ナタリー PowerPush - buzzG

レベルアップした“原点回帰”作

使わなくてもいい言葉を使う

──新曲にせよ、既存の曲にせよ、その歌詞もbuzzG作品の特徴のひとつですよね。キレイめのメロディの上で、よく調教された美声のボカロがかなり強烈な言葉を歌っている。今作でも新曲であれば「A」の「顔の無い言葉に切りつけられ 救われてきた」、既存の曲なら「DANCE FLOOR」の「まともじゃないフリしてる人が物思いに耽って能弁たれて甘いお菓子を撒いてたんだ」という感じで。

わざわざ使わなくてもいい言葉を使ってるんですよね(笑)。

──あはははは(笑)。ご自分でも「これ、言葉が強すぎるかも」っていう意識はあるんですか?

すごくありますし、それはリスナーの方も気になっているんじゃないですか。例えば「Flashback」の場合、アコギも入った割とJ-POPらしいアレンジなのに、サビに「景色や 想い出が 破壊されるのは嫌だよ」なんてフレーズを入れているせいもあるのか、ニコニコ動画で「なんで『破壊』なんて言葉を使うの?」っていうコメントを付けられてますから。ただ、それは歌詞の中に引っかかりを作りたかったから、わざわざ使ってる部分もあるんです。

──確かに「壊す」よりも「破壊」のほうがインパクトが強いですよね。

そうですそうです。「破壊」という言葉を使うことでちょっと物々しくなるんですよ。ボーカロイドって肉声よりは無機質な歌声でピッチもフラットなので、何かひとつ引っかかりを作ってあげたほうがいいのかな、とは思ってます。

──強い言葉を選ぶのはテクニカルな理由であって、怒りやいらだちが原動力になっているわけではない?

いや、技術的、意図的に選んでいる面もあるんですけど、感情をエネルギーに詞を書くことももちろんあります。「DANCE FLOOR」なんかはネットの在り方みたいなものを皮肉ってみた曲ですし。

──「DANCE FLOOR」は、まさにそこが面白かったんですよ。ネット出身のクリエイターなのに、年若いネットユーザーにありがちな「オレは人とはちょっと違うんだぜ」っていう自意識に寄り添うのではなく、見事に突き放してますよね。

突き放すというほど強い感情があるわけでもなくて、むしろ確認って感じですね。以前からときどきそういう詞は書いていて、1枚目の「Symphony」の「GALLOWS BELL」っていう曲なんかは死刑存廃論についてすごく考えていた時期に作ったもので。男の子が女の子を殺して死刑になるっていう詞なんですけど、その男の子の姿を割と美しく描いてみたら、ニコニコ動画に「感動した」っていうコメントが集まったんです。でも、実際に殺人事件が起きると、ネットの反応って基本的には犯人を攻撃する方向に向かうじゃないですか。普通に「死ね」って書いちゃう。「GALLOWS BELL」にコメントしてくれた人と「死ね」って言っている人は恐らく同じではないだろうし、「GALLOWS BELL」の男の子に思い入れを持つことも、殺人犯を憎むことも悪いことではないんだけど、それを詞に書くことで「人って視点が変わると、ここまで感想が変わるんだな」ということを知ることができた。「DANCE FLOOR」もそれと似ていて「こういう詞をダンスロックに乗せて歌ってみたら、みんなどんな気持ちになるんだろう?」っていうことを知りたかったっていう面はありますね。

キーボードと鉛筆では作風が違う

──自分の周囲に対する明確な問題意識や疑問を持っていても、それを言葉にするのは苦労するものなんですか?

buzzG

ええ、作詞はシンドイですね。自分の内面にダイブしていくような感覚というか、どれだけ深層心理ときちんと向き合って言葉を拾ってくるかが勝負になるので。新曲を書くとなれば、当然以前よりも深くダイブしなきゃいけないっていうプレッシャーもありますし。だから、ときどき潜り方を変えてみたりもするんです。普段、歌詞はパソコンの「メモ帳」ソフトに横書きでタイプしながら作ってるんですけど、紙に鉛筆で縦書きしてみたりとか(笑)。

──デバイスやインターフェイスが変わると作風や制作のスピードって変わりますか?

