かたこと|2ndミニアルバムに詰め込んだ 3ピースバンドのロマン

長尾拓海(Vo, G)、純(B)、伊東拓人(Dr)からなる3ピースバンド・かたことが、2ndミニアルバム「Sherbet」をリリースした。

2000年生まれの3人によって結成された彼らは、2016年に初ライブとなる「ミュージックレボリューション中学生大会」でオーディエンス賞、優秀賞を同時受賞。それ以降、さまざまなコンテストで高い評価を受けてきた。昨年発表された初の全国流通盤「UNITS」に続く今作には、キャッチーでさわやかながらも随所にフックの効いた全7曲が収められている。

音楽ナタリー初登場となる今回は、かたことというバンドが生まれた経緯や、UNISON SQUARE GARDEN、JUDY AND MARY、宇多田ヒカルといった音楽的なルーツ、そして今作の制作背景を1曲ずつ語ってもらった。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / 山川哲矢

「とりあえずやってみよう」の精神

──かたことはどのように結成されたバンドなんですか?

純(B)

(B) もともとは、僕と地元の友達が中学3年生のときに作ったユニットのようなもので。友達がギター、僕がベースをやっていたんですけど、高校受験のタイミングで、友達がかたことを離れることになったんです。それで「誰かいないかな?」と思っていたときに、小学校低学年の頃に同級生だった拓海のことを思い出して。

長尾拓海(Vo, G) 純とはしばらく連絡を取っていなかったんですけど、Twitterでなんとなく相互フォローになっていたから、お互い音楽をやっていることは知っていました。

 それでTwitterのDMで連絡したんです。「おひさしぶりです。スタジオ入りませんか?」と。

長尾 ガチガチの敬語でね(笑)。僕はその頃ゆずに憧れていて、アコースティックギターを持って歌っていたんですけど、相方が見つからず、1人だったんです。バンドはちゃんとやったことがなかったんですが、同じ熱量で音楽に向き合える人を探していたことには変わりなかったから、「とりあえずやってみよう」の精神でバンドを始めることにしました。その時点ではまだドラムがいなかったので、純が「じゃあ見つけてくる」と探してきて。それで3ピースバンドになりました。

──初ライブの「ミュージックレボリューション中学生大会」からオリジナル曲を演奏していたんですよね。

長尾 僕はコピーをやるものだと思っていたんですけど、純が「自分たちの曲を作ろう」と言い出して。で、その曲を作ったのは僕なんですけど(笑)。

 自分が作らないくせにね(笑)。

──しかもその初ライブでオーディエンス賞と優秀賞を受賞したと。

 それで自分たち的にも「いいじゃん!」という感じになって、本格的に活動するようになりました。

かたこと

3ピースバンドに感じるロマン

──結成翌年の2017年に伊東さんが加入したんですよね。

 はい。サポートでドラムを叩いてくれていた子が留学してしまい、「ヤバい、ドラムがいない!」という状況になってしまったんです。拓海にまた「どこかから見つけてくるよ」と伝えつつ、YouTubeを見ていたら「叩いてみた」の動画を上げている同い年の人を見つけて。それが拓人でした。なので、拓海を誘ったときと同じように、TwitterでDMを送って。

伊東拓人(Dr)

伊東拓人(Dr) 敬語のDMね(笑)。僕も拓海と同じように、かたことに入る前は、同じ熱量で一緒に音楽ができる人を見つけられていなくて。だからずっと1人でドラムの動画を上げていたんです。

──そうしてこの3人が集まり、現在に至るということですね。影響を受けたアーティストとして、長尾さんはゆず以外にも、UNISON SQUARE GARDENやindigo la Endをはじめとしたバンド、シンガーソングライターを挙げています。純さんはBase Ball Bear、ハヌマーン、ART-SCHOOLで、伊東さんはamazarashi、宇多田ヒカル、石崎ひゅーい。伊東さんはドラマーにもかかわらず、ドラマーを挙げていないのが気になりました。

伊東 そういえばそうですね。でも、この中で言うと、宇多田ヒカルさんの曲にはドラマーとしても参考にしている部分はあって。特にここ2、3年の曲における、ブラックミュージックに影響を受けたようなビートがカッコいいなあと思っています。3ピースバンドのドラムって手数を増やす方向になりがちなんですけど、自分のドラムではそういうブラックミュージックの要素を出していきたいと思っていて。ライブでも、自分のドラムでお客さんがどれだけ揺れてくれるかというところで勝負したいという気持ちがあります。

──長尾さんのボーカルやギターからは、3ピースバンドという形態に対するこだわりのようなものを感じました。

長尾 僕、欲張りなので、歌いたいしギターソロも弾きたいんですよ。そう思うようになったきっかけとしては、バンドを始めたタイミングでユニゾン(UNISON SQUARE GARDEN)を知り、「カッコいいな」と思ったことが大きくて。エレキギターを弾くようになったのも、3ピースのギターボーカルに憧れるようになったのも、そこから始まっています。あと、4人組や5人組のバンドにも、たった3人で立ち向かっていけるところにロマンを感じていて。

