現在、世界各国で大ヒットを記録しているスクウェア・エニックスのゲーム「FINAL FANTASY VII REMAKE」。このゲームのサウンドトラック「FINAL FANTASY VII REMAKE Original Soundtrack」が先日リリースされた。
23年前に発売された植松伸夫によるオリジナル版「FF7」の音楽をアレンジした楽曲のほか、新規楽曲やテーマソング「Hollow」を含む本作はサントラとしては異例の7枚組という大ボリュームに。「FINAL FANTASY VII REMAKE」の世界を音で堪能できるだけでなく、多彩なジャンルを内包したサウンドメイクや繊細なアンサンブルを通して、ゲームミュージックの進化を確かめることができる。音楽ナタリーでは音楽に焦点を当てたレビューを通して「FINAL FANTASY VII REMAKE」の魅力を紐解く。
文 / 糸田屯
1997年1月31日に発売された「FINAL FANTASY VII」は、ビデオゲームの表現に1つの革新をもたらすとともに社会現象を巻き起こし、その後も「COMPILATION of FINAL FANTASY VII」としてさまざまなスピンオフ作品が展開されてきた。そして2020年4月10日、オリジナル版を複数作形式でリメイクした「FINAL FANTASY VII REMAKE」が満を持して発売。BD-ROM 2枚組のボリュームのもと、オリジナル版の「ミッドガル脱出」までのストーリーが新たな要素やサブエピソードを加えて展開される。キャラクターがより深く掘り下げられ、後続のスピンオフ作品との関連も踏まえて改めてオリジナル版のメインストーリーが練り上げられていることもさることながら、繁栄と退廃の二面性を備えた魔晄都市ミッドガルのディティールが、そこに住まう人々の営みと共に高い解像度で描き出されている。
音楽面においても「ここまでやるか!」「そうきたか!」と唸らされた。今回のリメイク版の音楽について触れる前に、オリジナル版の音楽について言及したい。ハードをPlayStationに移し、シリーズの装いを新たにした「FINAL FANTASY VII」だが、その音楽制作の前にはデータ容量の制約が立ちはだかった。CGムービーやグラフィック、ストレスフリーなプレイ体験につながるゲームシステムに少しでも容量を回すために、植松伸夫はスタジオ録音ではなくプレイステーションの内蔵音源での音楽制作を選択した。音楽表現では一歩引いた形となったが、旧シリーズの定番であったイントロメロディを刷新し、ハードロックやテクノサウンドで新たな方向性を示した戦闘曲や、ミッドガルのイメージにマッチしたインダストリアルな感触に富む楽曲、わずかに余った容量に収めるために混声コーラスパートを小節ごとに区切ってサンプリングした苦心が結実した「片翼の天使」といった、“新時代のファイナルファンタジー”を印象付ける数々の楽曲が生まれ、ストーリーと共に世界中の人々を魅了した。「FINAL FANTASY VII」に深く魅了された者の1人に、ロサンゼルス出身の音楽プロデューサー兼DJのフライング・ロータスがいる。彼は同作を生涯のフェイバリットゲームに挙げ、リスペクトを表明し続けている。
オリジナル版では「ミッドガル脱出」までのBGMは4枚組サウンドトラックのDISC 1に収められていたが、リメイク版では7枚組の大ボリュームで展開される。BGMの包括的な再解釈プロジェクトの最前線に立ったのは、「FINAL FANTASY」シリーズを含め、数々のスクウェア・エニックス作品に関わってきた浜渦正志と鈴木光人。両名の共同制作は、2009年から2013年にかけて発表された「FINAL FANTASY XIII」シリーズ3部作以来となる。また、浜渦はオリジナル版「FINAL FANTASY VII」の「片翼の天使」にバスコーラスパートで参加し、2006年発表の「DIRGE of CERBERUS -FINAL FANTASY VII-」のメインコンポーザーも務めた経歴を持つ。プレイヤーの操作やゲーム進行に合わせて音楽の展開やアレンジがシームレスに切り替わっていくインタラクティブミュージックの趣向も大きなポイントだ。ゲームシステムや表現の進化に伴って、インタラクティブミュージックと強く結び付いたゲーム作品は近年増加し、ファイナルファンタジー作品では2011年発表の「FINAL FANTASY XIII-2」辺りから積極的に導入され始めた。「FINAL FANTASY VII REMAKE」においても非常に力が入ったものになっている。
