音楽ナタリー Power Push - DREAMS COME TRUE「私だけのドリカム」特集

中村正人(DREAMS COME TRUE)×水樹奈々

夢あふれるステージにかける思い

「ボカロよりも感動した」って言われたい

──ドリカムも水樹さんもデジタルと生音の融合を大切にしていると思うんですが、そこでの苦労はありますか?

水樹 今の若い世代の皆さんは打ち込みサウンドに馴染みが深いので、生の部分に違和感を覚えることもあるみたいなんです。意図的にピッチを合わせた歌やVOCALOIDのようにきっちりした歌声に慣れている方もいらっしゃるから、例えばその音がドだったら、歌の音程もきっちりドで始まらないと違和感を覚えることもあるらしくて。私自身表現の1つとしてピッチをすぐに当てたくなくて、わざとちょっとずらして歌ったりすることもあるのですが、そうすると「音外れてますね」って言われたり(笑)。「これはこういう表現なんです」って言いたいんですけど……言い訳のように聞こえてしまうかなって。それぞれの世代の感性とどう向き合っていくのかは難しい部分だなと思っています。

中村 水樹さんはピッチを当てようと思えば、いつでもバッチリ当てられるのにね。でも確かに今は“こぶし”を効かせる歌が減ってますよね。今のマーケットは大多数がPro Toolsでピッチを合わせてるから、歌がうまい人っていうのはぴったりピッチが合って、決められたビブラートをその通りにできる人のことだっていうふうになってる。

──やっぱりそういう風潮に抵抗感はありますか?

中村 いや、でもそれはある意味しょうがないとも思うんですよね。僕も吉田の歌を録るときはマーケットを意識して、ちょっと真っすぐめに歌っとこうかとか、ピッチは一応当てとこうかとか、そういうことは考えますから。

水樹 そうなんですね!

中村 いろんな音楽があるのは豊かなことだし、僕はAuto-Tuneをかけた歌もボカロも素晴らしいと思うんです。だから抵抗するのではなく、それも取り入れる。そもそもライブではいろんなことが起きますから、毎回同じ歌は歌えないし、毎回同じピッチにはならないですよね。そのせいで吉田も「思ってたより歌ヘタですね」って言われますから。

水樹 えー!? 信じられない!!

中村 いや、しょっちゅう言われます。でも歌がうまいかヘタかじゃなく、“吉田節”とか“水樹節”とか、そういうものが好きだから我々は音楽をやってるわけで。その“節”がもし今の時代にヘタな歌だと評価されるならこれはしょうがない。それを上回っていかなきゃならないんです。若い世代に「ボカロよりも歌ヘタだけどなんかいいね、感動した」って言ってもらえるように、我々は努力していかなきゃいけないなって。それはほんとに思ってますね。

今の時代の歌謡曲を作りたい

──水樹さんから見て、ボーカリストとしての吉田美和さんはどんな存在でしょう?

水樹奈々

水樹奈々

水樹 唯一無二の存在だと思っています。吉田さんじゃないと描けない世界がある。音の中で解き放たれて自由で楽しそうで、うらやましいって思います。

中村 ありがとうございます(笑)。

水樹 それに歌い方の引き出しをたくさん持っていらっしゃって、フェイクやアドリブも含めて、次に何が飛び出すのかわからないドキドキ感がありますよね。私もライブのときスタッフさんから「もっとフェイクとか入れていけば?」と言われるんですけど「どうやればいいんだろう」って考えちゃって(笑)。生真面目な性格でフェイクも譜面にしないとって思っちゃうタイプなんです。その場で生まれたグルーヴに身を任せるのが、自分は苦手なほうなので、吉田さんが自由にのびのびと歌っていらっしゃるのを観ているとほんとに素敵だなって。

中村 でも吉田も最初はアドリブなんか全然できなかったんですよ。

水樹 えっ!? いつもあんなに完璧なフェイクを入れていらっしゃるのに?

