WOWOWオンデマンドで展開されている夏特集「語り尽くしたいプレイリスト ~2023年、夏。~」。この企画にお笑いナタリーも参加します。何を語り尽くしたいかって、もちろんそれは「お笑い」について。“365日お笑いを追い続けているお笑い専門メディア”として、編集部員4名がバラエティ番組で見るのとは一味違った「こんなの普通じゃない!」お笑い作品をチョイスしました。仕事でお笑いを取材し、休日には趣味でお笑いを観に行くお笑いナタリー記者たちが今回ピックアップしたのは、東京03、バカリズム、タイムマシーン3号、ナイツ。この夏はWOWOWオンデマンドで「普通じゃない!」お笑いを楽しんでみては?
特集「語り尽くしたいプレイリスト ~2023年、夏。~」がWOWOWオンデマンドで公開中!
“笑い”のために結集した才能たち
文 / 遠藤敏文
「テレビで目にするようなコントや漫才とは違うお笑いを見てみたい!」という人にオススメしたいのがこちら。全国ツアーで4万人を動員するなどライブ活動にこだわる東京03が人気ヒップホップユニット・Creepy Nutsとコラボし、日本武道館で繰り広げたエンターテインメントショーだ。東京03の単独ライブを20年近く見続けてきた者としては、年々スケールアップしていく彼らの公演がついに武道館で!という感慨もありつつ、華やかさだけでなく、しっかりと濃密な笑いを届けてくれたのがうれしかった。
ありふれた日常会話から思わぬ方向に話が転がり笑いが増幅していくコントの数々は東京03の得意とするところ。そこにビッグバンド・GENTLE FOREST JAZZ BANDによる生演奏が加わって、通常のお笑いライブでは得られない特別な高揚感を味わえる。コント中、Creepy NutsのR-指定が畳み掛けるようにラップを繰り出す場面は衝撃的で、ラップとコントと生演奏が一体化した「ラップ歌劇」のユニークさには驚かされた。
感情の起伏の激しい役どころを変幻自在な表情と声色で見事に演じきっていたピン芸人・吉住のことも触れておきたい。観客の心を鷲掴みにし、ひと言発するたびに爆笑をもぎとった彼女の姿には今後のさらなる飛躍を予感させるものがあった。
豪華ゲストも交えて大成功を収めた本公演の作・演出は東京03の盟友でもある構成作家のオークラが務めている。そして監修に加えて自ら出演しているのが「東京03の公式お兄ちゃん」ことテレビプロデューサーの佐久間宣行だ。あらゆる才能から生み出された画期的なショーをぜひその目で確かめてほしい。
ドラマ「殺意の道程」
リアルだからこそ際立つフィクション
文 / 狩野有理
バカリズムの取材で印象に残っているのは、「ガンダムには乗らない」という言葉。ライブが毎回即完でも、大喜利番組で何度優勝しても、手がけたドラマ脚本が「向田邦子賞」を受賞しても、バカリズムは「褒められたい」という素直な願望を口にしてはばからない。だから、舞台には1人で立つ。おもしろ小道具は使わない。“素手で”殴り合いたいらしい。
バカリズムの単独ライブは、「バカリズムただ1人が面白い瞬間」だけで約90分の公演時間が埋められている。今年4月に開催された「fiction」もまたそうだった。秀逸な設定のコント6本はもちろん本人が生み出したものだし、それを演じるのも彼自身。幕間映像を考えているのもバカリズムで、登場する人物の声は自ら担当する。何人かでやると「褒め」が減るから嫌なのだとか。だからって、バイタリティがえげつない!