大半の曲が一曲を複数に分割してどこからでも繋がるシームレスの仕様で作っているので、分割用データをカウントに入れるとかなりの数になります。これらをどのように使用するか、どこで分割するか、どうバージョンを増やすかは刻一刻と変わっていくので、作曲よりも管理がたいへんで、本当に最後の最後まで数える余裕もなかったです(笑)
浜渦正志
浜渦正志と鈴木光人を筆頭に十数名に及ぶコンポーザー、アレンジャーが脇を固め、十人十色の手腕を奮う。通常の戦闘曲「闘う者達」は、リメイク版でもっともアレンジバージョンの登場回数が多い楽曲と言えるだろう。「闘う者達 -なんでも屋の仕事-」(編曲:島翔太朗)や「ダストドーザー」(編曲:鈴木克崇)のような原曲に近いアプローチのアレンジから、ほかの楽曲とのアレンジをメドレー形式でスケール感たっぷりに展開される「ヘルハウス」(編曲:とくさしけんご、鈴木光人)のような構成の妙が光るナンバー、EDMスタイルの「マッスルな者達」(編曲:中村佳紀)や、ポップでキュートな「闘う者達 REMAKE」(編曲:本澤尚之)のようなユニークなものまで飛び出し、バラエティに富んだアレンジが楽しめる。さらに「伍番魔晄炉の罠」(編曲:島翔太朗)や「イグニッションフレイム」(編曲:本澤尚之)、「エアリス救出作戦」(編曲:石川大樹)など、原曲のフレーズが断片的に織り込まれたものも含めればバリエーションはさらに増える。中でも驚かされたのは六番街スラム・陥没道路で流れる「ハイタッチ」(編曲:本澤尚之)だ。鈴木光人がメインコンポーザーを務めた「メビウス ファイナルファンタジー」にアレンジャーで参加し、音楽制作ユニットTOMISIROや、ポストロックバンドLanguageでも活躍する本澤によるエレクトロアレンジが、荒廃したロケーションにスタイリッシュかつファンキーな清涼感をもたらしている。
そのほかにも、大胆なアレンジは随所で登場する。「クレイジーモーターサイクル -行くぜ野郎ども-」(編曲:鈴木光人)は、ドラムスティックのスリーカウントや即興的なソロパートも交えたラフなバンドサウンド仕立てのミクスチャーロックで、ハードかつドライブ感のあるサウンドが特徴。「更に闘う者達」のメインフレーズを軸にミディアムテンポでじっくりと押していく「七六分室陽動作戦」(編曲:中村佳紀)は、エピックミュージックとしても聴き応え十分だ。「すりつぶねじりキル」(編曲:本澤尚之)は「ティファのテーマ」をベースにしつつ、「闘う者達」のフレーズやエスニックコーラス、エレクトロビートなどがアクセントを効かせるタイトルのように合わせ技が音楽的にも決まっている1曲。「神羅のテーマ」と「タークスのテーマ」のメインフレーズが交錯する中を、エッジの効いたギターリフとトリッキーな展開でリードしていく「タークス:レノ」(編曲:鈴木克崇)は、レノの飄々としたキャラクターを見事に投影したテーマと言えよう。
そしてもちろん、ボスとの戦いを盛り上げる戦闘曲の数々も聴き逃せない。「爆破ミッション」のモチーフも取り込み、めくるめく複雑な構成で再構築した「ガードスコーピオン」(編曲:島翔太朗)や、畳みかけるクワイアコーラスと段階的にギアを上げていく展開のシンフォニックハードロック「エアバスター」(編曲:牧野忠義)。正道を行くオーケストラアレンジでクライマックスを演出する「ハンドレッドガンナー」(編曲:鈴木克崇)──いずれもオリジナル版の「更に闘う者達」をダイナミックなスタイルで再解釈しており、原曲メロディの色あせない力強さも改めて実感させてくれる。「グロウガイスト」は、「OCTOPATH TRAVELER」の西木康智が作編曲を手がけた新規楽曲。オーケストレーションとコーラスの交差でじわじわとボルテージを高め、禍々しくも壮麗なシンフォニーを響かせる。同じく新規楽曲の「ヘリガンナー」は、「エースコンバット」シリーズの小林啓樹の作編曲。勇壮さと疾走感を併せ持った展開が、黄昏の空をバックにした戦闘演出とのスペクタクルな相乗効果を生んでいる。共にリメイク版の戦闘曲に新風を吹き込んだ力作だ。「モンスターハンター」「ドラゴンズドグマ」シリーズの牧野忠義の編曲による「J-E-N-O-V-A -胎動-」は、重厚なストリングスとクワイアコーラスが存分に絡み合ったスローテンポな展開を経て、オリジナル版「J-E-N-O-V-A」のイントロの印象的なシンセフレーズを軸にした原曲再現アレンジに転じ、「片翼の天使」のモチーフまで去来するドラマチックな構成には激しく心震わされることだろう。