中村 吉田はやっぱり歌謡曲の人なんですよね。もちろん僕と30年一緒にやってるし、あの人はものすごい量の音楽を聴きますから、その中で自分のボキャブラリーを増やしていってるところはありますけど。でももともとはソウルフルでもないし、R&Bの人でもない。やっぱりルーツは歌謡曲で、松田聖子さんとか中森明菜さんとか小泉今日子さんとか、バックバンドがティン・パン・アレーだったり後藤次利さんだったりっていう時代。その血の延長なんです。だから吉田の歌はどこまで行っても基本は歌謡曲とニューミュージックだと思います。

水樹 意外です。

中村 そして僕もそれがやりたい。今の時代の歌謡曲を作りたいんです。まさに水樹さんが今やられてるみたいに、プロ中のプロが集まってちゃんと売れるものを作るっていうことですね。だからアドリブもただ入れればいいかっていうとそうではなくて、たまに吉田が「ここは私が思う通り歌わせて」って言うときがあるんですけど、それを今やるべきなのかっていうのはすごく考えますね。ほら、例えばThe Eaglesの「Hotel California」のソロ。あれが1音でも違ったらイヤでしょ?

水樹 イヤですね!(笑)

中村 そこが違ってたら「おいおい、これを聴きに来たのに」ってなるじゃないですか。だからアドリブを入れるとしても、それがスタンダードになるようなアドリブにしたい。アドリブすら定番になっていくようなものをレコーディングして、できたら吉田にはその通りやってほしいんです。だから本当はメロディは変えてほしくない(笑)。

水樹 わかります。私も特に歌メロは絶対変えたくなくて、CDのまま歌いたいんです。

中村 それ吉田に言ってやってください(笑)。

水樹 あはは(笑)。自分がフェイクが苦手だからっていうのもあるんですけどね。でも歌ってない間奏にちょっとアドリブっぽいのを入れるのはありかなと思って、最近は少しずつトライしています。でも今のお話からすごく勇気をもらいました。「吉田さんでもそういうところからのスタートだったんだ!」って。

中村 天才だって言われるけど、あの人は努力の人ですからね。

ライブは夢を叶える場所であってほしい

──ドリカムと水樹さんは、ライブのスタンスにも共通点があると感じます。ただ曲を聴かせるだけではなく、エンタテインメント性の高い演出にいつも驚かされるんですが。

水樹 「次はネタ切れになるんじゃない?」って毎回言われます(笑)。

中村 あはは(笑)。

左から中村正人、水樹奈々。

左から中村正人、水樹奈々。

水樹 でも温存ができないタイプで、「今これをやりたい!」と思ったらそのまま全部出し切りたいんです。それで、全部出し切って空っぽになったときに、初めて次のアイデアが浮かんでくる。だからいつも“やりたいこと全部乗せ”みたいな感じのライブになるんですよね。

──それを突き詰めるとどんどん凝ったステージになっていく?

水樹 非日常というか、ライブの中に思いっきりトリップしてもらえるようにしたいんです。だから毎回学園モノとか戦隊モノとか、しっかりコンセプトを掲げて、バンドメンバーにも制服を着てもらったりして(笑)。例えばライブで振り付けに合わせて踊るのとか、最初は恥ずかしかったりするじゃないですか。だから抵抗なく飛び込んでもらえるように自分たちがまず振り切って。そのためには大きくテーマを掲げたほうが観てくださる方が入り込みやすいんじゃないかなと思ったんです。

──なるほど。

水樹 そしてそうやってコンセプトを決めると、ステージも凝りたくなってきて(笑)。衣装だけじゃなくて、例えばミュージアムっていうテーマだったら後ろに博物館っぽいセットを作ってみようとか、映像も作り込んでみようとか。私はライブが夢を叶える場所であってほしいと思っていて。もしかしたら「バカだな、こんなことやって」って思われるかもしれないけど、でもあり得ないって最初から決めつけるんじゃなく、「こういうことをやりたい」って強く思えばどんな夢でも実現する。それをみんなに伝えたくて。それで思いっきり笑ってもらえたら最高だなと思っています。みんな抱えてる悩みはそれぞれだけど、でも「あり得ないと思うことも信じていればできちゃうかもな」って、私のライブを観てなんとなくそう感じてもらえたらいいなって。特に私は声優のお仕事をしているので、現実にあり得ないようなシチュエーションに触れる機会も多くて。そういう面でも“声優歌手”の水樹奈々だからこその世界を見せたいっていつも考えています。

中村 うん、うちもまったく同じですね。本当にその通りだと思います。うちの場合は吉田美和という人間のアイデアを音楽的にもビジネス的にも形にするっていうのが僕らの腕の見せどころで。だからこそ、ずば抜けた発想と信念を持ってやらないとチームも育っていかないし、各セクションの技術も上がりませんよね。今やれることをやっているだけじゃダメだっていうのはある。

