お笑いナタリー Power Push - 「黒い十人の女」

「笑わせることが目的」バカリズムは名作映画をどうリメイクしたのか

とんでもないものに関わっちゃったな

──不倫という題材を描くにあたって参考にした作品や身の回りの出来事はあったのでしょうか?

「黒い十人の女」より。

僕は独身ですし不倫をする人の感覚がまったくわからない。でも不倫してる人を探そうとしても、絶対に向こうから名乗り出てくるはずはないじゃないですか。だから完全に想像ですよね。あとの資料は原作。映画は何回も観てるので、その中からちょっとでも盗めればと思うんですけど。

──十股している主人公の気持ちを描くのは難しそうです。

難しかったですね。僕は登場人物の誰にも感情移入してなくて、十股の不倫というものを引いたところから見ている感覚で脚本を書きました。ニュースとかで不倫報道があると「へー、あの人が不倫したんだ」くらいのテンションで見るじゃないですか。そういう距離感です。

──感情移入しないまでも、脚本を書いているうちに登場人物に愛着が湧いてきたりなどは?

キャラクターとしての愛着はあります。主人公の松吉もできるだけ憎めない魅力的なキャラクターにしたいと思いました。悪いっちゃ悪い奴なんですけど。でも男も女も両方タチ悪く描いてますね。まともな奴は誰一人としていないです(笑)。

──松吉を演じる船越英一郎さんには実際にお会いしましたか?

最初の打ち合わせのときに、お会いして。原作がお父さん(船越英二)の出演されていた映画ということで思い入れが強かったですね。誰よりもあの作品のファンという印象でした。「父親の映画を汚すわけにはいかない」というのを熱く語られて、「やべえ、どうしよう……」って思いました。とんでもないものに関わっちゃったなっていう(笑)。コケさせるわけにはいかないですから。

芸人・バカリズムとして脚本を書くこと

──脚本を書くときは、コントを書くときとは心持ちが違ったりするのでしょうか?

いえ、一緒です。結局笑わせたいと思って書いてるので。ちょっと長いコント書くくらいの感覚ですかね。

──脚本を書いているという感覚はあまりない?

バカリズム

そうですね。脚本家の勉強をしたわけでもないし、単純に芸人として書いてるから笑わせることが目的ですし。僕は脚本家の武器は持っていなくて、あくまでコントを作ることが武器。変に脚本家を気取っていい感じのもの書こうとすると、すぐバレてダサい感じになっちゃう。自分ができる範囲で「芸人・バカリズム」として書いたほうがいいなって。

──芸人であるということは、当然、演じる側の気持ちもわかるわけですよね。

そうですね。だから長い会話劇を書いているとき、「まだ全然続けられるけど、役者さん、これ絶対覚えるの大変だろうな」と思ってやめるときはあります。自分が台本覚えるときに「こんなダラダラ長い会話劇を……」とか思ったりするんです。「覚えづら!」みたいな(笑)。ちょうどいい分量ってあるんですよ。

──そのような経験が脚本執筆時にも生かされているんですね。

生かされてると思います。ただ内容がちゃんと成立していたり理屈が通っていたりすれば意外と覚えやすかったりするんです。本当にいい作品って結構な長セリフでもすぐ入ってくるというか。そういうところは自分でも気を付けているつもりです。「セリフ長いけど、言ってることはブレないようにしよう」と。

──バカリズムさんといえば大喜利のイメージを持つ読者も多いと思いますが、大喜利をするときの発想力が脚本に生かされることはあるんでしょうか?

「黒い十人の女」より。

たぶんありますね。「ここはこの単語で埋めたけど、もっと適切な単語があるんじゃないか」っていうのは結局大喜利じゃないですか。繰り返しの面白さを描くときは、大喜利の回答を積み重ねていく感覚と一緒だったりします。

──脚本の依頼を受けることが増えていると思うのですが、その現状についてどう思っていますか?

単純にうれしいです。「感動話を書いてほしい」とか「社会風刺を効かせて」とかじゃなくて「面白いものを書いてもらいたい」とお話をもらうことが多いんです。それってネタ番組でネタやってくださいって言われるのと同じというか。やってることの目的は変わらないので。作ったものを発表して、それで結果的に笑ってもらえればうれしいです。

木曜ドラマ プラチナイト「黒い十人の女」読売テレビ・日本テレビ系 2016年9月29日スタート 毎週木曜23:59~24:54
あらすじ

テレビ局の受付嬢をしている神田久未(成海璃子)は、ドラマプロデューサー・風松吉(船越英一郎)と不倫関係にあった。いけないことだとわかりつつ松吉から離れられないでいる久未にある日、1本の電話がかかる。その相手は松吉の妻と思われる女性だった。彼女と会う約束をした久未は翌日、指定されたカフェに向かい、待ち合わせ相手の佳代(水野美紀)と出会う。涙ながらに不倫を謝罪する久未だったが、佳代からは予想外の言葉をかけられることに。ここから松吉と愛人たちによる泥沼の恋愛模様が幕を開ける。

スタッフ

原作:和田夏十(映画「黒い十人の女」 監督:市川崑)
脚本:バカリズム
演出:渡部亮平
音楽:兼松衆
チーフプロデューサー:中村泰規
プロデューサー:汐口武史 / 河野美里
主題歌:CIVILIAN「愛/憎」

キャスト

船越英一郎 / 成海璃子 / トリンドル玲奈 / 佐藤仁美 / 佐野ひなこ / MEGUMI / 水上剣星 / 新田祐里子 / 水野美紀

バカリズム
バカリズム

1975年11月28日生まれ。福岡県田川市出身。

スタイリスト / ヨシダミホ