鈴木光人がメインとなって手がけた六番街ウォールマーケットの楽曲群は、ひときわ強烈なインパクトを味わわせてくれる。オリジナル版でも濃密なムードを漂わせていたウォールマーケットの一連のイベントだが、リメイク版でそれらのエンタテインメント性が格段にパワーアップしたことに伴い、楽曲もスカ、カントリー、エスニック、ビッグバンド、ヘヴィロック、ディスコファンク、EDMなどの要素が散りばめられ、ジャンルのるつぼと化している。ハイライトで流れる「STAND UP」「STAND UP -Reprise-」(作曲:鈴木光人・土岐望、編曲:鈴木光人、歌:アル・コープランド)は、華やかなバーレスクのイメージを核に、1980年代から2000年代にかけてのダンスミュージックのエッセンスが絶妙なバランスで入り混じる秀逸なボーカルナンバーだ。
クラシック / 現代音楽のエッセンスを基盤にしつつ、ジャンルクロスオーバーな魅力を放つ浜渦正志の作風は、さまざまな場面を格調高く、そして情感豊かに演出していく。物悲しくも澄み渡ったイメージが覆う列車墓場、ストーリーの1つの転換点となる七番街プレート支柱をめぐる一連の楽曲は、浜渦楽曲の“静”と“動”の魅力を存分に伝えている。また、浜渦はリメイク版の重要なファクターである運命の番人・フィーラーにまつわる楽曲を手がけ、そのメロディは「片翼の天使 -再生-」でも使用されている。これらの楽曲の仕掛けにも注目してみてほしい。
テーマソング「Hollow」は、本編のストーリー / シナリオに携わる野島一成が詞を手がけ、植松伸夫が曲を書き下ろした。植松がギターを弾きながら制作した初めての楽曲になるという。歌うは、Survive Said The Prophetのフロントマンであり、澤野弘之が主宰するプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]にも参加する実力派ボーカリスト兼ソングライターのYosh。彼の歌声のオリジナリティの強さが起用の決め手となった。「雨の中に佇むクラウド」をキーワードに、複雑で不安定な心境、声にならない叫びがつづられた詞とメロディに乗せ、Yoshのエモーショナルなボーカルがどこまでも力強く、そして伸びやかに響き渡る。クラウドたちの「未知の旅」は続く、その行く末を見届けようではないか。
パッケージ紹介
- V.A.「FINAL FANTASY VII REMAKE Original Soundtrack」
- 2020年5月27日発売 / スクウェア・エニックス
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[CD7枚組] 税込7150円 / SQEX-10776~82
- DISC 1
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- プレリュード -再会-
- 魔晄都市ミッドガル
- 爆破ミッション
- 闘う者達 -元ソルジャー-
- 壱番魔晄炉
- 壱番魔晄炉 Battle Edit
- ガードスコーピオン
- 脱出
- 神羅のテーマ
- 星に選ばれし者
- 約束の地 -巡る命-
- 八番街の出会い
- 闘う者達 -強行突破-
- 危機一髪
- 神羅魂
- 鋼鉄の大地
- ティファのテーマ -セブンスヘブン-
- 闇夜のうめき
- 魔晄中毒
- FFVIIメインテーマ -七番街スラム-
- DISC 2
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- アバランチのテーマ
- ガレキ通りの掃除屋
- ジョニーのテーマ
- 闘う者達 -なんでも屋の仕事-
- 旅の途中で
- セブンスヘブンの看板娘
- 闇に潜む -あやしい男-
- 報酬は悪くない
- クレイジーモーターサイクル -行くぜ野郎ども-
- ミッドナイトスパイラル
- スピードジャンキー
- レッドゾーン
- RUN RUN RUN
- ジェシーのテーマ
- 月夜の大泥棒
- 給水塔の約束
- 七六分室陽動作戦
- イグニッションフレイム
- くすぶりの逃走
- FFVIIメインテーマ -スラムの夜-
- フィーラーのテーマ
- 作戦決行
- DISC 3
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- ターゲットは伍番魔晄炉
- 急げ!
