ナタリー PowerPush - 嘘つきバービー
アルバム「ニニニニ」でメジャー進出 異色スタイルの裏側を明かす
ひとり劇から会話劇になったアルバム
──歌詞書くのって、やっぱり楽しいですか?
岩下 めちゃめちゃ好きですね。とっかかりが演劇とか小説で、それを音楽に変換しようとしてきたから、歌詞を書くのはめっちゃ好きです。楽曲ができあがって「さあ、歌詞を乗せるぞ」ってときが一番楽しい。
──でも、何か言いたいことだったり、メッセージがあるわけでもなくて。
岩下 ないですね、言いたいことは。やっぱり劇の要素が強いから、「この登場人物がこんな行動したら面白いだろうな」っていう感じなんで。そのなかにある切なさみたいなものが見えればいいかな、と。「世界を変えなきゃ」みたいなことはまったくない。
──逆に言うと、楽曲の世界観とか舞台設定はすごく明確なんでしょうね。
岩下 そうですね。設定はちゃんと考えてます。ただ、それを説明するのは何か違うんですよね。歌詞だからこそできるギミックも駆使してるつもりだし、繰り返して聴いたり、何年後かに聴いてもらえれば、また感じ方も変わってくると思うんですよ。僕が「この曲はこうで……」って説明しちゃうと、1個のカタチができちゃうじゃないですか。
──なるほど。ひとつ感じたのは、歌詞が以前よりもシンプルになってる気がするんですけどね。要素を詰め込まなくなった、というか。
岩下 あ、それはそうですね。今まで作ったやつとかって、歌詞だけで起承転結をつけようとしてたところがあって。
──言葉の比重が高すぎた?
岩下 うん。でも、最近は「そこにギターやドラムがあってもいいのかな」って思ってるんですよね。せっかく音楽で表現してるんやから──僕らって、アルバムを作るときは前の作品を否定するところから始めるんです。で、前のアルバムを聴くと「何かもう、いろいろ言い過ぎてるな」っていうのがあって。あと、「いいギター弾いとるな」とか。
千布 (笑)。
岩下 ギターとかドラムが出せる「言葉的なもの」もあると思ったんですよね。ひとり劇から会話劇になった感じですかね、今回は。
──ライブもスタイルも、そういうイメージですよね。ギター、ベース、ドラム、歌がそれぞれ役を持ってるというか、全体的に芝居を観てるような感覚があって。
岩下 うん、そういうふうに観てもらえるのがいちばんいいカタチだと思います。ライブだからガチガチに固めてるわけじゃないですけど、みんなで演出もしてるし。まあ、さっきの歌詞の話と同じで、そこを説明しすぎるのは良くないと思いますけどね。「こういう部分は演出で」とか、あんまり教えたくない。
「人と違うことをやりたい」ってこと自体が人と同じ
──千布さんがイスに座ったまま演奏するっていうのは、最初からなんですか?
千布 いちばん最初は立って弾いてましたけど、わりと早い段階で座るようになりましたね。きっかけは足を怪我したことなんですけど。
岩下 しょうがなく座って弾いてみたら「あ、この見え方、面白くない?」って。
──他のバンドとは違う見せ方がしたい、っていう気持ちもありますか?
岩下 いや、どうですかねえ? ずっと前は「人と違うことをやる」ってことに重きを置いてましたけど、「人と違うことをやりたい」ってこと自体、人と同じじゃないですか。
──他の人たちも「人と違うことをやりたい」って思ってるっていう……。
岩下 そういうのがね、なんか恥ずかしくなっちゃったんですよ。だから今は、そこまで意識してないですけどね。まあ、やりたいことがやれればいいかな。
──なるほど。メジャーからのリリースになっても、世界観もスタイルもまったく変わらないですからね。むしろ、さらにディープになってるっていう。
岩下 そこはもう、最初から「好きなようにやればいいよ」って育てられてきたバンドなんで。
──たとえば「この歌詞、ちょっと直して」なんていう提案は、まったく受け入れられないわけでしょ?
岩下 いや、意外と直すかもしれないですよ。「あ、そうですか」って。
──(笑)。次の展開も考えてますか?
岩下 まあ、だから、思いついたことをやれればいいかな、と。長く続けるとかいうよりも……いや、別に解散するわけじゃないですけど。
──長く続けることが目的になるよりも、ってことですか?
岩下 あ、そうです。長く続けるのが目的になるんじゃなくて、そのときに思ったことをやりたいです。あと、いろんな壊し方をしていきたいし。もうひとつは、あんまり音楽を好きにならないこと、ですかね。
嘘つきバービー(うそつきばーびー)
2002年に長崎県佐世保市で岩下優介(Vo, B)、千布寿也(G)、豊田茂(Dr)の3人が結成した「ロック」バンド。地元・佐世保を中心にライブ活動を繰り広げ、2007年3月に初音源となるミニアルバム「子供の含みぐせ」をタワーレコード限定でリリース。2008年より活動拠点を東京に移し、同年11月に初のフルアルバム「問題のセカンド」を発表する。2009年には「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2009 in EZO」に出演し、入場規制がかかるほどの盛況となった。2010年10月には東京と大阪で、落語家をオープニングアクトに迎えた異色のワンマンライブを敢行し、大きな注目を集めた。2011年4月、メジャーデビュー作となるフルアルバム「ニニニニ」をリリース。