映画「アイの歌声を聴かせて」特集|ポンコツAIが届けてくれる、みんなを幸せにする歌 主演の土屋太鳳にインタビュー

劇場アニメ「アイの歌声を聴かせて」が10月29日に全国の映画館で公開される。

「アイの歌声を聴かせて」は映画「サカサマのパテマ」で知られる吉浦康裕が原作、脚本、監督を担当したアニメ。ことあるごとにミュージカル調で歌い出すAIロボットのシオンと、真面目だがクラスで孤立してしまっている少女・サトミやその幼なじみのトウマたちの物語を描いたハートフルな作品だ。シオンに声をあてているのは女優の土屋太鳳。彼女はシオンとしてこの映画で4曲の劇伴を歌唱している。

音楽ナタリーでは映画の公開、そしてサウンドトラックが10月27日にリリースされたことを記念して、レビューで「アイの歌声を聴かせて」の音楽を紐解く。また土屋がどのような思いでレコーディングに臨んだのかを聞いたインタビューも掲載する。

レビュー文 / もりひでゆき取材・文 / 音楽ナタリー編集部

映画「アイの歌声を聴かせて」の音楽に寄せて
AIロボットのシオン。

劇場アニメ「アイの歌声を聴かせて」は、歌が持つ力、音楽に秘められた力を改めて感じさせてくれる作品だ。劇中ではさまざまなシーンに寄り添ったサウンドがキャラクターたちの生きる日常を鮮やかに彩り、ストーリーにおける最重要キャラクターであるAIロボットのシオンは思いのままに感情を歌に乗せていく。それによって僕らはシームレスにストーリーへと没入し、あたかも自らが登場人物の1人であるかのような錯覚を覚えることになる。場面を共有し、そこにあふれる思いに共感し、物語自体に強く共鳴していく──そのための重要なファクターとなるのが音楽であり、「アイの歌声を聴かせて」はそこに特化した作品であるように思うのだ。

全編に鳴り渡る楽曲を手がけたのは、「ACCA13区監察課」や「プリンセス・プリンシパル」といったアニメ作品から、さまざまなアーティストへの楽曲提供やアレンジなどで手腕を発揮する高橋諒。実際の映像に合わせて曲を作っていく“フィルムスコアリング”の形式で制作された劇伴楽曲は、生き生きと動くキャラクターの行動や心情と見事にリンクし、シーンを強く観客の印象に残す役割を果たしている。美しいシンフォニックなものからホーンがハジけるジャジーテイストのものまで、どれもが感情の機微をなぞるように有機的で血の通ったサウンドアプローチとなっていることが、テクノロジーの進化した劇中世界を違和感なく僕らが生きるリアル世界に引き寄せることになっているようにも思う。耳に、記憶に深く刻まれる吸引力の高いサウンドトラックと言えるだろう。

映画「アイの歌声を聴かせて」より。

また、本作においてはシオンを演じる土屋太鳳が歌う楽曲が物語的の大きな軸となっている。ストーリーの中で突然歌い出すのはミュージカルのようでもあるが、シオンがAIロボットであることでその突拍子のなさはカバーされているし、そこで歌う意図、歌で思いを伝える理由もしっかり描かれているので、その歌声は観る者の心へとナチュラルに沁み込んでいくこととなる。語りかけるように綴られる歌詞は美しいメロディと融合、シオンの歌声として空気を震わせることで、登場人物たちの心の内側にある悩みや迷いを優しくほどいていく。土屋の歌声は、あくまでAIロボットであることを意識しつつも、感情をしっかり込めたものとなっている。機械に感情が? いやいや、高度な機械だからこそ、感情的な部分までをしっかり理解したうえで表現できるということなのだろう。その歌声は登場人物たちと同様に、僕らの心をとらえて離さない。

シオンが歌う4曲はすべて、作詞を松井洋平が、作曲・アレンジを高橋諒が手がけたものだ。どれもが重要な役割を果たす楽曲ではあるが、特に心を打たれるのが「ユー・ニード・ア・フレンド ~あなたには友達が要る~」と「You've Got Friends ~あなたには友達がいる~」。この2曲は対になっており、ストーリーの中でこの2曲の間にある登場人物の関係性や感情の動きが丁寧に描かれていくことになる。「You've Got Friends ~あなたには友達がいる~」が歌われる感動的なシーン、そしてその後に待ち受ける衝撃的な展開は、ぜひとも劇場で確認してほしい。

映像と音楽の親和性を高い次元で証明する「アイの歌声を聴かせて」。美しいアニメーションと、そこに寄り添う音楽に身を委ねれば、日常の景色はいつも以上に輝きを増すはずだし、シオンの歌はリアルを生きる僕らに勇気を与えてくれるものでもあるだろう。そして、劇中でシオンが何度も放っていた言葉──「いま、幸せ?」の問いに大きく頷きたくなっている自分に気付くのではないだろうか。