- 迷宮の犬
- しぶといネズミ -C区画-
- しぶといネズミ -E区画-
- ダストドーザー
- スラムの太陽
- タイトロープ
- 鉄クズ迷路
- クリティカルショット
- ゲームオーバー
- ランデブーポイント
- 伍番魔晄炉の罠
- エアバスター
- 俺は...誰だ
- タークスのテーマ
- タークス:レノ
- 教会に咲く花
- 腐ったピザの下で
- 不安な心
- エアリスのテーマ -ただいま-
- からっぽの空
- 闘う者達 -秘密基地-
- クラッシュボックス
- DISC 4
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- 真夜中のまちぶせ
- 陥没道路
- ハイタッチ
- 虐げられた民衆 -ベグ盗賊団-
- ミグルミ ミグルミ
- ウォール・マーケット -欲望の街-
- ウォール・マーケット -チョコボ・サム-
- ウォール・マーケット -マダム・マム-
- マッスルな者達
- トロトロの甘い夜
- スイート・ハニー
- ハイエンドもみー
- コルネオ杯開幕
- コルネオ・コロッセオ
- 古・留・根・尾デスマッチ
- ここであったが百年目
- 断罪の処刑マシン
- ヘルハウス
- 勝利のファンファーレ
- あちこち盛られて
- 闘う者達 REMAKE
- STAND UP
- ファンク・ウイズ・ミー
- シンク・オア・スイム
- ヴァイブ・ヴァレンティーノ
- STAND UP -Reprise-
- スラムのドン
- お嫁さんオーディション
- すりつぶねじりキル
- DISC 5
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- アプス
- 焦りの水路
- お先まっくら
- 3秒後を悔いろ
- クライムハザード
- 列車墓場
- 亡霊の悪戯
- こっちへおいで
- グロウガイスト
- ひとりぼっち
- 黒い風
- 永遠のかくれんぼ
- エリゴル
- アバランチの死闘
- 帰る場所、間違えやがって
- 3ギル芝居
- 守るべきもの
- 燃えるスラム
- 逃げろ!
- エアリスとマリン -いいにおい-
- 非情な選択肢
- 変な顔しちゃって
- 機械塔の決戦
- DISC 6
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- 星に帰る
- 崩壊した世界
- 父ちゃん、いってらっしゃい
- インフィニットエンド
- ワイルド・デ・チョコボ
- レズリーのテーマ
- 落日の街
- 反神羅の火
- 冷たい夕日
- ヘリガンナー
- 神羅ビル
- エアリス救出作戦
- 静寂の入口
- いざ腕力勝負
- スカーレットのテーマ
- 星の開拓者
- ライブラリフロア
- 狂気の培養
- 神羅社員の日常
- タークスのテーマ -オフィス-
- 思い出の部屋
- 神羅ビル潜入
- 鑼牟 -Drum-
- カタストロフィ
- ラストエクスペリメント
- DISC 7
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- 血の跡
- J-E-N-O-V-A -胎動-
- ルーファウス神羅
- ハンドレッドガンナー
- ミッドガル・ハイウェイ
- 運命の番人 -降臨-
- 運命の番人 -輪廻-
- 運命の番人 -特異-
- 早く来い、クラウド
- 片翼の天使 -再生-
- 終末の7秒前
- Hollow
- スタッフロール
全体的に黒でまとめられたシックなパッケージが存在感を放つ。長方形のスリーブケースの表面にはリメイク版のロゴ、裏面にはミッドガルの全景があしらわれている。ブックレットの表紙は、威容を誇る神羅ビルを見据えるクラウド。7枚のCDを収める4つのケースの表紙は、広大なフィールドと青空の下に立つエアリス、スラムの古びた教会の花畑の前に立つバレットとマリン、故郷ニブルヘイムの給水塔で夜空を見上げるティファ、燃え盛る炎の中に佇むセフィロス──オリジナル版のキャラクターキービジュアルをリメイク用に再構築したものだ。全34ページのブックレットには、曲目リスト、歌詞、レコーディングメンバーのクレジット、メインキャラクターヴィジュアルに加え、プロデューサーの北瀬佳範、ディレクター&コンセプトデザイナーの野村哲也、テーマソング&オリジナル版コンポーザーの植松伸夫、テーマソングを歌うSurvive Said The ProphetのYosh、リメイク版リードコンポーザーおよびアレンジャーの浜渦正志と鈴木光人、ミュージックスーパーバイザーの河盛慶次のメッセージが収められている。
あるシーンでしたら、3バージョンある曲で、テンポが全部一緒、構成が全部一緒、メロディが入る場所が全部一緒。ただ、アレンジがすべて違う。3本同時に鳴っていて、クロスフェードさせて自由に切り替わるという演出をしているんですけど。すごく上手なDJプレイ、みたいな感じですね
鈴木光人
※スクウェア公式動画「INSIDE FINAL FANTASY VII REMAKE EPISODE4」のコメントより。