音楽ナタリー Power Push - 佐藤竹善(SING LIKE TALKING)×atagi(Awesome City Club)×角舘健悟(Yogee New Waves)×高橋海(LUCKY TAPES)

佐藤竹善が新鋭“シティポップ”バンドに望むこと

SING LIKE TALKINGがニューシングル「Longing ~雨のRegret~」をリリースした。

音楽ナタリーでは今作の発売を記念して、佐藤竹善(SING LIKE TALKING)、atagi(Awesome City Club)、角舘健悟(Yogee New Waves)、高橋海(LUCKY TAPES)による座談会を企画。4者の音楽に共通する「シティポップ」というキーワードをもとに、現在のシティポップムーブメントやそれぞれのルーツについて語り合ってもらった。

取材・文 / 三宅正一(ONBU) 撮影 / 西槇太一

AORは広告的、今のシティポップは音楽的

──今って、例えばブラックミュージックを由来としたリズムやグルーヴに意識的であったり、心地よく体を揺らせられるサウンドにポップな歌を乗せるインディー色の強いバンドであれば「シティポップ」と一括りにされるような潮流があって。竹善さんはシティポップというワードやジャンルをどのように捉えていますか?

佐藤竹善(SING LIKE TALKING)

佐藤竹善 僕らが大学生くらいのときにシティポップというワードが出てきたんですよ。あの頃シティポップと呼ばれていた音楽の多くは、今で言えばJ-POPのちょっと都会版くらいのニュアンスで。僕は、最近またシティポップというワードが注目されていて、その中で活躍している若いバンドがたくさんいるということを1カ月前くらいに知ったんです。ここにいる3人のバンドの音源も聴かせてもらって、みんなそれぞれ先駆的な挑戦をしているなと思いました。1980年代くらいのシティポップの概念って、海外のオシャレなサウンドと日本のドメスティックなメロディを合わせるくらいのものだったんですよね。その点、3バンドの音源を聴くと、アンサンブル、メロディ、歌詞のコンセプト……どれをとっても挑戦的かつ自由ですよね。僕にとっては今のシティポップと呼ばれる音楽のほうがずっと魅力的だし、聴いていてうれしくなります。

角舘健悟 おおっ! うれしいな。

──初期のSING LIKE TALKINGは、AORというワードで語られることも多かったと思うんですけど。

佐藤 うん、そうですね。初期はブルーアイドソウル的な曲調が多くて。今のシティポップもそうかもしれないけど、当時もAORという言葉が一人歩きして、レコード会社がバンドを売るための安直なカテゴリー付けみたいな感じになっていたんですよね。白人がやるようなソウルフルでジャジーなロックであれば、AOR=オシャレと一括りにされるような流れがあったんです。僕らはそれに対して疑問を持ちつつもリスナーに聴いてもらえるならいいかと思っていたところもあって(笑)。でも、今のシティポップと呼ばれているバンドのほうがずっと音楽的な思いを強く感じる。昔のAORって広告マン的な発想が全面に出ちゃっていたから。「BMWでドライブするならこういう音楽を聴きましょう」みたいなね(笑)。

atagi(Awesome City Club)

atagi バブリーですねえ(笑)。

佐藤 そういう感じだったから、かなり玉石混交な状況でしたね。当時はメジャー至上主義で、インディーズ=アングラで格下みたいなイメージが先行してましたから。ある程度の制作費が出ないとスタジオでレコーディングもできないし、少ないバジェットでいい音を作れる環境がなかった。そうするとメーカーサイドの思惑ありきで売りやすい音楽ばかりが世に出ていくわけですよね。でも、今はインディーズというフィールドがメジャーのカウンターカルチャーとしても機能していて、そこにいるアーティストたちはより自由に音楽を創造しているという印象が強くあります。そこまでお金をかけなくてもいい音で録れる時代にもなりましたしね。今は逆にメジャーがインディーズに見習うべきことが多いという逆転現象も起きてるんだろうなと。だから、僕は今のインディーズバンドがうらやましいし、時代が違えばここにいる3人と同じフィールドにいたと思いますね。

シティポップ云々に関してはどうでもいい

──ヨギーはあえてメジャーに行かないというスタンスを強く感じるけど、どうですか?

