ナタリー PowerPush - 在日ファンク

ハマケン×長岡亮介 “大人のファンク / メロウ”対談

先頃結婚を発表し、絶好調なハマケンこと浜野謙太(Vo)率いる在日ファンクの新作ミニアルバム「連絡」が完成。今回の作品は、ハマケン以外のメンバーが作曲に参加したことでタイトなファンクミュージックにビターなメロウネスがプラスされ、バンドとしての進化が感じられる1枚となっている。この作品の完成を記念して、11月に初の全国流通盤「Problems」をリリースする3人組バンド、ペトロールズからハマケンと親交が深い長岡亮介(Vo, G)を迎え、ファンク談義、メロウ講座を敢行した。

取材・文 / 小野田雄 撮影 / 雨宮透貴

「連絡」は在日ファンクらしさが流れる信頼の作品

──今回はハマケンさんがリスペクトするペトロールズの長岡さんに「ファンクとは、メロウとはなんぞや」という教えを請う、そんな企画をご用意いたしました。

インタビュー写真

ハマケン よろしくお願いします。

長岡 いえいえ、こちらこそ。

──まずレッスンを始める前に、おふたりの出会いについてお伺いしたいのですが。

ハマケン ペトロールズと初めて出会ったのは対バンですね。でも、元々はうちのマネージャーがペトロールズの大ファンだったり、2009年にSAKEROCKとして出演した多摩美(多摩美術大学)の学園祭でたまたま対バンしたりっていうこともあったりしつつ。

長岡 在日ファンクとの最初のライブってどこだっけ?

ハマケン 2010年春の名古屋TOKUZOですね。

長岡 あ、渋滞にハマってすごい遅刻したやつだ(笑)。それでリハなしでいきなり本番に臨んだんですよ。

ハマケン 大遅刻で会場に現れたら「ぶっつけ本番でやるんでお願いします!」って全然大丈夫な感じで。その時点でもちろんペトロールズの音は聴いて知っていたんですけど、「あ、こんなバンドなんだ!?」って思ったんですよね。

長岡 はははは(笑)。片や、在日ファンクはその場を持っていくというか、「観客を絶対に不幸にはさせないぞ、損はさせないぞ」っていうバンド。いやあ、うらやましいですね。

ハマケン ペトロールズって、ライブを観ると毎回間違いなくいいんですけど、僕、音楽に明るくないので(笑)、なんでいいのかがよくわからないんですよ。でも、そういう音楽のほうが自分の中で信頼度が高いという部分もあって。

長岡 聴かせてもらった新しいミニアルバムは、脈々と在日ファンクらしさが流れているという意味で僕にとっては信頼の作品でしたよ。「ファンクじゃなくてもいい」っていう部分や、ほかのメンバーが曲を書いたことで加わった差し色も含めて、作品全体で余裕さえ感じられる気がしましたね。

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ハマケン 仰木(亮彦 / G)が最初に「嘘」って曲を持ってきたとき、「え、これ、ペトロールズっぽくない?」って話になったんですよ。これ、長岡さんがいる前だから言うわけじゃないんですけど、僕はペトロールズから受けた影響をどうにかして出したいと思いつつ、それをどうやってやればいいのかわからないんです。だから、仰木が持ってきた曲に対しては「僕がやりたいと思っていたことをやられちゃった」っていう思いもあったんですよね。ペトロールズが持つ余裕、そして余裕もあるんだけどグルーヴもあり、さらにグルーヴもあるんだけど泣ける要素もある。そういう音楽をなんとかしてやりたいと思うんですけど、自分から出てきたのはベタベタのバラードだったり。まあ今回は、仰木のおかげでその余裕みたいなものがいい形で作品に昇華されたと思っています。

笑いながら泣いちゃうところが在日ファンクの良さ

──そんな在日ファンクとペトロールズにはファンクという共通項がありますよね。

ハマケン ファンクって、やればやるほどよくわからなくなるんですよね。

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長岡 うん。ファンクってそういうものかもね。ただ、ハマケンはファンクをやろうとしてるけど、俺は意識してないんですよ。まあ「ベースのジャンボ(三浦淳悟)がステージに立ってれば、見た目的にちょっとファンクっぽいかな」っていうくらい(笑)。俺らの曲ってものすごいシンプルだから、ベースのパターンが重要だったりするんですけど、ファンクに造詣が深いジャンボがファンキーなフレーズを出してきたときに「そう、それそれ」っていう程度ですよ。

ハマケン ははは(笑)。そういうところがうらやましいんですよね。ファンキーなノリは、みんなで集まって「ここを揃えて!」っていう練習をすればいいわけじゃないというか。ペトロールズにしても、それぞれの練習量は多いと思うんですけど、「ここを合わせよう!」っていう練習をみっちりやってるわけではないですよね?