WOWOWオンデマンドでは、そんなバカリズムが脚本、そして井浦新とのダブル主演を務めたドラマ「殺意の道程」も配信されている。サスペンスというジャンルを隠れ蓑に、シリアスなシチュエーションであればあるほど、リアルさを突き詰めたセリフが笑いを誘ってくる。
そういえば、「fiction」の冒頭コントは「これぞフィクション」という世界が舞台となっているのだが、そこで繰り広げられる会話があまりにも現実的で、わけがわからなくなった。細部がリアルだからこそ際立つ、バカリズムの描くフィクション。その魅力を感じるには、ライブとドラマ、立て続けに観ることをオススメしたい。
変化していないようで少しずつ変化している
文 / 成田邦洋
今や登録者数78万人超(2023年7月末現在)を誇るタイムマシーン3号の公式YouTubeチャンネルが開設されたのは2019年9月のこと。お笑いファンにはかねてよりおなじみのタイムマシーン3号だが、昨今の人気ぶりを決定づけたのは2人のYouTubeでの活躍に違いない。ネタ映像をはじめ、さまざまな企画でのトーク、ロケが再生回数を稼いでいる。
そんなYouTube開設の年、2019年1月に開催されたのが「タイムマシーン3号 単独ライブ『餅』」だ。会場は満員の東京・全電通ホール。冒頭で「今日はダラダラとしゃべっていきますのでごゆっくりとお楽しみください」と関が客席へ語りかけるように基本的には漫才が続く。20年を超えるキャリアが裏付けする、ネタの導入部や客いじりのアドリブはお見事。本ネタに入ればボケまくる関と勢いよくツッコむ山本の掛け合いが心地良い。唯一のコント「カツアゲ」はテレビでもたびたび披露されてきただけに、こうして舞台でもやってくれるのがうれしい。果たして劇場でばらまかれた大量の小銭の行方とは?
漫才のライブでありながら、2人の衣装(特に山本)がネタの区切りごとに少しずつ変化している。これを見ていたら、先日、「FNS27時間テレビ」(フジテレビ系)で山本が100kmマラソン企画に挑んだ際、帽子や頭に巻くタオルを次々と変えるという被り物ボケにも精を出していたことがふと頭をよぎった。
幕間映像「関太コミケに行く!!」は山本主導のもと、関がコスプレをして冬のコミケに参加しようというロケ企画。まずは試着から始める関だが、その体型に合うサイズが少なく苦戦を強いられる。コミケ会場で100人に写真を撮ってもらうのが目標だというが願いは叶うのか。YouTubeバズり前夜、その片鱗が垣間見える「餅」。変化していないようで、実は変化を重ねているタイムマシーン3号から目が離せない。
身の毛もよだつ、奥深さ
文 / 塚越嵩大
私がナイツに抱くイメージはいまだに定まらない。浅草の演芸場や「笑点」で老若男女を笑わせる姿を見れば「これぞ正統派漫才師!」と感じるが、深夜番組で攻めたネタを披露している姿を見ると「実は誰よりも尖った漫才師なのではないか」とも思う。一体どのナイツが本当のナイツなのか……と戸惑ってしまう多面性と底知れない奥深さ。それがナイツの魅力だと思っている。
2022年に開催された「ナイツ独演会 それだけでもウキウキします」は、そんな彼らのさまざまな側面を余すことなく味わえる単独ライブだ。王道からメタまで、笑いの球種の多さに驚かされる。
ナイツの真骨頂といえる王道の時事ネタ漫才は、1年間で起こった出来事を振り返りつつ、掛け合いのテンポはどんどん増していき、最後は時事ボケの波状攻撃の様相に。またナイツがツービートのような衣装に身を包んだ“ナイツービート”となり、地上波ではオンエア不可能な際どいボケをハイスピードに繰り出す漫才も圧巻。さらに2人の回想シーンが挟み込まれる斬新な漫才も展開される。普通はコントでしか見られない、照明を駆使した演出も必見。「漫才ってこんなことをしていいんだ!」という興奮をぜひ体験してほしい。
熟練の王道漫才でしっかり笑わせたあとに、我々の凝り固まった漫才のイメージをぶち壊してくるナイツ独演会。観終わったあとの満足感はすさまじいが、やはり底知れない恐怖のようなものも感じてしまう。一体どのナイツが本当のナイツなのか……。