角舘 うん、そうですね。やっぱり自分たちは好きな音楽だけを作りたいし、好きなように活動したいから。例えばメジャーに行って「こういう曲を作ってください」って言われても作りたくない。だからヨギーは作りたい音楽をひたすら作る音楽集団という感じで、もし大人からの要望を受けるなら別のプロジェクトを立ち上げたほうが健康的だと思ってます。今のインディーシーンにはやりたいことをやって注目されてるバンドが多いから、それは純粋にうれしいですね。

──Awesome City Clubはメジャーレーベルに属しながらインディー的なマインドをいかに残せるかを意識しているように思います。最近クラウドファンディングを実施して「アウトサイダー」のシングルCDと7inchレコードを制作したのもそういう意識の一端なのかなと(参照:目指せ100万円!Awesome City Club“クラウドファンディングシングル”募金開始)。

atagi 自分たちでは特に変わったことを率先してやろうとしているわけではないんですけど、メンバーには僕も含めて長くインディーシーンにいた人が多いので。自然と無邪気な活動のあり方になっているところはあるかもしれないですね。

佐藤 クラウドファンディングが出てきたときに、これはミュージシャンが率先して活用すればいいのにって思ったんですよ。そうか、もうやったんだね。

角舘健悟(Yogee New Waves)

角舘 クラウドファンディングって、言ったらアーティストとパトロンという、芸術の歴史では古くからある支援の形の現代版みたいなものじゃないですか。そういう意味ではああいうシステムがあるのはすごくいいと思うんですよね。いつの時代もパトロンの存在がアートを守る側面があると思うし。

佐藤 うん。「金を出すからこういう作品を作れ」ではなくて、あくまでアーティストの才能にお金を投資するのが本当のパトロンで。

atagi そうですよね。どの時代でも作品やアーティスト性に魅力がなければパトロンにはなってもらえないと思うし。

──クラウドファンディングのおかげでそういう関係性がインディーでも築けるようになったと。LUCKY TAPESのスタンスはどうですか?

高橋海 LUCKY TAPESはホーン隊やストリングスをはじめ多くのサポートメンバーを迎えてライブをやってるんですけど、今後はもっとバンドという枠組みから飛び出した曲作りや活動をしたいと思ってるんですよね。だからシティポップ云々に関してはどうでもいいというか(笑)。

佐藤 これはたぶん3人も同じ意識だと思うんですけど、僕らも若い頃にAORという枠組みに入れられて、それに対する拒否反応もあったんですよ。最終的にはロックだろうがメタルだろうがソウルだろうがジャズだろうが、自分が面白いと思ったさまざまな音楽を自由に受け入れて、昇華した音楽がAORと呼ばれるならそれはそれでいいなと思うようになって。そう考えたら、フランク・シナトラだってLed ZeppelinだってThe BeatlesだってAORじゃん、みたいな(笑)。そういうふうに解釈すれば、今のシティポップというワードも自分たちの音楽の概念を邪魔するものにはならないと思う。要は自分の音楽に対する信念をそれぞれのバンドが守れたらいいんですよね。

SING LIKE TALKING ニューシングル「Longing ~雨のRegret~」2015年10月7日発売 / UNIVERSAL MUSIC JAPAN
「Longing ~雨のRegret~」 / Amazon.co.jp
初回限定盤 [2CD] 2700円 / UPCH-7052~3 / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 1296円 / UPCH-5858 / Amazon.co.jp
収録曲
  1. Longing ~雨のRegret~
  2. The Ruins ~未来へ~
  3. Waltz♯4
初回限定盤BONUS CD収録曲
  1. Openig(INTRODUCTION~WALTZ#3)
  2. Ordinary
  3. Hold On
  4. How High The Moon ~ Together
  5. 無名の王 -A Wanderer's Story-
  6. 離れずに暖めて
  7. 祈り
  8. リンゴ追分 ~ La La La
  9. I'll Be Over You
  10. My Desire ~冬を越えて
SING LIKE TALKING Premium Live 27/30 ~シング・ライク・ストリングス~
  • 大阪公演
    2015年10月11日(日)大阪府 オリックス劇場
    OPEN 16:45 / START 17:30
    【問い合わせ】SOGO OSAKA 06-6344-3326
  • 東京公演
    2015年10月12日(月・祝)東京都 昭和女子大学 人見記念講堂
    OPEN 16:45 / START 17:30
    【問い合わせ】SOGO TOKYO 03-3405-9999
SING LIKE TALKING ニューシングル発売記念 生出演スペシャルプログラム
SING LIKE TALKING(シングライクトーキング)

