音楽ナタリー Power Push - 上坂すみれ

“革ブロ”リブート前夜に放つ キラキラ&キワキワのディスコチューン

「気怠くぼんやり」日常を歌う

──ところがカップリングの「ツワモノドモガ ユメノアト」はラウドロック系のバラード。タイトルといい、重たいギターサウンドに乗っかる上坂さんの気怠げなボーカルといい、モラトリアムというよりは終末感がハンパないというか……。

上坂すみれ

ゲームオーバー画面で流れてきそうですよね(笑)。でもこれもモラトリアムな今だから歌えた曲なんだと思ってます。革ブロが精力的に活動中だったら、これまでの5枚のシングルのように同志諸君を鼓舞する曲を歌うべきだったと思うんですけど、今はひとまずなんの冠もないですし。こういう機会でもないと、何かが一旦終わってしまった光景を気怠い感じでぼんやりと歌うことはできなかったはずですから。

──「Inner Urge」のボーカルスタイルが「愉快に楽しく」であれば、この曲は「気怠くぼんやり」?

そうですね。サビに向かって楽器は派手になるんですけど、歌詞は強い意思や悲観を歌ったものではなく、あくまで俯瞰している感じだったので。最後に「人を信じてまた 泣くのもいい」ってちょっとだけやる気を出してはいるものの、そんなにハツラツともしていないので、ちょっとぼんやりした歌い方にしてみました。あと歌詞の中に「ぼんやり見てる」って書いてあったので(笑)。

──あはははは(笑)。

ただ実は今もその歌い方が正解だったのか、わかってなくて……。「Inner Urge」は、どう考えてもつまらなそうに歌う曲ではないから正解がハッキリしていた。「愉快に楽しく」というたった1つの正解を導き出す、ある意味数学的な曲だと思うんですけど、「ツワモノドモガ ユメノアト」は国語的。正解は1つではなくて、また別の歌い方があったのかな?っていう気もしています。

──トラックのノリに寄り添ってシャウトするのも手ではありますよね。でもハードな楽器隊と上坂さんの気怠げなボーカルの熱量のギャップが面白かったし、独特の浮遊感を生んでいます。

そう聴いてもらえるとうれしいですね。カッコいいギターサウンドに乗せて、訥々と「今日はこんなことを思いました」って報告をするだけの曲ってけっこう珍しいと思いますから。

──「探して 探して 迷っても」「希望なんかあるの? 何処に」ってかなりネガティブに歌ってますけど、これ近況報告なんですか?

すごく日常に寄せた歌詞のような気がするんですよね。「我旗の元へと集いたまえ」なんかはタイトルからして「仲間を集めて隊列を組み」っていう、ある種のリーダーシップを歌った曲だったと思うんですけど、この曲の主人公はリーダーシップを発揮する人ではなくて。もっと一般の人というか雑兵、つまりは普段の私ですから(笑)。

──普通日常の歌っていうと……。

「おはよう! まぶしい太陽」「今日のブランチはスクランブルエッグ」みたいな歌だとは思うんですけど、私がそういうことを歌ったらすごく異質ですよね?

──失礼ながら「ラッシュアワーの地下鉄でカレと目が合ってラッキー!」みたいな歌はあまり似合わない気はします(笑)。

ですよね。でも、私が歌ってみたら皮肉めいてていいかもしれないですね。今度提案してみます(笑)。

まずはヨガスタジオを作ります!

──じゃあ、モラトリアムが終わったらまず、みんなの日常であり、上坂すみれの非日常を歌うことになりそう?

いや、やっぱりそれはちょっと……。でもホントに何をしようかなあ?「生産!」「団結!」「反抑圧!」っていうスローガンを三唱したり、最後に「Ура!」って合唱したり、革ブロのいいところは生かしつつも「決起集会 vol.○」みたいなナンバーを振らないイベントはやってみたいです。

──ナンバリングシリーズにはしたくない?

上坂すみれ

これ以上数字を重ねるのは……っていう感じですね。例えば私が昨日上坂すみれという存在を知ったとして、「ライブに行ってみようかな」ってネットを検索したときに「革命的ブロードウェイ主義者同盟 決起集会 vol.13」って出てきたら「vol.13って……。にわかはもう行けないよ……」って心が折れちゃうと思うので(笑)。

──実際の決起集会は連続性のあるイベントではなかったんだけど、マンガの単行本を13巻から買わされるような感覚になる人もいるかもしれない、と。

だから読み切り形式というか、毎回趣向に合わせてタイトルを変えたら、もっといろんな人に遊びに来てもらえる気がするし、こちらの自由度が上がるとも思っていて。「ソ連をネタにしたいな」と思ったら、タイトルに縛られることなくそういう組織やイベントを作ればいいし、ときどき決起集会的なものを復活させたっていいわけですし。なので、これからはその場限りの組織をとにかく乱発していこうかなって思ってます。

──なんかフロント企業を作っちゃあ潰す非合法組織みたいな話になってますよ(笑)。

それいいですね! 表の顔と裏の顔があるのにはすごく憧れますから。ヨガスタジオだと思って入会してみたら、実はそこは鶴田浩二率いる一大任侠組織だったみたいな(笑)。じゃあ、まずはヨガスタジオを作ります!

ニューシングル「Inner Urge」 / 2015年7月22日発売 / STARCHILD
初回限定盤 [CD+DVD] / 1836円 / KICM-91617
「Inner Urge」初回限定盤
通常盤 [CD] / 1296円 / KICM-1617
アニメ盤 [CD] / 1620円 / KICM-91618
初回限定盤、通常盤CD収録曲
  1. Inner Urge
    [作詞・作曲:松浦勇気 / 編曲:橋本由香利]
  2. ツワモノドモガ ユメノアト
    [作詞:椎名可憐 / 作曲・編曲:牧元芳朗(strip)]
  3. Inner Urge off vocal ver.
  4. ツワモノドモガ ユメノアト off vocal ver.
初回限定盤DVD収録内容
  • 「Inner Urge」PV
アニメ盤収録曲
  1. Inner Urge
  2. ツワモノドモガ ユメノアト
  3. Inner Urge off vocal ver.
  4. Inner Urge TV size mix
上坂すみれ(ウエサカスミレ)

上坂すみれ

ソビエト社会主義共和国連邦が崩壊した1991年生まれの声優、アーティスト。小学生時代よりジュニアモデルとして活動し、2012年テレビアニメ「パパのいうことを聞きなさい!」の小鳥遊空役で本格的に声優デビューを果たす。以来、注目作に出演する一方でメディアやイベントなどを通じて、無類のロリータファッションマニア、ソ連・ロシアマニア、ミリタリーマニア、音楽マニアであることがファンの知るところに。そして2013年4月、その趣味の世界をダイレクトに反映したシングル「七つの海よりキミの海」でアーティストデビュー。その後も桃井はるこ作詞作曲の「げんし、女子は、たいようだった。」や、大槻ケンヂ作詞、NARASAKI作曲の「パララックス・ビュー」など話題作を立て続けにリリースし、2014年1月には1stアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」を発表する。また同年7月、及川眠子、サエキけんぞう、窪田晴男、谷山浩子らを作家陣に招いた4thシングル「来たれ!暁の同志」を、12月には5thシングル「閻魔大王に訊いてごらん」と自薦の80年代アイドルナンバーをコンパイルした「上坂すみれ presents 80年代アイドル歌謡決定盤」を発売。そして2015年7月、約7カ月ぶりとなるシングル「Inner Urge」をリリースした。