ナタリー PowerPush - suzumoku
力強いメッセージを込めたアコギ1本勝負作
suzumokuがアコースティックギターによる弾き語りアルバム「80/20 -Bronze-」をリリースした。この作品は、いわば彼のミュージシャンとしての真髄を示す作品になっている。過去に発表した9曲と新曲3曲を収録した計12曲。どれもアコギ1本でありながら、鋭く胸をえぐるような熱量の高い曲になっている。「モダンタイムス」や今年3月11日にリリースされたシングル「蛹 -サナギ-」、新曲「愛しの理不尽」など、社会的なメッセージの強い楽曲も多い。
今年3月から音響機材を一切使わない弾き語りのスタイルで全47都道府県50公演のツアーを回ってきた彼。そこで得た経験について、新作について、そして彼の音楽の持つ強みについて、じっくり語り合った。
取材・文 / 柴那典 インタビュー撮影 / 佐藤類
人間味あふれる47都道府県ツアー
──ツアーを終えてみていかがですか? 今回は生声とギターだけによるアンプラグドライブということで、通常のツアーとは全く違う体験だったと思うんですけれども。
まずは、ホントにありがたいことを経験させてもらったという気持ちが大きいですね。場所もカフェやバーが多くて、しかもマイクやスピーカーを一切使わないので、お客さんとの距離が本当に近いんです。それだけではなく、お店の方とも距離が近いんですよ。中にはライブが終わった後も、「おつかれさまでした」と言って帰るんじゃなく、そのままお店の方々と朝まで一緒に飲んだりするようなこともあって。そこでの出会いもたくさんあったし、すごく人間味あふれるツアーだったなって思いますね。
──ミュージシャンとしてのスキルという面でも、得たものはたくさんあるんじゃないかと思いますが。
ありますね。まず、声のスムーズな出し方ができるようになった気がします。喉が疲れにくくなったし。ツアーの序盤では声がかすれ気味になったり、喉が痛くなったりするときもあったんですけど、後半は3~4日連続でも声を出せるようになってきた。声が"飛ぶ"ようになった感覚があるんです。喉が鍛えられてきたというか、声が無理なく出せるようになってきたような気がしますね。
アコギでも裏切りたい
──今回の「80/20 -Bronze-」も、弾き語りツアーをやっている中で発案された作品だったんでしょうか?
いや、実はそういうわけではなくて。昨年に「Ni」というアルバムをリリースしたんですが、それがエレキギターの弾き語りのアルバムだったんですよね。じゃあ、次にやるならアコギだよねっていう感じがあって。「Ni」は沖縄でレコーディングした作品だったんですけれども、今回の作品もツアーで訪れた沖縄に滞在して、そこでレコーディングしたんです。自然な流れでしたね。
──前作の「Ni」は、とても緩やかで心地良い感触のあるアルバムだったと思うんですが、今回は全く違いますね。
そうそう、対極的ですよね。
──それは「Ni」を作った時点で、次の作品のイメージがあったんでしょうか?
それもあんまりなくて。最初はアコギでもすごくオーガニックな雰囲気のあるものを作ろうと思ってました。でも「それって普通なんじゃないのかな?」って思い始めて。エレキギターなのに弾き語りでゆったりしたものを作ったのであれば、今度はアコギでいい意味で裏切りたい。だったら、思いっきりアコースティックギターをかき鳴らして歌い込むスタイルで録りたいなっていう気持ちになってきたんです。
──僕としては、こういう曲調のほうがsuzumokuさんの王道だという印象があります。
そうですね、僕自身もこういう曲のほうが好きです。きっと根が暗いんでしょうね(笑)。
ニューアルバム「80/20 -Bronze-」/ 2012年7月11日発売 / 2500円 / apart.RECORDS / APPR-2506/7
suzumoku(すずもく)
1984年生まれ、静岡出身のシンガーソングライター。名古屋の楽器制作の専門学校で、ギターやベースの製作を行いつつ、自身もロックやカントリーに影響を受けた音楽を制作するようになる。駅前のストリートやライブハウスでの活動を始めるものの、就職と同時に音楽活動を休止する。その後再び音楽の道を志し、2007年1月に上京。同年10月にアルバム「コンセント」でデビューを果たす。その後、精力的なリリースとともに、弾き語りやバンドスタイルでのライブを展開する。2011年7月にエレキギターによる弾き語りアルバム「Ni」を発表。「真面目な人」「蛹 -サナギ-」というメッセージ性の強い2作のシングルを経て、2012年7月にアコースティックギターによる弾き語りアルバム「80/20 -Bronze-」をリリースした。