデビュー。2015年2月に2ndシングル「I'll wake up」を発表した。