伊東 彼の描きたいロマンは、一緒にやってきた僕らもひしひしと感じています。僕はこのバンドに誘ってもらったときは、3ピースと4ピースの違いも正直よくわかっていなかったんですよ。だけど、過去のメンバーとのライブ映像を純が送ってくれて、それを観たときに「歌がとにかくうまいなあ」「ギターもなんかすごい!」と、わからないながらに衝撃を受けたんです。あと、器用だなあとも思いました。しかもその器用さは、年々とんでもないものになってきていて。

 特に最近は千手観音みたいになっているよね(笑)。

長尾 今回の「Sherbet」の収録曲はホント難しかったよ。弾きながら歌うのが。

噛めば噛むほど味が出る曲に

──現状、作詞が長尾さんもしくは純さん、作曲が長尾さん、編曲はかたことというクレジットです。曲作りはどのようなプロセスで行っていますか?

長尾拓海(Vo, G)

長尾 まず僕がギターを弾きながら、特に意味のない言葉で歌ったものをボイスメモに録って。その中から選んだものをバンドでアレンジしていき、同時並行で歌詞も付けていくパターンが一番多いです。

──曲を聴いて、ポップソングをやるということに自覚的、かつ「どこかしらにひねりを利かせたい」という意識も働いているバンドだと感じたのですが、いかがでしょうか?

 おっしゃる通りですね。

長尾 一聴しただけでは全部わかりきらない曲のほうが、長く聴いてもらえるんじゃないかと。フックとなるポイントを隠し味のように入れることで、“噛めば噛むほど味が出る”という曲になっていってほしい思いがあるので、ひねりは意識的に利かせるようにしていますね。ただ、メロディに関しては、ひねりすぎると聴きづらくなるし、弾き語りでパッと出てきたものが一番キャッチーなラインなんじゃないかと思っていて。なので、最初に出てきたメロディを生かしつつ、スタジオに入ったときに「じゃあこういう構成にしよう」と3人で考えて、バンドのアレンジでいろいろな要素を足していっています。

──おそらく、制作中「このメロディはキャッチーだ」「ここはもう少しフックがほしい」といった判断をする瞬間があり、その判断をするためのなんらかの価値基準が皆さんの中にあると思うんですよ。

長尾 そうですね。

──その価値基準において、影響を受けた作曲家はいますか?

長尾 やっぱりユニゾンの田淵智也さんですかね。あとは、赤い公園の津野米咲さんや、ジュディマリ(JUDY AND MARY)のTAKUYAさん。

──確かに、転調を重ねながら展開していく「ミッドナイト・トーキョーレディオ」からはジュディマリに通ずるものを感じました。

長尾 「ミッドナイト・トーキョーレディオ」はまさに、ジュディマリをたくさん聴いていた時期に作った曲ですね。

UNISON SQUARE GARDEN田淵智也から受けた多大な影響

──では、今回の7曲はどのように作っていったのか、順に伺ってもよろしいでしょうか?

長尾 はい!

──まず、1曲目の「アイデンティティを愛して」から。こちらは疾走感溢れるアッパーチューンで、2分9秒で終わるコンパクトな構成ですね。

かたこと

長尾 アルバムの1曲目として作り始めた曲だったので、それにふさわしいアレンジにしたいというところから、「歌で始まって歌で終わる、短めの曲にしよう」ということが最初に決まりました。ほかの曲は、Aメロ→Bメロ→サビ→Aメロ→Bメロ→サビ→落ちサビ→ラスサビという流れなんですけど、この曲に関しては、2番ですっきりと終わっていて。ダーッと駆け抜けて、2曲目の「ラブ&ポップ」に流れていくところまででワンセットというイメージです。

 曲間の秒数も、「アイデンティティを愛して」と「ラブ&ポップ」の間がアルバムの中では一番短いんですよ。

──そのこだわりが効果的に作用していますよね。そして曲間の秒数にこだわるところにも、ユニゾン田淵さんからの影響を感じました。

長尾 おっしゃる通り、そういう面でも多大なる影響を受けていると思います。アルバムを曲順通りに聴く素晴らしさはユニゾンから教えてもらったので。自分たちがアルバムを作るときにも、そういうこだわりを絶対に入れたいと思っていたんです。

──この曲の歌詞は長尾さんと純さんの共作なんですよね。

長尾 はい。デモの段階でサビの「世界で一番だ」というフレーズが出てきていたので、その言葉に導かれるようにして作っていったんですけど、Aメロは基本僕が作って、あとは純にお願いして。

 こうして見ると、2人の歌詞のカラーがけっこう違いますよね。

長尾 純は文学的な歌詞を書くけど、僕は音に引っ張られて書くことが多いから、けっこうストレートで。対極に近いなあと思います。