SING LIKE TALKING佐藤竹善(Vo, Key, G)を中心に藤田千章(Syn, Key)、西村智彦(G)の3人によって1982年に結成。同年プロデビューを目指して上京し、オーディションでのグランプリ受賞などを経て、1988年9月にシングル「Dancin' With Your Lies」でメジャーデビューを果たす。佐藤の透明感あふれる美しいハイトーンボイスとエバーグリーンで高品質な楽曲は、一般の音楽ファンだけでなく耳の肥えたリスナーも魅了。特に佐藤の圧倒的な歌唱力は同業者からも絶賛され、他アーティストのコーラスを務めたほか、小田和正や塩谷哲とはユニットも結成し活動を行った。2003年にアルバム「RENASCENCE」のリリースとそれに伴うツアーを行ってからは、バンド活動を休止。メンバーはそれぞれソロ活動や他アーティストのサポート、プロデューサーとして活躍してきた。2009年にイベントでひさしぶりにライブを行った後、再始動に向けて準備期間に突入。2011年3月にシングル「Dearest」、5月にアルバム「Empowerment」を立て続けにリリースし、本格復活を果たす。2015年10月にニューシングル「Longing ~雨のRegret~」をリリース。このシングルは2018年のデビュー30周年に向けたカウントアップライブ「Sing Like Talking Premium Live 27/30 –シング・ライク・ストリングス-」に向けて制作された、ストリングスをフィーチャーした作品となっている。

Awesome City Club(オーサムシティークラブ)

Awesome City Club「架空の街Awesome Cityのサウンドトラック」をテーマに、テン年代のシティポップを“RISOKYO”から“TOKYO”に向けて発信する男女混成5人組バンド。2013年春、それぞれ別のバンドで活動していたatagi(Vo, G)、モリシー(G, Syn)、マツザカタクミ(B, Syn, Rap)、ユキエ(Dr)により結成。2014年4月、サポートメンバーだったPORIN(Vo, Syn)が正式加入して現在のメンバーとなる。初期はCDを一切リリースせず、音源はすべてSoundcloudやYouTubeにアップし、早耳の音楽ファンの間で話題となる。ライブを中心に活動しており、海外アーティストのサポートアクトも多数。2015年、ビクターエンタテインメント内に設立された新レーベル・CONNECTONE(コネクトーン)の第1弾新人アーティストとしてデビュー。4月にmabanuaプロデュースの1stアルバム「Awesome City Tracks」、9月に2ndアルバム「Awesome City Tracks 2」をリリースした。

Yogee New Waves(ヨギーニューウェーブス)

Yogee New Waves2013年6月に結成された「都会におけるPOPの進化」をテーマに活動する音楽集団。現在はKengo Kakudate(G, Vo)、Naoki Yazawa(B)、Tetsushi Maeda(Dr)の3人にサポートギタリストを入れた形で活動している。2014年4月に4曲入りの「CLIMAX NIGHT e.p.」を全国流通させ、9月に1stアルバム「PARAISO」を発表した。アルバムのリリースツアーでは全国8カ所を周り、ツアーファイナルの東京・TSUTAYA O-nest公演はソールドアウト。12月にはNew Action!と共催で新宿の3会場を使ったサーキットイベントを開催し、こちらもソールドアウトを記録している。

LUCKY TAPES(ラッキーテープス)

LUCKY TAPES高橋海(Vo, Key)、田口恵人(B)、濱田翼(Dr)、高橋健介(G, Syn)からなる4人組。結成直後に発表した5曲入りの作品「Peace and Magic」はわずか3カ月で完売し、2015年4月にデビューシングル「Touch!」をリリース。8月には得能直也をエンジニアに迎え、デビューアルバム「The SHOW」を発表した。