長岡 うん、そうそう。

ハマケン 在日ファンクの場合、僕がメンバーに「こうしてくれ」って伝えながら作っていくので、その点は全然違いますよね。僕としてはペトロールズがやってるファンクネスに向かっていきたいんですけど、これがなかなか。

長岡 ファンクの中のジャンルが違うってことなんだよね。在日ファンクは正真正銘のファンク、ペトロールズはファンクを調味料的な感じで匂わせたいっていう。

ハマケン あとペトロールズはかたくなに日本語でやってるじゃないですか?

長岡 そう、それでいいと思ってるんですよね。昔、ロンドンのパブで働いている知り合いがOASISのエージェントから「なんか面白い音楽ない?」って訊かれて、「知り合いにペトロールズっていう日本語のバンドがいるよ」って答えたら、「もう英語の音楽はみんな飽きてるから、それはいいね」って言われたらしいんですね。あとからそれを聞かされて、「日本人は英語にコンプレックスを抱くことなく、日本語で表現すればいいんだな」って思ったんですよ。

──ただ、どうして英語を使いたくなるかというと、ファンクでも、ロックでも、外来の音楽は向こうの言葉のリズム感とか語感がベースになっていて、日本語が乗せにくいということも要因としてはあったりしますよね。

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ハマケン 確かにファンクに日本語を乗せるのは難しいとは言われてますけど、俺らはその道を選んじゃってますからね。

長岡 しかも、そこにちゃんとストーリーがあったり、気持ちの流れを感じさせている言葉を乗せているわけだから、在日ファンクにおける日本語音楽のレベルはすごいなと思うんですけどね。

ハマケン そう言ってもらえて本当にうれしいです。在日ファンクって(歌詞が)意味ないとかくだらないとか、よく言われるんですけど、自分としてはすごい意味を乗せてるつもりだったりして。

長岡 うん、乗ってるよね。しかも、乗っているんだけど、肌触りとしてずしんと感じさせないところ、笑いながら泣いちゃうところが在日ファンクの良さだよね。

CD収録曲
  1. ホームシック
  2. 電話<Interlude>
  3. ダチ
  4. 英会話<Interlude>
  5. 肝心なもんか
  6. 俳句<Interlude>
  7. 不思議なもんでさ
CD収録曲(順不同)
  • カザーナ
  • ASB
  • モラル
  • エイシア
  • 止まれ見よ
在日ファンク(ざいにちふぁんく)

プロフィール画像

浜野謙太(Vo)を中心に2007年に結成された7人組のファンクバンド。メンバーはハマケンのほかに、村上啓太(B)、仰木亮彦(G)、永田真毅(Dr)、後関好宏(Sa)、ジェントル久保田(Tb)、村上基(Tp)。結成当初は「浜野謙太と在日ファンク」名義で活動していたが、2010年6月に1stアルバム「在日ファンク」をリリースしたタイミングで現在のバンド名に改名した。さらに同年10月からサイトウ“JxJx”ジュン、サイプレス上野とロベルト吉野、ROY(THE BAWDIES)らとのコラボシングルを3カ月連続で発表。2011年には2ndアルバム「爆弾こわい」をリリースし、翌2012年1月にはシングル「爆弾こわい -岡村靖幸REMIX-」が発売された。そして同10月3日にミニアルバム「連絡」を発表。

ペトロールズ(ぺとろーるず)

プロフィール画像

長岡亮介(Vo, G)、三浦淳悟(B)、河村俊秀(Dr)によるスリーピースバンド。2005年に結成され、下北沢のライブハウスを中心に活動を開始する。ライブ会場限定で数々の作品をリリースしている。結成7年目にして初の全国流通アルバム「Problems」を2012年11月に発売する。