早く書けるようになることはないんですけど、作風は結構変わると思います。「Fairytale,」は鉛筆で縦書きしたんですけど、「足がもつれては、手を取った」って、歌詞の途中に「、」が入ってたりしますし(笑)。もちろんそういう文法の話だけじゃなくて、鉛筆で書くと内容が甘くなりますし。

──「Fairytale,」は別れの歌ではあるんだけど、再会を予感させる優しい物語になってますもんね。

キーボードに向かっているときと鉛筆を持っているときでは確実に気分が違うので、それが反映されたんだと思います。多分「Fairytale,」と同じテーマの詞をパソコンやボールペンで書いたら、また全然違った内容になるんじゃないですか。

ボカロでも人間でも変わらない

──今作に限らず、1stアルバム以来、一貫してボーカロイドと肉声の両方をボーカリストに起用してますよね。その理由は?

自分自身が前に進むためです。やっぱり人間のほうがボーカロイドよりも表現できることの幅は広いので、歌い手の人に歌ってもらうと、それだけ楽曲全体の表現も豊かになりますし。僕の活動している界隈だと「ボーカロイドだから聴く」「人間の声だから聴かないよ」「ボーカロイドなら良かったのに」って言う人も結構いるんですけど、自分の音楽性の幅を広げる意味でも人の声を使いたいんですよ。あと対比というか、人間の声とボーカロイドの声を1枚のアルバムの流れの中で聴き比べてみたら面白いんじゃないかっていう気持ちもありますし。

──そして今回は相沢舞さん、Geroさん、F9さんという3人のボーカリストが参加しています。パートナー選びのポイントは?

相沢さんとGeroくんについては、前にも一緒に仕事をしていたので「この曲を歌ってもらったら、こういう感じになるな」ってすぐにイメージできたからですね。相沢さんの声が「タイム・カプセル」の歌詞の世界に抜群に合うことはあらかじめわかっていたし、Geroくんは元々SYSTEM OF A DOWNなんかを音楽的なルーツに持っている人だから、激しいリフの入った「アイセンサー」をカッコよく歌ってくれるんじゃないか、って予想できたんです。で、F9さんについても実は同じ。お仕事をするのは初めてなんですけど、ニコニコ動画の「歌ってみた」をよく観ていて、大好きな歌い手さんだったので「Carry on」みたいな詞が似合うだろうな、ってイメージはオファーする前からありました。

──3人が歌ったのはいずれも、元々はボーカロイド用に書き下ろされた曲ですが、いわゆるボカロ曲を人に歌ってもらうときに留意しているポイントってありますか?

さすがにボーカリスト用の曲を書き下ろすときなら、その人のキーに合わせるくらいのことはしますけど、「ボカロだから」とか「人間だから」ということで曲作りのアプローチを変えることは基本的にはないですね。バンドで活動していた頃から弾き語りで曲を作っていて、自分自身、歌っていて気持ちが良くないと創作意欲が湧かないタイプだったこともあって、たとえボカロ曲であっても、誰もが歌える曲を書きたいっていう気持ちが強いので。「どうせならみんなが気持ち良く歌えたほうがいいじゃん」って(笑)。

3rdアルバム「Ghost Trail Reveries」 / 2012年9月19日発売 / 2400円 / ビクターエンタテインメント / VIZL-490

収録曲
  1. g.t.r
  2. かくれんぼ
  3. A
  4. Fairytale,
  5. DANCE FLOOR
  6. Ghost "Ira"
  7. She
  8. 天井
  9. Flashback
  10. Notebook
  11. アイセンサー(feat. Gero)
  12. タイム・カプセル(feat. 相沢舞)
  13. しわ(feat. F9)
  14. Carry on(feat. F9)
  15. イントロダクション
buzzG(ばずじー)

ネット動画サイトを中心に活躍している男性クリエイター。2009年8月からbuzzGとしてボーカロイドを使用した楽曲を発表し始める。バンドのフロントマンとして活躍していた経験を生かした、キャッチーなギターロックサウンドが魅力。2011年3月にビクターエンタテイメントから1stアルバム「Symphony」でメジャーデビューし、同年6月にLUNA SEAの真矢をドラマーに迎えた2ndアルバム「祭囃子」をリリースした。2012年9月に相沢舞、Geroらをボーカリストとして迎えた楽曲を含む3rdアルバム「Ghost Trail Reveries」を発表。