ナタリー PowerPush - buzzG

レベルアップした“原点回帰”作

HERO作品との対比を目指した

──今作ではボーカリストさんとともに、マンガ家のHEROさんともコラボレーションしています。なぜ「Fairytale,」をモチーフにしたマンガをパッケージしようと?

常々マンガと音楽って相性が良いよな、って思っていたんです。僕自身もそうだし、みんなもそうだと思うんですけど、音楽を聴きながらマンガを読んだ経験ってあるじゃないですか。ただ、そういうときのようにマンガを読むことがメインになって、そのBGMとして音楽が流れているっていう状態じゃなくて、もっとバランス良く、マンガも音楽も主役として並び立たせられたら、音楽とマンガ、両方の作品の世界をより深く伝えられるし、このアルバム自体がすごく価値のあるものになる気がしたんですよ。

──楽曲の世界観を立体的にするためだけでなく、CDという商品のクオリティや価値を上げるためのメディアミックスでもあったということ?

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はい。三面デジパック仕様で観音開きになっているマット紙仕立てのパッケージに、マンガがブックレットとして封入されていれば、リスナーは持っていたくなるんじゃないか、って思いますし。CDの売り上げなんかを見てもわかるとおり、みんなの中で生活や趣味に占める音楽の価値や優先順位は下がってきているだけに、いい曲を作ることは大前提。プラスアルファの要素として、誰かに「あっ、これ欲しいな」って思ってもらえるためのパッケージ作りや努力も責任をもってやらなきゃ、とは思ってます。

──そして、その「持っていたい」「これ欲しい」という感情に拍車をかけてくれる作家さんがHEROさんだった、と。

ええ。初めて読んだHEROさんの作品は、WEB版の「堀さんと宮村くん」だったと思うんですけど、読んだ瞬間から「あっ、いいな」と思っていて。その後、個人的に交流するようになったんですけど、それと同じくらいの時期に今回のアルバムの制作が始まったので、打ち合わせの席で「HEROさんのマンガとメディアミックスしたい」って提案させてもらいました。

──HERO作品のどこに惹かれたんですか?

これは自分が勝手に思っていることかもしれないんですけど、作品への自己投影のさせ方が自分と似ている気がしていて。そういうシンパシーがあったので「一緒に何かを作ったら面白いことになるんじゃないか」っていう気持ちがあったんです。

──ただ、結構テイストは違いますよね。buzzGさんはかなりエモーショナルなサウンドを志向しているのに対して、HEROさんのマンガはオフビートな作風です。

その対比がすごく面白くなるだろうな、って思ったんですよ。均等なコマ割りで日常を描く人が、展開の激しい僕の曲をどう描いてくれるのかを見たかったっていうか。だから、僕は曲と詞を渡しただけ。一応、歌詞を解説したテキストもお渡ししたんですけど「もし表現の邪魔になるような見ないでください」って伝えておいたくらい“お任せ”で描いてもらったんですけど、マンガとしてよくできている上に、僕が曲で言い足りなかった部分もきっちり補完してくれる作品になりました。

もっとメディアミックスを進めたい

──ワンランク上のアレンジ能力と、CDという商品のパッケージングにまでこだわるプロデューサー的な視点を手に入れた今、やってみたいことってありますか?

なんとなく考えているのは、もっとメディアミックスを進めてみたいということと、曲が数珠つなぎになっているコンセプチュアルなアルバムを作ってみたいっていうことですね。これまではニコニコ動画に上げたりしていた既存の曲を中心にアルバムを構成していたんですけど、全部の楽曲がひとつの世界観でつながっているアルバムにプラスしてマンガが付いていたりすると、もっとパッケージとして価値のあるものになると思うので。

──8月のニコファーレでのイベント「Voca Nico Night -Live Stage-」で生バンドとボーカロイドをシンクロさせたライブをしていましたけど、このアルバムの楽曲を引っさげてライブをやってみたい、みたいな希望は?

「オレ、バンドに向いてないな」ってことで、1人で音楽活動を始めた人間なので……(笑)。

──あっ、ボカロPになったときには、もうバンドは活動してなかったんですか?

ボーカロイドを知ったときには、バンドを辞めて1年以上経ってましたし、当時使っていたアンプやギターもほとんど売っちゃってました。で、唯一69年製のギブソンSGっていうギターだけは手元にあったんですけど、ボカロを教えてくれた友達に「DTMをやりたい」って話したら「じゃあ、そのSGと、オレのギブソン・レスポールとアコースティックギターの2本セットを交換してあげる」と。そのレスポールっていうのが、レスポールならではのハムバッカーの音だけじゃなくて、シングルコイルの音も出せるように改造してあって、友達も「DTMをやるなら、いろんな音を1本で出せるこれが要るんじゃない?」って言うんで「じゃあ、まあ」ってことでそのレスポールとアコギを受け取ってボーカロイドでの活動を始めたんです。

──ギターすらもDTM仕様になってしまった以上、ライブは当面お預けですかね?

いや。確かに協調性がないというか、人と一緒に行動するってことに向いてないみたいではあるんですけど(笑)、実は新しいバンドを組んだりもしていますし、チャンスがあればやってみたいですね。それに、さっきお話ししたとおり、みんなで楽しめる曲を作っているつもりですから。ボカロPの中には、広い音域のメロディを早口で歌わせるボーカロイドにしかできない、ある意味人間離れした表現を志向する人も多いし、その中には良い楽曲も多いんですけど、僕のアルバムや楽曲が目指しているのは、むしろ友達や家族みたいな存在になること。言葉はちょっと強いかもしれないけど、サウンド的には、いつもそばにいる近しい人の歌を聴くように楽しんだり、一緒に歌ったりしていただけるものを、と思っているので、みんなに直接聴いてもらいたいっていう気持ちはありますね。

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3rdアルバム「Ghost Trail Reveries」 / 2012年9月19日発売 / 2400円 / ビクターエンタテインメント / VIZL-490

収録曲
  1. g.t.r
  2. かくれんぼ
  3. A
  4. Fairytale,
  5. DANCE FLOOR
  6. Ghost "Ira"
  7. She
  8. 天井
  9. Flashback
  10. Notebook
  11. アイセンサー(feat. Gero)
  12. タイム・カプセル(feat. 相沢舞)
  13. しわ(feat. F9)
  14. Carry on(feat. F9)
  15. イントロダクション
buzzG(ばずじー)

ネット動画サイトを中心に活躍している男性クリエイター。2009年8月からbuzzGとしてボーカロイドを使用した楽曲を発表し始める。バンドのフロントマンとして活躍していた経験を生かした、キャッチーなギターロックサウンドが魅力。2011年3月にビクターエンタテイメントから1stアルバム「Symphony」でメジャーデビューし、同年6月にLUNA SEAの真矢をドラマーに迎えた2ndアルバム「祭囃子」をリリースした。2012年9月に相沢舞、Geroらをボーカリストとして迎えた楽曲を含む3rdアルバム「Ghost Trail Reveries」を発表。