音楽ナタリー Power Push - 川村ゆみ
仮歌の名手が手に入れた自分が歌いたい歌
浜崎あゆみ、安室奈美恵、河村隆一、NEWS、テゴマスなど、数多くのアーティストのコーラス、仮歌、ボーカルディレクションを担当する一方、「ペルソナ」シリーズをはじめとするゲーム、アニメ関連の楽曲、CMソングなどの歌唱でも知られるボーカリスト、川村ゆみ。1990年代中頃から20年以上に渡って日本の音楽シーンを支えてきた彼女が、初のオリジナルアルバム「ゆみザウルス」をリリースした。
作家陣には、EXILEやKis-My-Ft2の楽曲を手がける原一博のほか、河村隆一、w-inds.、関ジャニ∞などの楽曲で知られる葉山拓亮、ケツメイシなどに楽曲提供している堀向直之、「ペルソナ」シリーズなどのコンポーザーである目黒将司、喜多條敦志、人気アニメの楽曲を制作しているTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDなどが参加。ハードロック、ジャズ、ソウルミュージックなど幅広いジャンルの楽曲、そして、高いテクニックと豊かな表現力を併せ持ったボーカルが堪能できる作品に仕上がっている。音楽ナタリーでは川村本人にインタビューを実施。これまであまりメディアに登場してこなかった彼女に、自身のキャリアと本作「ゆみザウルス」について語ってもらった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 西槇太一
歌うことは人間を掘ること
──まずは川村さんのこれまでの経歴についてお聞きしたいと思います。キャリアのスタートは、1996年のアーティストデビューですよね?
実はその前にアトラスのゲーム「雀偵物語2 宇宙探偵ディバン」のテーマ曲を歌ったものがCDになってるんですけど、当時はゲームの楽曲が売れるような時代でもなくて。ちょっとだけ歌のうまい子がたまたまCDデビューしたというだけですね。ソロアーティスト時代はちっとも売れませんでした(笑)。
──当時はシンガーとしての将来像をどんなふうに描いていたんですか?
R&Bが好きだったり、鍵盤をやっていたのでビリー・ジョエルなんかも聴いていたんですが、シンガーソングライターとして曲を作っていたわけでもないし、これといった個性がなかったんですよ。かといって、与えられた曲を感動的に歌うこともできなくて。今振り返ってみると、中途半端に歌がうまいだけで、何か突出したものはなかったと思います。歌にハマったのは、高校1年生のときに聴いたSTARDUST REVUEの根本要さんの歌がきっかけだったんです。中学生の頃からオフコースやT-SQUAREのコピーバンドに参加してたんですけど、要さんのボーカルがとにかく衝撃的で「こんなに歌えたら楽しいだろうな。私も歌ってみたい」と思って。「東京に行けば、いつか要さんに会えるかもしれない」と思って上京したくらいですから(笑)。
──そこからはずっとボーカリストとして活動しているんですか?
そうですね。基本、手ぶらでやれることが好きなんですよ(笑)。楽器や機材に詳しくなっていくよりも、生き様を磨くことに興味があるし、それが丸出しになるのが歌なんだろうなと。私の中では“音楽をやっている”というより、“人間を掘りながら表現している”という感覚なんです。その方法が歌しかないというか。そういうことに気付いたのが、26、27歳くらいのときかな。ただ私には「こういう歌が歌いたい」という気持ちがないんですよね。
──歌いたい歌がない?
はい(笑)。だから、28歳くらいで始めた仮歌やコーラスの仕事は私にピッタリだったんです。「この曲に仮歌を入れて」「コーラスを入れて」と言われて、その場でできることを全部やって、歌い終わった2時間後には全部忘れてるっていう。もちろん1人の人間だから、表現はワンパターンだったりするんですけど、とにかくそのときにやれることすべてを出し切ろうと思ってたんですよね。
──目の前の仕事を全力でぶつかることにやりがいを感じていた、と。
そうですね。ただ仮歌やコーラスは裏方なので「体調が悪いから歌えません」っていうのは通用しないんです。どんなにガラガラの声でも「これが今日の自分の声です」って歌わなくちゃいけない。やりがいに関しては……こんなこと言っちゃいけないかもしれないけど、「仮歌が一番よかった」と言われることがうれしかったです。もちろん仮歌は世に出ないものなので、現場のプロの皆さんに向けてずっと営業してる感じなんですが(笑)。
初めて歌う自分のための曲
──その後、浜崎あゆみさん、河村隆一さん、NEWSなど、トップアーティストと仕事をするようになりますね。今ではコーラス、仮歌などを歌うボーカリストとして業界内で知らない人はいない存在となったわけですが、今回、オリジナルアルバムを出そうと思ったのはどうしてなんですか?
2014年に、これまでに歌ってきたゲームやアニメの楽曲を集めた「ゆみ魂」というアルバムを出したんですね。3枚組のベストアルバムだったんですけど、私みたいなマイナーなアーティストにしてはセールスもそこそこよかったので、「じゃあ、オリジナルアルバムをやってみようかな」と。「ゆみ魂」は人から「出しませんか」と言われて作ったものだったので、自主的に「やってみたい」と思って自分の作品を作ったのは今回が初めてですね。
──アルバムには原一博さん、葉山拓亮さんなど、第一線で活躍している作家陣が参加しています。これまでの川村さんのキャリアがなければ実現しないラインナップですよね。
仕事をしてきた中で出会った「この人に曲をお願いしたい」と思う方に、「私に対して、書きたい曲を書いてください」と発注したんです。ほかの作曲家がどんな曲を書いているのか本人たちも知らなかったので、見事にバラバラの曲がそろって。自分の節操のなさがそのまま出てますよね(笑)。
──オリジナル曲を歌うことは、普段の仕事とは違う感覚もありますか?
仮歌やコーラスには、どうしても“縛り”がありますからね。普段は「これは中学生くらいの男の子たちが歌う曲」「これはアイドルの女の子が歌う曲」みたいな縛りの中で歌うことがほとんどなんですけど、今回は自分のために書いてもらった曲を自分の感情で歌うんだから、素っ裸でやれて楽でしたね。作家の方が「こういうふうに歌ってくれるだろう」と思っているもの以上のことをやりたいので、自然とハードルは上がりましたけど。
次のページ » 作家陣の個性が炸裂した楽曲
収録曲
- WAKE UP NOW
- You're my home
- 六本木サディスティックナイト
- kamikaze
- きらら
- Beyond the monochrome
- HUNGER GAME
- 二人の方舟(feat. 緒方恵美)
- てぃーら・しーく
- KUMAKOI六調子 ~Remix 2017~
- RPW
川村ゆみ(カワムラユミ)
浜崎あゆみ、安室奈美恵、河村隆一、NEWS、テゴマスなど、数多くのアーティストのコーラス、仮歌、ボーカルディレクションを担当する一方で、「ペルソナ」シリーズをはじめとするゲーム、アニメ関連の楽曲、CMソングなどの歌唱でも知られるボーカリスト。1989年に行われたローソン主催のコンテスト入賞をきっかけにプロ活動をスタートさせ、1991年にアトラスのゲーム「雀偵物語2 宇宙探偵ディバン」のテーマ曲「君の笑顔がエネルギー」でCDデビューした。それ以降はソロアーティストとしての活動に加え、メジャーアーティストのコーラスを担当するようになる。2014年にキャリアを網羅するベストアルバム「ゆみ魂」を発表。2017年2月に初のオリジナルアルバム「ゆみザウルス」をリリースした。