水樹 そうなんです!「誰も見たことがないことをやりたいんです!」っていつも言っています(笑)。

中村 だから例えば特殊効果1つにしても、業者さんも一生懸命やってくれてるけど、その上で「同じ予算でもっとすごい見え方がするのはないですか?」って無理難題を言ってみる。でもそのチャレンジはちゃんとお客さんに伝わるし、ステージの価値を上げていくんですよね。

DREAMS COME TRUE ライブDVD / Blu-ray「史上最強の移動遊園地 DREAMSCOME TRUE WONDERLAND 2015 ワンダーランド王国と3つの団」2016年7月7日発売 / UNIVERSAL SIGMA
「史上最強の移動遊園地 DREAMSCOME TRUE WONDERLAND 2015 ワンダーランド王国と3つの団」
Blu-ray [Blu-ray Disc 2枚組+フォトブック] 7884円 / UMXK-1040~1
DVD [DVD2枚組+フォトブック] 6804円 / UMBK-1240~1
MBS Presents 私だけのドリカム THE LIVE in 万博公園

2016年7月10日(日)
大阪府 万博記念公園 東の広場
OPEN 11:00 / START 13:00 / END 19:00(予定)

出演者
DREAMS COME TRUE / 華原朋美 / Little Glee Monster / 水樹奈々 / NICO Touches the Walls / WINNER
スペシャルメドレー:K / 近藤夏子 / MACO / Ms.OOJA
総合司会:河田直也(MBSアナウンサー)
ちちんぷいぷいドリカムファン代表スペシャルサポーター:廣田遥 / くっすん
うれしたのし大好き 2016 ~真夏のドリカムフェス~

2016年7月16日(土)
東京都 明治神宮外苑野外特設ステージ
OPEN 13:00 / START 14:30 / END 20:00(予定)

出演者
DREAMS COME TRUE / 陣内孝則 / [Alexandros] / Suchmos / でんぱ組.inc / レキシ / 渡辺直美 / and more
DREAMS COME TRUE(ドリームズカムトゥルー)
DREAMS COME TRUE

吉田美和(Vo)と中村正人(B, Arrangement, Programming)による2人組バンド。1989年にメジャーデビューし、1992年発売の5thアルバム「The Swinging Star」は当時の日本記録となる300万枚以上のセールスを記録する。その後もシングル、アルバムともにミリオンヒットを連発し、ソウル / R&Bを基軸にしたサウンドが老若男女問わず幅広い層から支持されている。2014年にはデビュー25周年を迎え、同年8月に通算17枚目のオリジナルアルバム「ATTACK25」をリリース。なお1991年より4年に1度のペースで「史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND」と題したイベントを実施しており、2015年11月より7回目となるドリカムワンダーランドを開催。また同年7月7日には“ファンが聴きたい曲”全50曲を収録したコンプリートベストアルバム「DREAMS COME TRUE THE BEST! 私のドリカム」をリリースした。2016年7月7日に“裏ベスト”「DREAMS COME TRUE THE ウラBEST! 私だけのドリカム」を発表したあと、10日には大阪・万博記念公園 東の広場にてライブイベント「MBS Presents 私だけのドリカム THE LIVE in 万博公園」を開催する。

水樹奈々(ミズキナナ)
水樹奈々

愛媛県出身の声優アーティスト。1997年に声優としてデビューし、「魔法少女リリカルなのは」「ハートキャッチプリキュア!」「NARUTO -ナルト-」といったアニメ作品で人気を集める。2000年にはシングル「想い」で歌手デビュー。2009年6月にリリースされたアルバム「ULTIMATE DIAMOND」で、声優アーティストとして初のオリコン週間ランキング1位を獲得した。同年12月には「NHK紅白歌合戦」に初出場。2011年12月には声優アーティスト初の東京ドームコンサートを2日間にわたって開催し、大成功に収める。また2013年には台湾にて初の海外公演を行うなど、活動の場をさらに広げた。2014年にはライブの功績が評価され、平成25年度(第64回)芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。2016年4月に再び東京ドームで単独コンサートを2日間にわたって開催した。7月には34枚目のシングル「STARTING NOW!」を発表。9月には兵庫・阪神甲子園球場での単独公演「NANA MIZUKI LIVE PARK 2016」を控えている。

水樹奈々
「STARTING NOW!」
「STARTING NOW!」
2016年7月13日発売
1200円 / キングレコードKICM-1690
Amazon.co.jp
NANA MIZUKI LIVE PARK 2016

2016年9月22日(木・祝)
兵庫県 阪神甲子園球場

衣装協力(中村正人)
MACKINTOSH PHILOSOPHY / Fobs classic


2016年7月14日更新