「FINAL FANTASY VII REBIRTH Vinyl」特集|アナログレコードで“あの頃”を追想しながら、“これから”を思い描く

スクウェア・エニックスのゲーム「FINAL FANTASY VII REBIRTH」の楽曲を収録したアナログレコード「FINAL FANTASY VII REBIRTH Vinyl」がリリースされた。

「FINAL FANTASY VII REBIRTH」は、1997年に発売され世界的な人気を博した「FINAL FANTASY VII」のリメイクプロジェクト第2弾で、2月29日に発売予定の注目作だ。ゲーム音楽市場においてもアナログブームが訪れる中で発表された「FINAL FANTASY VII REBIRTH Vinyl」には、「FINAL FANTASY VII REBIRTH」より厳選された9曲を収録。翌月に発売を控えるゲームへの期待感を煽る商品に仕上がっている。

そもそも、デジタル技術の最先端を詰め込んだゲーム作品の音楽を、レコードという“アナログ”メディアで楽しむ意義はどこにあるのか? 「FINAL FANTASY VII REBIRTH Vinyl」の聴きどころを交えながら解説する。

文 / 倉嶌孝彦

アナログ盤は体験できるファングッズ

サブスクリプションサービスが活況な現代において、アナログ盤に関するニュースが増えている。シティポップの世界的な流行や、1980~90年代カルチャーのリバイバルによって、その風潮は単なる楽曲の再評価のみならず“アナログ”というアイテム自体の再評価にもつながった。このトレンドはゲーム音楽界隈にも波及し、今やアナログレコードでゲーム主題歌やサウンドトラックがリリースされることも少なくない。

「圧倒的にデジタル比重の高いゲームをなぜアナログで?」と思う読者も多いだろう。筆者もその1人ではあったが、「TOKYO GAME SHOW」や「E3」といったゲームイベントの物販コーナーでアナログレコードを購入するユーザーの多さを見て考えを改めるに至った。アナログレコードはフィギュアのような飾れるファングッズという側面に加えて、環境さえ整えば“体験することができるファングッズ”として機能しているのだろう。ただ眺める、見るだけではなく自身が体験することに価値があるというのはゲームのプレイに通じるものがある。

ただし、アナログレコードの再生環境を整えるのは決して容易ではない。アナログレコードをグッズとして購入していても、実際にレコードをかけたことがないゲームユーザーも多いのではないだろうか。本稿ではゲーム音楽をアナログレコードで楽しむ意義についても触れてみたい。

「FINAL FANTASY VII COMPILATION VINYL」ジャケット

「FINAL FANTASY VII COMPILATION VINYL」ジャケット

「FINAL FANTASY VII REMAKE and FINAL FANTASY VII Vinyl」商品画像

「FINAL FANTASY VII REMAKE and FINAL FANTASY VII Vinyl」商品画像

アナログレコードとCDを比較したときによく言われるのが、音質の違いだ。44.1kHz / 16bitのCD規格では、音をデジタル処理する過程で22kHzより高い音を収めることができない。一般的な人間の聴覚が20kHzまでしか聴き取れないとされているので「音を聴く」という行為そのものには影響がないように思えるが、そのバッサリとカットされた領域に「音圧」「臨場感」といったものを感じる“成分”が含まれているのかもしれない。こういったアナログレコードの特徴をゲーム音楽のリスニング体験に落とし込んでいくとどうなるか? シンプルな電子音の連なりから生まれたゲーム音楽は、ハードウェアの進化の影響を受けてよりリッチに、表現の幅を広げる形で進化を遂げていった。昨今では生楽器を使用したレコーディングが行われることも多く、オーケストラの演奏がゲームのBGMで使用されることも珍しくない。

アナログレコードで音楽をかけた場合、ボーカリストの呼吸やドラマーが作り出す間といった音ならざる“気配”のようなものまでよりリアルに体感することができる。またオーケストラ音源であれば、その楽団の位置までもが音を頼りに思い浮かぶようなリスニング体験になる。「そんなのステレオ録音のCDだってわかる」という声も聞こえてきそうだが、CD音源の場合、前述した周波数の関係もあり、どこか“キュッと収まった”ような音像になることが多い。それに対してアナログレコードは、音楽が奏でられた空気感までもがその円盤の中に刻まれているような、そんな感覚にさせてくれる記録媒体である。

発売前に“余韻”から楽しむ

サウンドトラックというアイテムは、VHSやDVDといった映像の記録媒体がまだ存在しなかった時代に、“家に持ち帰ることができる映画”として広く手に取られていた。物語を脳内で反すうするのに音楽という媒体を頼りにしていたのだ。つまりサウンドトラックというのは本来“余韻”を楽しむためのものである。

しかし、このたびリリースされる「FINAL FANTASY VII REBIRTH Vinyl」は、ゲームの発売に先駆けて店頭に並ぶというから驚きだ。ゲームの発売前に音楽だけを楽しむことはできるのか? 心配になりながら本作をレコードプレイヤーにかけてみて、それは杞憂であることに気付く。アナログの1曲目「旅の途中で -カームの街角-」の冒頭から、聴き馴染みのあるメロディが脳内を駆け巡る。「旅の途中で」はゲーム「FINAL FANTASY VII REMAKE」でもたびたび使用されていた楽曲だが、よりオリジナルの「FFVII」に近い音像に仕上げられているのはこの「旅の途中で -カームの街角-」だろう。植松伸夫が作った温かみのあるメロディをクラリネット、フルート、トランペットといった複数の管楽器で紡いでいく演奏は、ぜひアナログレコードで味わってもらいたい。

「FINAL FANTASY VII REBIRTH Vinyl」ジャケット

「FINAL FANTASY VII REBIRTH Vinyl」ジャケット

「旅の途中で -カームの街角-」に限らず、A面に収録されている「チョコボ・デ・グラスランド」「FFVIIメインテーマ Battle Edit」といった楽曲は「FF」ファンであれば誰もが聴いたことのあるメロディのアレンジバージョンだ。オリジナル版の「FF7」をプレイしていたリスナーにとって、これらの楽曲は“あの頃”を回想するトリガーとなるだろう。

一方で本作はただ過去を懐かしむだけのアイテムではない。リメイク版から新たに登場したキャラクター・チャドリーのテーマソングである「チャドリーのテーマ」、ジュノンエリアのフィールドBGM「ジュノンエリア」、オリジナル版では専用BGMが用意されていなかったアンダージュノンでかかるであろう「アンダージュノン -黄昏の村-」など「FINAL FANTASY VII REBIRTH」で新たに用意される楽曲の一部を先行して聴くことができる。ある種の“懐かしさ”を感じながらゲーム体験より先に新曲を聴けることは、今後のゲーム人生でもそう何度もないことだろう。

Aerith Side盤面

Aerith Side盤面

Tifa Side盤面

Tifa Side盤面

最後にアナログレコードならではの仕様として、本作のピクチャーレーベル仕様にも言及しておこう。本作は“Aerith Side”と“Tifa Side”の両面仕様であり、Aerith Sideには晴天のもと佇むエアリスが、“Tifa Side”には星空を見上げるティファが対照的に描かれており、発売が迫るゲームへの期待を膨らませてくれる。まずはこのレコードに収録された音楽を聴きながら「REBIRTH」の発売を待ちたい。