ナタリー PowerPush - ジョージ・ポットマンの平成史
視聴者にツッコミを委ねる歴史バラエティ プロデューサーが明かす番組の作り方
水道橋博士推薦!「ポットマン教授は平成の面白い歴史教科書だ!」
大胆な仮説で知られるヨークシャー州立大学歴史学部教授のジョージ・ポットマン(日本近現代史専攻)が、海外の研究者ならではの視点で日本の文化やミステリーを調査していく歴史バラエティ「ジョージ・ポットマンの平成史」。同番組は、2011年7月の単発放送を経て同年10月から2012年3月にかけてテレビ東京系でレギュラー放送され、深夜バラエティファンを中心に大きな注目を集めた。
番組では、「人妻史」や「性教育史」をはじめ、「スカートめくり史」「ラブドール史」など、これまでテレビが絶対に扱うことのなかった歴史に着目。我々の身近で起きていながら、多くの人々が気づいていない異変について、その背景や意外な事実の数々を暴き出してきた。
随所に笑いも散りばめられたこの希有なバラエティが、このたび待望のDVD化。高橋弘樹プロデューサーに番組作りの裏話を尋ねてみた。
取材・文 / 遠藤敏文
ほかの局がやっていないこと
──まずは番組の成り立ちから教えてください。
最初は2011年7月に1回特番をやらせていただいて、準備し始めたのはその3、4カ月前。それまで「空から日本を見てみよう」とかをやってたのですが、ずっと歴史番組をやりたいと思ってたんです。ただ、歴史番組はNHKにもあるしTBSにもあるし、どうやって差別化しようかなってときに、平成の歴史ってあんまりやったことないなと思って。で、どういうテーマを扱うか考えたときに、NHKは政治経済とか扱ってるから、そうじゃないものは何かなと思ったら、セックスとかだったっていう(笑)。テレビ東京の発想の基本なんですけど、ほかの局がやっていないことを探していくとそうなっていくんです。それと、昔から民俗学みたいなものが好きで。民俗学ってちゃんと学問としてセックスと向き合うじゃないですか。だからそういう民俗学的な視点を世に出していきたいなって思ってました。
──外国人の教授が日本の歴史を研究するという番組の手法は、どのような意図で?
平成史やろうってときに2つ僕の中で問題があって、1つは時代があまりに近すぎるから画が面白くないんじゃないかって。平成時代を普通に撮っていたらただのニュース映像になっちゃうんです。もう1つは、歴史を扱う場合に一番重要なのは客観視することなんですけど、自分も平成時代を生きてるし、視聴者も平成時代を生きてるし、客観視して見ることってなかなかできないなって思ったんです。そのときに、ひとつ「外国」ってメガネをかけさせれば、日本人が当事者だからこそ気づいてない問題点を客観視して論じたりすることができるんじゃないかなって。そのために外国っていうのはいいな、と。で、1つ目の問題の「ニュース映像とは違う違和感ある画」を見せるって意味でも、僕、BBCのドキュメントがけっこう好きなんですけど、人物に無駄に照明当てたり、書面にも無駄に照明当てたり(笑)、ああいうふうにBBCっぽく作れば、その画も違和感が出て、パロディとして面白くなるかなっていう。その2つの願いを込めて、一応外国人の教授ってところにしました。
──ポットマン教授がちょっとエッチなセリフを言ったあとに数秒間じっと真顔になっている、あの“間”はどのようにして作り出しているんでしょうか?
あれは最後に試写するときに僕とディレクターで一緒に決めるんですけど、1フレ2フレ単位で切って、「違うな~」みたいなことをずーっとやってますね。間は重要なんですよ。長すぎても寒いし、短くてもわけわかんないし、あの間は毎回丁寧に決めてます。ただ、完全に主観で決めてるから、ハマんない人にはハマんないかもしれないです。
「カノッサの屈辱」との違い
──比較対象として「カノッサの屈辱」(90年代初頭にフジテレビ系で放送されていた深夜番組)と比べられることもあると思いますが、そのことについてはどう思われますか?
僕は30歳なんですけど、「カノッサ」って恥ずかしい話知らなかったんですよ。1回目の特番を放送するにあたって、オンエアの直前に「そういえば『カノッサ』っぽいよね」って指摘されて初めて見たんです。似てるところもあるなと思ったんですけど、一応オマージュとしては、NHKの「映像の世紀」っていうドキュメンタリー番組のほうですね。「カノッサ」は実際にあった歴史を偽史としてほかのものになぞらえてやってらっしゃると思うんですけど、「ポットマン」は、ありえないような事実を探していくことに力を入れてました。「カノッサ」って、事実を面白く言い換えることにすごい傾注してたと思うんですね。僕らの場合は、事実だけどありえないくらい面白い、そういうものを探していくことに傾注しました。
いままでのバラエティとお金の配分を変えた
──国立国会図書館が頻繁に登場したりと、「こんな文献まで調べるの?」と驚かされるばかりですが、どんな体制でリサーチしていたんですか?
いままでのバラエティと違うものを作りたいなと思ったんで、お金の配分を変えてみたんです。この番組は、ほとんどタレントさんが出てこないし、スタジオも使わないんですね。それと、今のバラエティって、ひとネタで30分やることがなかなかなくて、やっぱり10分くらいのネタを3本みたいなことが多いんです。そのほうが視聴者も見やすいっていうのがあるんですけど、それをやるとどうしてもお金がかかっちゃうので、その分お金をリサーチ代にかけています。卒論書いてる研究室みたいなスタッフルームになっていて、ずーっと1日中、国会図書館か大宅文庫で検索して、「童貞」とかのキーワードで引っかかる記事を全部調べるんですけど。1回分作るのに平均でだいたい6、7週間かけてます。そんな深夜番組ないと思いますよ(笑)。
──ADさんは何人くらい?
8人から10人くらい。それだけでは間に合わないんで、明治とか早稲田の学生さんと一緒に(笑)。考え方に共鳴してくれる学生さんがいっぱい協力してくれて、それが12、3名で、計22、3名。みんなで文献を調べ続けるっていう。
──班によって得意なジャンルがあったりするんですか?
意識してなかったんですけどね。やっぱりディレクターそれぞれに得意なジャンルはありました。「人妻」と「白ブリーフ」と「性教育」っていうのは同じディレクターだったんですけど(笑)。この人は「TVチャンピオン」とか「空から日本を見てみよう」みたいな、タレントさんが出ない代わりに自分でふざけて映像を撮ってくるような番組をずっとやってた人なんですけど、エロいのが得意でしたね。
本編収録内容
- 童貞史 前編・後編 / スカートめくり史 / ラブドール史
特典映像
- 平成時代の「知の巨人」&ポットマン教授 スペシャル対談
- (1)「団鬼六と人妻」(大阪府立大学 堀江珠喜教授)
- (2)「セックスレスと日本」(明治大学 鹿島茂教授)
- (3)「オナニーと少子化」(東京大学大学院 赤川学准教授)
高橋弘樹(たかはしひろき)
テレビ東京 制作局プロデューサー・ディレクター。
「TVチャンピオン」「新説!?日本ミステリー」「決着!歴史ミステリー」「ザ・ドキュメンタリー」「空から日本を見てみよう」などのディレクターを経て、「ジョージ・ポットマンの平成史」プロデューサー・演出・構成を担当。